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覇王様の子守唄  作者: 日明
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氷の覇王の慈しみ

 ディーナは無意識のまま荷造りをし、そして翌日マリアやメイドに見送られ、城を発った。あっという間の出来事だった。馬車に揺られ村へと向かう。


 城へ向かった時と比べ景色は随分変わった。


 やがて、村に着くと皆の視線が一斉に集まった。


「た・・・ただいま・・・」


 反射的に言葉が出た直後、皆がワッと騒ぎ始める。


「ディーナちゃん!?」

「本当かい!?」

「ディーナちゃんだ!!」

「ディー姉が帰って来たよぉ!!」


 皆に囲まれ、その後父と母、姉2人も現れる。


「ただいま・・・。父さん。母さん。お姉ちゃん達」


 四人はディーナを見て幽霊でも見たような顔をしていたが、途端に涙を流しながらディーナに抱きついた。


「ディーナぁぁぁあ!!!」

「お帰りぃ!!」

「よく無事だったねぇ・・・」

「よかった・・・っ。本当に・・・っ」


 抱き締めてくれる腕は温かくて、流してくれている涙は自分への心配の証で。申し訳なさと共に嬉しさが溢れた。


「心配かけてごめんね・・・」


 両親と姉の背を擦っていると今度はシンが現れた。


「ディーナ・・・?」

「シン」


 両親と姉が離れた直後、勢いよくシンに抱き締められた。


「お帰り・・・っ」

「ただいま・・・」


 大好きな村の皆に囲まれ、大好きな村に戻ってこれた。落ち着く。幸せだ。そう思えた。


 思えるのに・・・何故か胸にぽっかりと穴が空いたようだった。




 王はいつものように仕事をしていた。


 あまりにもいつも通りでマルドアは迷ったが、決断した。


「陛下」


 王は差し出された物に少し驚いた。それはネックレスなどが入る細長い箱だった。


「ディーナからです」


 その名前を聞いた瞬間、王の瞳が激しく揺れた。覇王と謳われたこの人をここまで動揺させられるのはディーナ以外いないだろう。


「これを受け取られるも受け取られないも貴方次第です。私は貴方のご意思に従います」


 王は暫し考え、ためらい、そして、受け取った。そっと開けたその中にはチェーンネックレス。その先に指輪がついていた。その指輪にはめこまれた宝石は深い赤、その色はいなくなった少女の髪色を思わせた。


「カーネリアンですか・・・。選びそうな宝石です」

「どういう意味だ?」

「カーネリアンの宝石言葉はリラックス、落ち着きといったものがあります。勿論宝石に効果があるとは思いませんが」


 王はそうかと答え、そっと指輪に唇を押し当てた。


「仕事に戻ります」

「ああ」


 悲しそうに慈しむ姿にマルドアはただただ胸が痛んだ。




 ディーナは城に行った時と変わらないままの部屋に荷物を置いていた。荷物と言っても城で着ていたものぐらいで大した物はない。


 衣服を整えたところで、ふと別の物に手が当たった。口紅と黒猫の置物だ。それを手にするとどうしても胸に違和感を感じその2つを引き出しの中にしまった。


「ディーナ」


 名前を呼ばれハッとしたように振り返る。


 そこにはシンがいた。


「宴会やるから下りて来いって」

「うん。分った。ありがとう」


 ディーナはシンと共に、階段を降りた。直後、ムギューッと抱き締められる。


「ディーナァ!!ディーナだぁぁぁああ!!!」

「レオナ姉さん・・・っく、苦しい・・・っ」


 姉のレオナは男性なら誰もが釘付けになる豊満な胸を持っており、抱き締められるとその胸の中に顔が入り込み呼吸が難しくなるのだ。


 すぐにごめんねと離され頭を撫でられる。


「本当に良かった・・・。元気そうで」

「うん。凄く元気だよ。レオナ姉さんも、皆も元気そうで良かった」

「元気じゃないわ」


 後ろからフワリと抱き締められ、顔を上げればもう一人の姉、イルリカの姿があった。


「私達あなたが連れて行かれた日から暫く泣きっぱなしだったのよ。みっともなくワンワン泣いて・・・。村の人に支えてもらって何とか立ち直れたけど、アタシ達が身代わりになれば良かったってつくづく思った」

「そうなったら今度は私がずっと泣くことになるよ」


 そう言って苦笑すればイルリカはそうねと笑った。


「辛いことじゃなければお城で何があったか聞かせて頂戴」

「うん」


 ディーナは城では本当によくしてもらったことを語った。最初は怖いと思った王も実はとても優しい人で、彼を慕う忠臣達も皆国に尽くされている方達ばかりなのだと。


 思い出せる全てを語った。


「そう・・・。じゃあ本当に辛いことはなかったのね?」


 母の問いに大きく頷く。


「じゃあもしかして・・・また城に戻らなきゃならんのか?」


 不安そうな父の言葉にディーナの表情が止まる。


 そんな時シンが口を開いた。


「そういや聞いてくださいよ。俺がディーナ迎えにいったあの時嵐が来たじゃないですか。その嵐で城下の人間が避難とかしてて、その避難所に俺とディーナでスープ運んだりしたんですよ」

「ほう!」


 シンは誇張を交えながら話をし、皆笑っていた。


 ディーナも笑って見せたが、どうにもスッキリせず、胸の違和感は募るばかりだった。




「陛下」


 王はマルドアに呼ばれ顔を上げる。


「すみません。記入漏れが・・・」

「多いな。すまない」


 王はいつも通り仕事をこなしているように見えるが明らかにミスが多くなった。そして、目の隈が昔のように戻ってきてしまっている。


「・・・陛下。お考えを変えられるつもりはございませんか?」

「マルドア」

「・・・出すぎたことを申しました」


 マルドアは大人しく引き下がった。


 昔の陛下に戻ってしまわれた。昔から好きだった陛下が昔に戻ったところで変わる忠誠心ではないが、以前の方が幸せそうだった。


 その事実がどうにも悲しく、マルドアは静かに目を伏せた。




 ディーナは昔と変わらない生活に戻った。朝は畑仕事。昼の暑いうちは家畜の世話、もしくは川で魚採り。夕方涼しくなってきたらまた畑を世話し、家に帰る。


 色んな人と笑いあって、たっぷり疲れて、美味しいご飯をしっかり食べて、暖かいお風呂に浸かって、倒れこむように布団で寝る。


 普通に幸せな生活だった。


 しかし・・・


 どうにも妙な虚しさが拭えなかった。特に夜。


 いつもならあの人の元で歌っているのにと思ってしまう。両親と姉達におやすみと言って寝るだけの日々が普通だったのに違和感を覚える。


 寝返りをうってもあの方の顔が消えない。


 優しいあの方はちゃんと眠れているだろうか、無理をされてないだろうか。


 そう考える度に無理矢理その思考を消し、寝ることに専念した。

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