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02 銀髪の少女

 灰色の煙が立ち尽くす怪しげな路地裏へと連れられたブリガンテは、怪しげな奴隷商の男と共にグイグイと路地裏の奥の奥へと進んでいく。


「おい、本当に大丈夫なのか?」


「お? 何が?」


 ブリガンテの不安そうな問いかけに、奴隷商の男はひょうきんな声で返答する。


「どんどんとひと気のない所へと進んで行ってる気がしてすこし不安なんだが……」


「おいおい、バカいうんじゃねぇよ、ひと気の多い所で奴隷なんてもんが売れるかい」


 奴隷商人の説得力のある声になぜか、あぁまぁ言われてみれば確かにそうだなと妙に納得してしまっていた。


 確かにひと気のあるところで奴隷商なんかやったところでそんなものが売れるわけがない。

 そして、そんなことを話しているうちに怪しげな店の前へとたどり着いた。


「ほら、ついたぜ」


 奴隷商の男は、暗い店の中へさっさと入って行く。


 目に入った店頭にはなにやら怪しげなツボやお札が販売されていた。

 どうやらこの男、奴隷販売だけで生活しているわけではないらしい。

 ブリガンテはしばらくならべられていたツボやお札をボーッと眺めていた。


「ほら、兄ちゃんなにやってんだい、奴隷はこっちだよ」


「あ、あぁ」


 店を眺めていたブリガンテを男がグイッと手を引いて店の中へと連れ込む。


「奴隷販売だけじゃないんだな、あんたの店は」


「あぁ、まぁ小遣い稼ぎ程度にね。以外と売れるんだなぁこれが」


 そういって男は店頭に置かれていたツボを手に取る。


「まっ、悩める人への救済ってわけ。このツボを買えば〜ってよくあるやつだよ」


 ふへへっと男は笑う。

 なんとも救い難い男だ。


「奴隷販売といい、このツボといい……つくづく悪人の手本みたいな男だな、あんたは」


「おいおい人聞きが悪いなぁ、このツボやお札はちゃんと人々を救ってるんだぜ? このツボのおかげで幸せになれたってお礼に来る人もいるくらいだからな」


 男は癇に障ったのか、ツボをガンガンと殴ってブリガンテに詰め寄る。


「わかったよ、そんな事より早く奴隷とやらをみせてくれ」


「あぁ、そうだったな」


 ブリガンテは呆れ顔で、男に早く奴隷をみせるように促し話をそらした。

 男もハッとしたようにツボを元あった場所に置いて、店のさらに奥へと進んでいく。







「ほら、ここだよ」


 男は薄汚れたカーテンをバッとめくる。


 そこには約数十ほどの牢がズラリと並べられており、牢屋に閉じ込められた人々が唸り声をあげたり奇声をあげたりしていた。


「なかなかいい品揃えだろ? 見な、こいつなんか元は山賊のリーダーだったんだぜ」


 男が指差した場所には牢屋に閉じ込められた、汚らしい風貌の男が座り込んでいた。


「ほう……」


 しゃがみこんで、牢屋越しにその山賊の男の目を見る。


 ブリガンテの目に映った男の目はすでに死んでいた。

 もう生きる希望などない奴隷生活に絶望しているのだろう。


「おい、こいつはなぜ奴隷なんかに落ちたんだ?」


「ケンカを売っちゃいけねぇ相手にケンカ売っちまってな、団は全滅、生き残った団長も奴隷として売られちまったってわけ」


「……なるほどな」


 ブリガンテとしては、こんな将来性のないやつなど必要ない。

 こいつには悪いが、ここの牢屋で一生死んだまま生きて行くといいだろう。

 最も、こんなみすぼらしい男を奴隷として買うようなやつがいたなら話は別だが。


 山賊奴隷の前でしゃがんでいたブリガンテはスッと立ち上がり、男の元へと戻る。


「少し見回ってもいいか?」


