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覇王様の子守唄  作者: 日明
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氷の覇王の覚悟

「通せよ!!俺は王に会わねえといけねぇんだ!!!」

「礼状もない者を通す訳にいかん!!」


 少年と門兵は押し合いをし、お互い一歩も譲らなかった。その時、王とマルドアが現れ門兵と少年は目を丸くする。


「下がれ。俺の客人だ」


 王のその言葉で門兵は同時に引き下がった。


「シンだったな。俺に何用だ?」


 門兵と争っていたのはディーナの幼馴染であるシンだった。


「これ!あんたなら分かるか!?」


 つかみかかるようにシンが突き出して来た物を見て王は目を丸くする。


「それ・・・は・・・」


 それは、ディーナに贈った黒猫の置物だった。


「分かるんだな!?」

「・・・俺がディーナに贈った物だ。これをどうして貴様が持っている」


 王の問いにシンは目を見開き、歯を食いしばった。


「ディーナが・・・恐らく誘拐された」


 王もマルドアも同時に硬直する。


「その現場らしきところにこれが落ちてたんだ」


 王はシンの肩をつかみ、真っ直ぐ瞳を見つめる。


「詳しく説明しろ」

「俺もよく分かんねぇよ!!朝ディーナがいなくて…皆で探したら山道にこいつが落ちてて・・・。少し地面が荒れてた。誰のもんか分かんなかったけど、あんたの言葉で確信になった」


 シンは王にすがるように服をつかむ。


「頼む!!ディーナを助けてくれ!!俺たちだけの力じゃ難しいんだ!!」

「何か他に情報があるのか?」

「・・・ディーナをさらったのは、フルール王国の奴だ」

「その理由は?」

「馬の蹄の痕だ。あそこは馬の蹄が花の模様になるように細工してる。それが残ってた」

「これが本当なら国際問題ですよ」


 マルドアの言葉に王は暫し沈黙した。やがて、口を開いて出た言葉にシンは目を見開いた。


「一人のために国同士で争う訳にはいかん」

「陛下!?」


 マルドアも驚き、声を張り上げる。


「何を言っておられるのですか!?ディーナは・・・「マルドア」


 咎めるように名前を呼ばれ言葉が止まる。


「俺は・・・王だ。多を優先し個を捨てなければならない」


 振り上げられた拳が王の頬に叩きつけられた。殴ったのはシンだ。


「見損なったぞテメー!!!」


 慌てて門兵がシンを抑えるもそれでもシンは王に飛びかかろうとあがいた。


「ディーナがあんたを褒め称え!あんた自身もディーナを労わってた!!それを見たから俺はディーナがここで過ごすことを認めた!!ディーナが幸せならそれでいいって思ったからだ!!でもあんたはそんなディーナを使い捨てみてぇに村に戻した!!ディーナがどんな気持ちだったと思ってんだ!?意味がねぇ、邪魔な存在で、あんたに必要とされない人間だって思い込んでやがる!!」


 ピクリと王が反応する。


「あんたにとってディーナはなんなんだよ!!ただの道具か!?ふざけんな!!ディーナはあんたの傍でまた歌いたいって泣いてたんだぞ!!手紙も何度も何度も書き直してた!!その内容は全部アンタに向けての言葉だった!!でもまたいらねぇって否定されるのが怖くて書けずにいる・・・っ。そんな臆病な女の子なんだよ!あいつは!!そんなあいつが覇王の傍でずっと頑張ってきたんだぞ!?あんたのために何かしたいって動いてたんだぞ!?その仕打ちがこれかよ!!!ふざけんじゃねぇ!!!」


 心の底から怒鳴るシンを今度はマルドアが殴り飛ばした。


「貴様こそ好き放題ほざいてふざけるなよ・・・っ」

「マルドア。やめろ」


 この時だけはマルドアの耳に王の命令は入ってこなかった。


「王がどんな気持ちでディーナを手放したと思っている!!!ただひたすらにディーナの幸せだけを願い、自身のことなど考えず見送ったのだ!!この方が1日にどれくらい寝られていると思っている。数時間にも満たない!!その時間も悪夢によって更に減る!それでも・・・っそれでも国のために尽くされている王がこの世界にどれほどいる!?王の職務がどれほどのものかも知れずに好き放題ほざくな!!!」


 睨み合う双方の間に王が立った。


「やめろ。ディーナには本当にすまないことをしたと思っている」

「今更謝罪なんて遅ぇんだよ!!王様は自分のために尽くしてくれた奴より大勢の民をとらなきゃなんねぇんだからなぁ!!!」

「貴様!」


 再びシンに飛びかかろうとしたマルドアを王が止める。


「そうだな・・・王という立場である限り、個を優先することはできない」

「だったら俺一人でも助けに行く!!国のことなんざ知るかよ!!」

「止めはしない。マルドア――」


 告げられた驚きの言葉にシンもマルドアも大きく目を見開き、硬直した。そして、先に正気に戻ったマルドアは胸に手を当て跪いた。


「承知いたしました」

「頼む」


 シンは王という存在を侮っていた。

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