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覇王様の子守唄  作者: 日明
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氷の覇王のプレゼント

 王はディーナは準備があるとメイド達から言われ、先に集合場所である時計台の下に来ていた。時計台は街の中央広場のど真ん中にあり、よく目印にされている。本当ならば待ってでもディーナと共に街に出るつもりだったのだが・・・


「陛下はどうか時計台の方でお待ちください!!」


 といつもはビクビクと怯えているメイド達が目を爛々と輝かせて言ってくるものだから思わず押された。念のためギドが時計台までディーナを送ってくるということで心配はしていない。ギドはいつもふざけた事を言っているが、その芯はしっかりしており、その腕も確かなことを王は知っていた。


 ちなみに現在、王はいつものかしこまった格好ではなく、街の男達と同じような服装にしていた。黒いインナーの上に緑のジャケットを羽織、肘までまくっている。下はデニムに黒のマウンテンブーツだ。顔がバレないよう、いつもは邪魔だからと上げている髪を下ろしている。更に伊達眼鏡で変装をしていた。王とあまり関わらない者ならば、例えすぐ傍をすれちがっても気付かれることはないだろう。


 ふと周りを見回せば若い男女や友人同士達がそれぞれ合流し動き出していた。よく見れば女の方は化粧をしていない者も多く、アクセサリー類もほとんどつけていなかった。


 贅沢を禁じているとは言え、化粧品やアクセサリーを買ってはならないと言っている訳ではない。働きに見合った給金を与え、それをどう使うかは本人達の自由だ。勿論過度な浪費については処分の対象になるが、現在は過度な浪費をできるほどの余裕はないだろう。自分達の生活のために使えば残る自由に使える金は僅かだろう。給金に差はほとんどないため問題らしい問題もなく、犯罪も少ない平和な国だ。勿論騎士団がよく見廻りをしているのも大きな要因だ。


「お、お待たせしました!!」


 不意に聞き覚えるのある声にハッと思案の海から引きずり出される。顔を上げ、王は目を見開いた。


「へ、変・・・ですか・・・?」


 不安そうに問いかけてくる少女が紛れもなくディーナである確信はあった。だがいつもと全く違った姿に王は内心かなり動揺する。


 いつも動きやすいようパンツスタイルでいることも多いディーナだが、今日は膝丈の白のワンピースを着ていた。足元も同じく白のミュールで清楚な雰囲気がディーナによく合っている。髪もおろし、ハーフアップになっていた。ギドはどうしたとかそんなことを聞く余裕は今の王にはない。


「ほ、本当は化粧もしてくださるという話だったのですが・・・陛下をお待たせしているので慌てて・・・。陛下?」


 王は顔を背け、口元を覆っていた。


「や、やっぱり似合いませんよね・・・」


 落ち込んだ声を漏らすディーナに王は違う!とハッキリ否定した。王が大きな声をあげたことにディーナは驚き、目を丸くして王を見つめる。王はまたすぐに顔を逸らし、漏らすように呟く。


「も、問題ない」


 マルドアがいればもっと素直になってください!!!と心の中で叫んでいただろうというような台詞だ。しかし、ディーナはパアッと顔を輝かせ、ほころぶように笑うものだから、王は片手で顔を覆って天を仰いだ。


「あ、あの、私が言うのはおこがましいのですが・・・」


 おずおずと口を開くディーナに王は何だ?とばかりに視線を向ける。


「陛下もいつもとご様子が違ってその・・・凄く・・・素敵です」


 少し照れたように笑うディーナに王はどうしようもないこの感情をどうすればいいのか分からず時計台に額をぶつける。


「へ、陛下!?」


 痛みで少し思考が落ち着き、いつもの調子で言う。


「陛下ではないだろう。ディーナ」

「あ、す、すみません・・・。えっと・・・ラースさん」


 一応お忍びであるため、あらかじめ王のことはあだ名で呼ぶようにと話をしていたのだ。いつも陛下としか呼ばれていないため、緊張からか早鐘を打つ心臓を叩いて誤魔化した。


「ギドはどうしたんだ?」

「え!?さっきまでいらっしゃったんですが・・・」


 あの男が俺をからかわずに行くとは珍しい・・・と王は内心思っていた。実はギドの気遣いだとは知らない王だった。


 ひとまず移動することになり、話ながら歩く。ディーナは今日のことを話すとメイド達につかまりコーディネートされたのだと語った。その話を聞いた王はメイド達をねぎらってやろうと決めた。