「あぁもちろん、気に入ったのがあったらどんどん声をかけてちょうだいね!」


 男はそういって、カーテンをくぐって店頭のほうへと向かっていった。


 牢を見回って行くうちにあることに気づいた。

 どうやらここで扱っているのは普通の人間だけではなさそうだ。

 黒い色のエルフや、獣耳やしっぽのついたものなど特定の人に需要がありそうな人種を幅広く取り入れている。

 あの奴隷商の男は、なかなか敏腕の商人なのかもしれない。


 しばらく牢屋を見回っていた所で、ブリガンテは一人の少女の閉じ込められている牢屋の前で足を止める。


「……」


 無言でしゃがみこみ、中にいる少女をジッと見つめ続ける。


 牢にはみすぼらしい格好をした、獣耳と尻尾の生えた銀髪の少女が座り込んでいた。

 年齢は13歳〜15歳といったところか。

 酷く怯えた様子で、少女もブリガンテの顔をみつめる。



「お前は……まだ目が死んでないな」



 ブリガンテの瞳に映った少女の瞳は他の連中とは違い、幼いながらも必死に生きようとしている。


 怯えてきってはいるが少女の瞳はそんな事を思わせるような、とても生き生きとした目をしていた。


「なぁお前……」


「……ッ!」


 ブリガンテは牢の柵を掴み、少女へ問いかけようとする。


 ブリガンテのたてた大きな柵の金属音は、少女は震えきっていた体をさら震え上がらせた。

 少女は怯えたような目でブリガンテの顔をみつめる。




「お前は……」




「……?」




「お前は……生きたいか?」





 ーーブリガンテの問いに、少女は目を丸くする。


 よほどブリガンテの問いに驚いたのか、少女はしばらく目を丸くしたままだったが、少し間をおいて静かにその小さな首を縦に振った。


「そうか……」


 ブリガンテは無言でなにやら考え込むように座りながらしばらくの間うつむいていた。

 その間も、少女はずっとブルブルと震えたままだった。


「どうです? いいのが見つかりましたかい?」


 奴隷商人の男が座り込んでいるブリガンテの後ろで他の奴隷に食事を与えながら話しかける。


 ブリガンテはスッと立ち上がり、男の方を振り向く。


「……この子を買いたい」


「……!」


 ブリガンテの言葉に反応するかのように少女が反応する。

 奴隷商の男はその言葉に嬉しそうに笑いながらブリガンテの方を振り向く。


「うひゃ! うひゃひゃひゃっ! あ、あんたそういう趣味だったのかい!」


 男の気味の悪い笑い声が部屋中に響き渡る。

 ブリガンテは表情一つ変えず、男のほうを見つめ続ける。


「まぁ……そんな所だ」


「いやぁ! 結構結構! あんたみたいなのがいると奴隷商も繁盛するってもんだ!」


 男は奴隷の食事を地面に置いて懐から一枚の紙を取り出した。


「まぁそうだねぇ……それなら、値段としちゃ15万ゴールドなんだが、あんたは初回だし将来性もあるからな。特別13万ゴールドで構わねぇぜ」


「そうか、助かる」


 男は牢のカギを開け、鎖に繋がれた少女を牢から解放する。


「そんじゃま、契約を結ぶとしようか」


「契約?」


 ブリガンテが疑問に思ったかのように商人へと尋ねる。


「なんだ、契約も知らないのかい?」


「まぁ、奴隷を買おうなんて今まで考えたこともなかったからな」


 商人が不思議そうな口調で尋ねるが、ブリガンテに奴隷についての詳しい知識なんて知る由もないだろう。


 商人が淡々と契約についての説明を始めた。


「契約ってのは、要は奴隷が逃げ出さないための見えない鎖みたいなものだ。“隷属の烙印”っていう特殊な魔法陣を奴隷の体に刻み込む。その烙印が奴隷に刻み込まれている限り主人の命令には絶対服従ってわけだ」


