氷の覇王の苦手な人
「ハァ!!」
ガキンッ!!キィンッ!!
朝、高い金属音が度々響き、ディーナは何事かと目をこすりながら窓を開ける。下を眺め、王の姿を見つけた。そしてその王が剣を片手に褐色の肌の体格のいい男と戦っているではないか。
大変!!
ディーナは寝巻きのまま部屋を飛び出し、王を助けなければと二階の窓から出て窓を伝い、飛び降りる。それに王が気付いた。
「ディーナ!?」
王は男性に背を向け、ディーナの元へと駆ける。そんな王を男が追いかけた。
「危ない!」
ディーナは王を守ろうと壁を蹴って王を飛び越え、男に飛び掛る。
「うおあ!?」
男の悲鳴と共に地面に倒れこむ。
「ディーナ!!」
即座に抱き起こされ、一瞬ボーッとしていたが王の顔を見てハッとする。
「陛下!お怪我は!?」
「こちらの台詞だ!!お前は何をしている!?」
いつも以上の凄まじい迫力で怒鳴られ、ディーナはビクッと反射的に涙が滲んだ。
「へ、陛下が襲われていると・・・思って・・・。その・・・も、もうし・・・」
涙が一つ溢れると止まらなくなりポロポロと零れた。その涙を見て王はギョッとし、オロオロし始める。
「あーあー。女の子泣かしちゃ駄目じゃねえかラディ」
倒れていた男は体の土をはたきながら立ち上がる。
「女の子は大事に大事に扱うもんだぜ?そんなんじゃ男の風上にも置けねえなぁ」
「五月蝿い。貴様は黙っていろ」
あれ・・・?
何故王が敵であろう男と仲良く話しているのかディーナは訳が分からず王と男を交互に見る。その視線で察した男がああと口を開く。
「王を守ろうとした勇敢な嬢ちゃん。生憎と俺は敵じゃねぇぜ。一応王家直属の騎士団の団長してるギドだ」
「・・・え?」
「ちなみにさっきのはただの手合わせ。ラディが鈍ってきたから付き合えって早朝に叩き起こしやがってさぁ。俺はオメーと違って朝はゆっくり起きる派だってのに」
ギドと名乗った男は眠そうにフワァと一つ欠伸をする。
「貴様がだらしないだけだろう。メルフィやライドが嘆いていたぞ」
「あいつらオメーを見習えってうっせぇんだよなぁ。俺の部下なら俺を見習えっての」
「貴様など見習った暁には騎士団は即刻解散させる。お前の代わりに騎士団をまとめているメルフィとライドに感謝しろ」
「へえへえ。感謝してますよーだ」
男に説教をする王と、子供のようにムスッと唇を尖らせる男。その状況にディーナは暫し混乱していたが、王とギドが話しているのを聞いてやっと理解する。
自分は大変恥ずかしい勘違いをしていたと。
「も、申し訳ありません!!」
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。本当に入りたい。今すぐ入りたい。埋まりたい。
顔を真っ赤にして再び泣きそうになるディーナを見て王はムラ・・・と何かが反応しかけたが鋼の精神力で鎮める。
そんな中ギドがポンとディーナを撫でる。
「謝ることねーぜ。本気で王を守ろうとしたってことだからな。オメーさんほどすげぇ女の子を見たのは2人目だ。誇りな」
ニッと笑うギドの笑みは安心感のあるものだった。ディーナの表情が落ち着いたのを見て王はムッとしながらディーナをギドから隠すようにした。
「なんだよ。俺は女の子は全て愛せるが子供には手ぇ出さねえって決めて・・・」
そこまで言い、ギドはハッとした。
「そうか・・・。その子がオメーのお気に入りの小鳥ちゃんだな!」
王とディーナは揃って疑問符を浮かべる。
「いや~。あの氷の覇王が傍に置いて可愛がってるってんでどんな美人かと思ったけど・・・。ま、お前そういうの気にする質じゃねえもんなー。ま、あんだけの動き見せる子だ。やっぱお前の見る目は確かってこったな」
うんうんと納得したように頷くギドを王は鋭く睨みつける。
「ベラベラ喋るな。黙れ」
「つれねーな。ラディは」
「その名で呼ぶな」
最近王の眉間の皺が少し緩んだと内心喜んでいたのに、いつもの数倍険しい表情にディーナはどうしようと動揺する。
「あ、大丈夫だぜー。嬢ちゃん。喧嘩してる訳じゃねえから。これがコイツの俺に対する愛情表現なんだよ☆「ふざけるな」
ディーナは改めてギドという相手を見つめる。褐色の肌に短く刈り上げた金髪の髪。瞳は黒に近い赤。体格は王の一回り大きい。腕の太さなどディーナの2倍、もしくは三倍ある。年は40代前半だろうか。
ディーナの視線に気付いたギドがニッと笑い、顔を近づけて来る。
「何だ?嬢ちゃん。俺に惚れちまったか? ぐぇ!?」
ギドは王に胸倉を掴まれ、持ち上げるほど力を入れられている。
「殺す・・・っ」
「だ、駄目です!!」
ディーナがご乱心の王を慌てて止める。何とか降ろして貰えたギドは何度か咳き込み、王を見る。
「お前ガチトーンで殺すは駄目だろ・・・「本気だ。何処にも問題はない」
「ったく冗談通じねえんだから・・・」
ギドはハァ・・・とため息をつく。
不意にクルッと王の矛先がディーナに向く。
「大体お前は!以前にも危険なマネはするなと言っただろう!!」
「す、すみません・・・」
再び叱られ萎縮するディーナに王は続ける。
「窓から飛び降りるだけじゃなく暴漢に飛び掛るなど・・・っ」
「おーい。暴漢ってもしかしなくても俺かー?」
ギドが若干の抗議の声を上げるが、王はギドの声など聞こえていないようだ。
「しかもそんな薄着で・・・」
王はディーナに視線を向け、ハッとする。寝やすいよう大きめの寝巻きは乱れ、肩が大きく見えている。ワンピースタイプであるため、細く白い足がふとももの半ばまで見えていた。
王は即座に上着を脱ぎ、ディーナにかける。
「着ていろ」
「え・・・?」
「やーいムッツリスケベー「殺すぞ・・・っ!「お、落ち着いてください!」
王の大きな上着を羽織って立ち上がったディーナはワンピースが完全に隠れまるで・・・
「ムッツリスケベー「殺す」
いよいよギドに斬りかかる王。本気だ。本気で殺す気で行っている。
だが、それを軽々とさばき、飄々としているギドを見てやっぱり強いんだとディーナは思った。
初めて見る目の剣撃戦にディーナは目を離せなかった。危険で、激しく、美しい。これは男性の踊る舞いなのではないかと思った。