遺言
「片付けるのでその辺に座っていてください」
夕食を終えて有るので食器を台所に運ぶ
そのついでにさっき作った紅茶を持っていく
「あ、ありがとうございます」
「砂糖は自分で入れてください」
今日は11月の中旬
初冬、11月は世間的には秋だがこの頃からすでに寒い
特に夜なんかは冷え込むので暖かい紅茶とシュガースティックを彼女の目の前に数本置く
「さてと、それじゃあ本題に入りましょうか」
話の内容はなんのことはない
彼女はロシア人と日本人のハーフ
生まれはロシアだがこちらで言う小学校2年生の時に彼女の母が他界
それと同時期に日本に留学、という形で来たらしい
小学校6年生まで、つまり小学校卒業と共に帰国
その間の4年間で彼女の父が俺の祖父に出会い、色々と交流があったらしい
詳しいことはわからないが助けたり助け合ったりの仲だったとか
帰国後、3年間は普通に過ごしていたらしいが4年目、つまり先月に事件が発生
端的に彼女の父が他界したらしい。原因は不明。彼女には父以外の親族は思いつかず
行き場に困っていたところ彼女の父の机の中に遺書を発見
内容は簡単に「俺に何かあったら彼を頼れ」というものだった
彼、つまりは俺の父である勝一を頼れということ
お金は彼女の両親が残した遺産でかなりの蓄えが有るとか
その金を使い再度来日する
遺書に書かれてあった住所を元に彼女はここまで来たという
以前彼女が住んでいたところから大体駅3,4つ分ぐらいの長さらしい
それほど離れていない、というよりそうでなくては父と出会うことはなかっただろう
因みに今俺が住んでる地域は割と緑が多い場所だ
されど都会からそれほど離れていない。まあ都心まで電車で30分ぐらいで着く
「・・・なるほど」
色々と不可解な部分が多すぎる
だが、今考えるのは時間の無駄だと判断。ここは一旦置いておこう
問題はこれからのことだ
しかしこれは・・・困ったぞ
いやホントどういう対処が適格なのか分からん
「えっと、貴方はーーー」
「あの~」
右手を挙手しながら俺に質問の態度を示す
「何?」
「名前を、教えてくれませんか?」
「ああ」
すっかり忘れてた
そういや彼女の名前聞いてなかったな
「あ、そういえば日本では名前を聞くならまず自分から名乗るのが礼儀でしたね」
「そういう風習もあるね」
適当に流す
名乗る順番なんて心底どうでもいいと思った
「私はソヴィトヴィーニア・フォグロム・プラウダといいます。17歳です」
「・・・・・・」
・・・長いな。外国人は皆こういう名前なのか
そういや俺の持ってるゲームにもロシア人のキャラ出てきたけど、長い名前で覚えるの苦労したな
テンポはいいから短期間で覚えたが
「俺は有川湊。まだ16歳だ」
「まだ、ということは学年は一緒ですね。あ、名前は長いのでソヴィと呼んで下さい。」
「・・・そうか。ああ、それと、年齢一緒ならお互い敬語は使わなくていいだろう」
「そう、だね。うん、分かった」
「・・・で、どうするの?」
「・・・え?」
質問の意味を理解できないのか?
それとも、そういう素振りを見せているだけか
「これからどうするの?父は死んで、キミの父親との約束は有耶無耶のままなかったことになるけど」
「えっ、えっと。どうしよう・・・」
そう、肝心なのはソヴィがどうしたいかだ
死んでる人間同士の約束なんか生きてる人間には関係ない
遺書があるならその意思に従うのもいいだろう
だけど、自分はそんな固定概念に囚われない
だから遺書があり、~して欲しいなんて書かれていても
湊本人がやる気ないならそれをしない
自己中心的だと思うだろうが、到って合理的な判断だと思う
(このまま帰国するとかいいだしてくれれば幸いなんだが・・・)
それはないだろう。何せ身寄りがないから遥々日本に来たのだから
それに、こっちでもう色々と手続きしてあるだろうし
つまりは・・・・まあそういうことになるんだろうなぁ
だが、この女の本心が見えない
それでも、分かることは有る
この女は決して馬鹿じゃない
動揺しているのは本当かも知れないが、心の底には絶対的な自信がある
その自信の真意は分からないし、分かりたくもない
だが、そんな感じがする
要は俺の勘だ
だから確証はないし、証拠も無い
だけど、俺はこの女を警戒しろと本能が訴える
つまりは得体の知れない存在
何が本当で何が嘘かは、俺には解る
だが、本当だが全部は言ってないとなると話は別だ
警戒しろ、注意しろ。そしてその素振りを決して見せてはならない
この女の真実を見極めるまでは決して目の前で油断するな
その辺の女とは、別格だ
と、俺自身が俺に促してくる
まあ、だからこそ興味深い。それゆえに家に招きいれたのだが
かといって嘘を言ってる訳じゃない
つまり本当に困っているということ
だから、まあ。結局そういうことになるんだろうなぁ
思考・・・・考察・・・・結果・・・・諦め・・・妥協
文字に表すとこのような流で今有川湊は考えをまとめた
(まあ、あれについてはバレないように気をつければいいか)
「さてと、少し電話させてもらうね」
「あ、はい」
考え事をしてる様子なのでワンテンポ送れて返事を返す
有る人に電話をかける
(俺の一存じゃあ決められないからな)
電話の相手は2回のコールで出てくれた
「・・・・・お袋さん?今家に来れる?」
書いていると何故かノベル形式になってしまう