「これからどちらへ?」

「ここずっと売り上げが低迷している花屋、雑貨屋、服屋、装飾品店、化粧品店を午前中は回るつもりだ。まず一番近い化粧品店から行く」

「はい!」


 2人でコスメティックショップへと向かった。


 店に入るとバッチリメイクをした店員が2人を出迎えた。


「いらっしゃいませ」


 だが、店員の他に人の影はなく、王が問いかける。


「俺たちの他に客はいないのか?」


 王の問いに店員は頬に手を当て、小さくため息をつく。


「そうなの。この国じゃ贅沢は出来ないからお化粧も最低限。もうひと手間でもっと可愛くなる子いっぱい

いるのに!」


 ブンブンと駄々っ子のように手を振る店員に王は少し距離を置きながら問いを重ねる。


「暇な時間は何をしている?」

「何もしてないとお給料ないからもっぱら隣のアクセサリー作りねぇ。でも、アクセサリーもあんまり売れないから溜まっていくばっかり。作っても売れないんじゃ寂しいのよねぇ・・・」


 二度目のため息をついた店員はごめんなさいと続ける。


「お客さんにする話じゃなかったわ。何をお求め?」

「口紅を探している。彼女に似合うものを頼む。値段は問わない」


 初耳の情報にディーナはえ!?と勢いよく王を見上げる。


「お2人共観光でいらしたのね。いい国だからゆっくりしてってね」


 店員はそう言った後ジッとディーナを見つめる。


「そーねぇ・・・。これなんかどうかしら?」


 店員が進めたのはピンクがベースのオレンジがかった綺麗な色だった。


「この色だと表情も明るく見えるし、何よりキュート!思わず男性がキスしたくなっちゃうようなプルプルの唇になれるわ」


 ディーナがへ!?と真っ赤になれば、店員はあら。と口元を覆う。


「まだまだ付き合いたてみたいね~。初々しいわ。どうかしら?彼氏さん。可愛い彼女が益々可愛くなるけど」


 王は真顔でボソリと呟いた。


「それは・・・困るな・・・」


 ディーナも店員も瞬きを繰り返した後、ディーナは真っ赤になり店員は顔を輝かせた。


「そうよね~。これ以上可愛くなったら困るわよね~。でも、可愛くさせるのが化粧なの。どうする?」


 王はディーナに向き直る。


「どうだ?」

「え!?あ、あの、凄く可愛いと思いますが・・・」

「ならそれを「即決ですか!?」


 ディーナはふと店員の持っているその可愛い口紅の値段に目が止まった。そこにはディーナがよく知る川魚の20倍以上の値段がついていた。


「だ、駄目です!!」

「何がだ?」

「だ、だって魚のにじゅっ二十ば・・・」


 値段に驚きすぎて言いたいことがちゃんと言葉にならない。王はディーナが何を言いたいのか悟り、ああと口を開く。


「気にする必要はない」


 そう言って金を出そうとする王にディーナがなら私が!とディーナが財布を出すが、店員に止められた。


「男があげたいってんだから可愛い子は笑ってありがとうって言えばそれでいいのよ。男はその顔が見れれば満足なんだから」


 え、え・・・?。とディーナが困惑している間に王は会計を済ませてしまった。そして、可愛くラッピングされた口紅を王は受け取る。王はそれを静かにディーナに差し出した。ディーナは先ほどのことを思い出した。受け取って胸に抱き、王を見上げる。


「あ、ありがとうございます」


 笑おうと思ったのに申し訳なさや驚きや、その他モロモロの感情のせいで半泣きの妙な顔になってしまった。


 王は目を見開いて硬直した後、顔を背けて震えていた。


「あ、あの!すみません!本当に嬉しいんですけど・・・えと・・・」


 王が顔を逸らしたのは怒ったからだと思い必死に言葉をつむぐディーナ。そんなディーナの肩を店員がポンと叩く。


「彼氏が貴女をこれ以上可愛くしたくないって言った理由が良くわかったわ。本当に可愛いわ」

「へ!?」


 店員の顔が真顔だった。


「行くぞ。ディーナ」


 王はディーナの腕をつかんで歩き出す。ディーナは驚きつつ、ハッとして店員を振り返る。


「これ、選んでくださってありがとうございました!」


 店員はいい笑顔で手を振って2人を見送ったのだった。




 暫し道を歩いていた中、ディーナがあ、あの!と声をかける。


 王は立ち止まってディーナに視線を向けた。


「こ、これありがとうございました!」


 ラッピングされた小さな箱を突き出して頭を下げる。


「そ、それと、あの・・・こ、恋人と勘違いされた時否定しなくてすみません!」


 更にもう一度頭を下げれば、不意に手が暖かくなった。目を向ければ王に握られていた。暫し理解出来なかったが、またボッと赤くなる。


「へ、へい・・・「今日は恋人同士だ」


 陛下と呼ぼうとした声が遮られ、顔を上げれば王は真っ直ぐ前を見据えたままいつもの表情で口を開く。


「その設定の方が共に過ごす間怪しまれずに済むだろう。いちいち否定をしていれば無駄に相手に印象をつける」

「あ、はい!」


 ディーナは何処までも真面目な方だと尊敬した。だが、同時に火照る顔と早鐘を打つ心臓の意味がよくわからなかった。

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