第五話〜接敵・後編〜
目の前に広がる絶望的な光景。
いつも見える蒼い空が見えなくなっていた、見えるのは空を埋め尽くす敵機ばかりであった。それを『空が狭い』、まったく見事な例えであった。
『アルバトロス1より全機、交戦開始!!』
アルバトロス1が機体をロールさせて敵の側面へと突っ込んでいった。
敵もこちらの存在に気付いたのか燃料タンクを投下してMig29の編隊がこちらへと向かってきた。
『クロウ2、交戦!!FOX3(AAM:中射程ミサイル 発射)!!』
大村が素早く敵機をロックオンし中射程ミサイルを発射した。発射されたミサイルは白い尾を引いてまっすぐ目標へと飛翔していった。
ミサイルはエンジンから出る赤外線を真っ直ぐ追尾して行き、そのままエンジンに突き刺さり大爆発を起こし空中で分解した。
『アーチャー3、交戦!!敵機ガンの射程内!!発射!!』
宮本が機体を急上昇させ、そのまま一気に操縦桿を奥に押し急降下を始めて敵爆撃機へと機関砲を叩き込んだ。
エンジンを撃ちぬかれた爆撃機は黒煙を吐きながらグラグラと揺れながら海面へと墜落していった。
『アルバトロス4、交戦!!アーチャー3とクロウ2を可能な限り援護する!!』
佐伯が敵機を翻弄するように飛び回る宮本機と大村機を視認できる距離を飛行しつつ二人に降りかかる火の粉を払った。
『敵に出来るパイロットがいるぞ!?こんな事は聞いてなかったぞ!!』
混線する通信から敵の通信が聞こえてきた、敵は少数だったので護衛機の半分をぶつければ撃退できると踏んでいたのだ。
『落ち着け!!護衛機全機、敵機を迎撃し任務を続行しろ!!』
この敵の通信の直後に敵の反撃密度がどんどん増して行き味方の戦闘機も次々撃ち落されて行った。
『畜生!!アーチャー1が落された!!アーチャー3、アーチャー隊の指揮を執れ!!』
AWACSが次々レーダーから消えていく味方機を見て毒づきながら叫んだ。
現時点でアーチャー隊四機の内、アーチャー1・アーチャー2の2機が撃墜されていたのだ。
『こちらアーチャー3、無理です!!アーチャー4が確認できません!!この状況で指揮は取れません!!』
宮本がしつこく背後に喰らいつく敵機を振り切ろうと機体を急加速させ左右に避けながら叫んだ。
『クロウ1と4が撃墜されました!!アルバトロスも飛んでるのは俺だけです!!』
佐伯が宮本の背後をしつこく飛ぶ敵機に照準を合わせるように飛んで叫んだ。もうミサイルの残弾数はゼロで先ほどから機関砲で撃墜していた。
『こちらアーチャー3、たった今クロウ3とアーチャー4が撃墜されました!!ただちに援軍を要請します!!』
戦況は地獄であった、全部で12機いたはずの味方機が次々に撃墜され残ったのは新米パイロット三人だけであったのだ。
『こちらAWACS、緊急編制を行う!!クロウ2・アルバトロス4・アーチャー3、君達しかいない!!今先ほど味方がスクランブル発進した!!彼らが到着するまでTSADAを防衛しろ!!以上だ!!』
AWACSが戦況が不利と睨んで後方に下がりながら指示を伝えた。
最寄の基地からどう考えても10分以上はかかる。そして燃料も弾薬も乏しい状況で生き延びなければならないのだ。
『こちらクロウ2、了解・・・各機弾薬状況を報告せよ』
大村が火器管制システムをチェックしながら残り少ない味方機と連絡を取った。
『アルバトロス4、ミサイル残弾数ゼロ・・・機関砲弾も100発以下だ』
佐伯が『EMPTY』と表示されている画面を歯を食いしばりながら報告した。
『アーチャー3、ミサイルは残り2発・・・機関砲弾も残りわずかです』
宮本が画面を食い入るように見つめて報告した。
大村機のミサイルは残り3発に機関砲は500発、ミサイルは計5発に機関砲は800発弱程度の戦力であった。
対して敵爆撃機部隊は護衛機の半分以上を失っているものの、なおも健在であった。
強襲型爆撃機は航続距離を伸ばす為に中〜遠距離ミサイルを搭載していないが、万が一の為に短距離ミサイルを二発だけ搭載していた。
『クロウ2より各機に告ぐ・・・敵の中に突入して味方が到着するまで撹乱する』
もはやこれ以外に取る道はなかった、自らの命を脅威に晒す代わりに敵を混乱させるしかなかった・・・。