第一回「一歩」
僕は今、どこにいるんだろうか。
それを知る人はいない。
あいつ等なら知っているのか。
分からない。
分かることは一つだけ。
僕が生きているという事。
「では、皆様、これから説明会を始めます」
仮面を被った男は突然出てきて突然しゃべりだした。人気戦隊ヒーローの仮面。男の趣味だろうか。
「ここ、サバイバルランドは皆様が実際に遭難してしまったら、無人島へ流れ着いてしまったら、など様々な事を体験できる施設です」
男は淡々と喋っていく。一回も噛まずに。ロボットの様に。
説明するんだから当たり前の事なのになぜか違和感がある。
「説明はいいから早く体験させてくださーい」
「ヤベェ、俺も早くやりてー」
「てか、仮面ダサすぎ」
「だよなー」
派手に髪を染めた男達が文句を言い始めた。大学生ぐらいだろうか。
男達につられて回りも文句を言い始めた。
五月蝿い。耳障りだ。早く体験したいのは皆一緒なんだ。だから黙れよ。
臆病な僕は、なにも言えない。言っても周りの声に掻き消されるんだろう。
そして、仮面の男の言葉も聞き取りにくくなる。
「えー・・・」
仮面を被った男は困っている様子だ。新人なのだろうか。
「はいはい、分かったからお前ら黙れよ」
「先輩、一応お客様なんだから」
「うっさい!」
「すいません・・・」
男と同様、突然、仮面を被った髪の長い女が出てきた。ひょっとこの仮面だ。
いや、それよりもなんなんだ。一応お客様って。失礼じゃないか?
「お前ら、体験したいなら勝手に進め、まぁ、死なないようにしろよ」
死?たしかにサバイバルは死と隣り合わせだけど・・・。ここは安全なはずじゃなかったのか?それともただの脅しか?
「チッ、行こうぜ」
「あぁ」
「でもさ、あの女って絶対綺麗だよな」
「あー、やりてー」
「なにをだよ」
「そりゃ決まってるだろ」
「だな」
男達は目の前の森の奥へと笑い声と共に進んでいった。
笑い声はすぐに悲鳴へ変わった。
悲鳴・・・?なぜ?どうして?不安が広がる。
ここは安全だ、安全だ安全だ安全だ。この場から逃げ出しそうな気がして自分に言い聞かせた。この場から逃げ出してはいけない気がした。
しかし、周りの人達は皆怯えている。中には叫びだす人も。逃げ出す人もいる。
そして連鎖する様に広がり、皆逃げていった。
ここは島だ。皆船に走る、急ぐ、逃げる。
そして船は動き出した。
僕を置いて。
この場には僕と仮面の男と女しか残っていない。
他に人がいるかもしれないが、周りを確かめる余裕は無い。怖い。
僕はここに残された。
「いやー、皆逃げちゃったね」
「先輩、まだ居ますよ」
「あれー?予想外れたなー今日は奢りかー」
「ごちそうさまです」
「で、君はなんで逃げなかったの?」
喋れない。この女は不気味だ。笑ってるようで笑っていない。無表情より笑顔に近い表情。
「答えろよ、雨宮速人」
なんで・・・。僕の名前を・・・。
「十四歳の中学二年生。血液型はB型。誕生日は六月三日。自己紹介代わりにしてあげたよ。感謝の印は?」
なんで・・・僕の年齢や誕生日、血液型を知っているんだ・・・?
自己紹介・・・?誰に・・・?
「まぁいいや、感謝の印はあとで貰うよ。一つ貸しだからな」
「先輩、あいつが呼んでますよ」
「またかぁーでも、ちょっと待ってろ、すぐ終わるから」
「はいはい」
あいつって誰だろう・・・僕が気にしてもしょうがないか・・・。
「お前には期待してるぞ、お前が負けたら私がまた奢んなきゃいけないんだよ」
また・・・賭けしてるのか・・・?・・・何の?負ける・・・?何に?
「森に進め、最初で最後のアドバイスだ」
何が何だか分からない。
「早く行け」
あの悲鳴が聞こえた森に行けって言ってるのか?正気か?
「行かねぇと私が殺す」
殺す。という言葉に怯えながらも僕は歩けない。
何も分からないまま、怯えながら。涙さえ忘れていた。
生きる。
そう決意し、このサバイバルへの一歩を踏み出した。