 ブリガンテは無言で説明を聞いて、いくつかの疑問を商人へとぶつける。


「その烙印とやらは誰にでも刻み込めるってわけではなさそうだな」


「まぁ例外はあるが……基本的には俺たち奴隷商人にしか刻めないね」


 商人の説明を聞き、ブリガンテは少し考え込むように腕を組む。


「その烙印は一生消えないのか?」


「いや、刻んだやつが烙印に触れながら特殊な術を施すことで解放はできる」


「なるほど……」


 商人の説明に納得したのか、ブリガンテがそれ以上追求することはなかった。


「それじゃ、始めるぜ」


 商人が懐から一本の棒きれを取り出す。

 少女の服をめくり、肌をさらけ出された少女の背中へと烙印を刻みつけた。


「……ッ!」


 少女が苦しげな表情を浮かべる。

 商人は烙印を刻み終わると棒きれをしまい、一本のナイフを取り出してブリガンテへと渡す。


「あんたの血が必要だ。そのナイフでちょっくら指でも切ってくれよ」


「あぁ」


 商人の指示通り、ナイフで自身の指を引き裂く。

 ブリガンテの指から血がポトポトと流れ出る。


「これでいいか?」


「あぁ、その血をこの烙印の上に流してくれ」


 少女の背に刻みこまれた烙印の上に自身の血を流す。


 血が少女の烙印に触れた瞬間、それまで傷となっていたはずの烙印が紋章として背中に現れた。


「これで契約は終わり……晴れてこの子もあんたの奴隷となったってわけだ。あとは煮るなり焼くなり好きにしな」


「……」


 ブリガンテは烙印を刻みこまれ、終始怯えた様子だった少女をさらに見つめ続ける。


「お前、名前は?」


 ブリガンテの問いに、少女はうつむいた顔を上げて、その重い口をゆっくりと開いた。


「ハ、ハル……」


「ハル……だな」


 少女の名前を聞き、ブリガンテは少女の手を引きながらゆっくりと立ち上がった。


「歩けるか?」


「うん……」


 少女のススのようなもので汚れた服をパンパンとはたいて商人の男のほうを振り向く。

 男は他の奴隷にまた食事を与え始めていた。


「あぁそうそう、金の方はいつでもいいとは言ったけどなるべく早くお願いしますよ?」


「あぁ、わかっている」


 そう言ってブリガンテは少女の手を引きながら薄汚れたカーテンを抜け、奴隷商の店を後にする。








 路地裏を出て、二人は街道を歩き始める。


 しばらく歩いているうちにハルはあることに気づいた。

 街道を歩く人々の視線はブリガンテとハルに集中しているのだ。

 それもそのはず、他人の目からみればみすぼらしい格好をした獣耳の少女を若い男が手を引いて歩いている。

 他人の目から見れば二人の様子はなんとも怪しいことこの上ないだろう。


 だがブリガンテは他人の視線なんざお構いなしに街道のど真ん中を堂々と歩いている。


「あ、あの……」


「ん?」


 ハルは、ブリガンテの服の裾をひっぱる。

 ブリガンテが振り返るとハルはなにやら不安気な表情でブリガンテを見つめていた。


「どした?」


「す、少し距離をとって歩いた方が……いい……かもしれない……」


 上目遣いで可愛らしい小さな声でそう呟く。

 ブリガンテはハルの目を見つめながら不思議そうな表情を浮かべた。


「なぜだ?」


「私みたいなの歩いてたらその……誤解されちゃうかもだから……」


「……?」


 ハルはそっと視線をそらして少し悲しげな表情を浮かべる。


 そんな彼女の様子にブリガンテはキョロキョロとあたりを見回してようやくその言葉の意味に気が付いたようだった。


「あー……」


「……」


 ブリガンテはさらにあたりを見回す。

 偶然にも少し歩いた所に洋服店を見つけた。


 すっと立ち上がり、ハルの手を引いて洋服店の方へと歩き出す。


「あっ……」


 ハルはブリガンテに迷惑をかけまいと必死にその場が動かないよう抵抗するようにブリガンテの手を剥がそうとする。

 どうやらブリガンテの意向はハルには伝わっていないようだ。

 ブリガンテはハルに伝わるよう、洋服店のほうを指差す。


「服、ほしいんだろ?」


「え……?」



 ーーブリガンテはハルの手を強く引いて、街道の端を通って洋服店へと歩み出した。

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