4.ようやく待った魔法授業
今日は待ちに待った魔法の授業日です。
なんでこんなに遅かったかというと一人ひとりに専属の先生が付くからだそうです。8人の優秀な先生を探すのは大変だった愚痴られました。はい、すみません。
座学で教えられるのかと思ったら実戦形式で、失敗も多いから専属がつくとか。そんなに大変だとは思ってなかったので恐縮です。
で、わたしの先生はカラビア先生です。……男の先生です。
「……なんだ?その不満そうな顔は」
「………いいえ、なんでもありません」
それなりにカッコイイ30歳前後の壮年の男性です。
普通なら喜ぶべきでしょうが………わたしは男の人が苦手なんです。
中学の時ちょっとした事があって軽く男性不信なんですよね。軽くなんでこの何とも言えないイライラ感は無視すれば丸く収まる事も知ってます。ええ、わたしが意識し過ぎなんですよね。すみませんね。
カラビア先生はまだねちっこく文句をいいながら授業に入った。イラっとする。
どうでもいいことだが長髪の男は嫌いだ。
「魔法はこの魔力と魔法陣さえあればな誰にでもできる。初級レベルならな」
なんて無駄に高圧的なんだろう。偉そうに。っとこんな考えでは駄目だよね。
教えてもらっているんだから。わたしは素直に頷いておいた。
「陣の構造など話すより実際見た方がはやいな……よく見ておけ」
だからなんでこの人はいちいちひっかかる物の言い方をするんだろう。イラっとする。
…おおっといけない。
カラビア先生はチョークみたいなモノをとりだし、さっと円陣をかき中に星を手際よく描く。
なぜか陣の中に妖精が集まってきた。何が始まるんだ?
『我はこの陣に火を望む者』
先生がなんか唱えたら陣が光って中心部がぼっと音をたて燃えだした。
すっげぇーこれが魔法かぁ。………杖はふらないんだな。
いやちょっと某映画の影響でね。杖をふって呪文唱えるのが魔法だと…。
そういえば、こちらの常識を持ち込んだら駄目だった。
しかし、先生が魔法を使ったというより妖精が先生の頼みを聞いて火を点したように見えたけど…。
もしかして、魔法って妖精の力をかりるのかな?それって精霊魔法って奴じゃない?よくわかんなけど。
でも、ふつうに魔法っていったよなこの人。もしかして、妖精が見えてない?
いや、まさか。だってこの人先生だし。妖精使ったし…。
「せんせー、ちょっと訊きたいことがあるんですけど」
「ほう、いきなり質問か。なかなか見所がある奴の様ようだな」
「………(いらっ)この世界って妖精っているんですか」
「妖精?それは物語に出てくる自然物に宿るとされる精霊のことか?なぜいきなり妖精などという言葉が出てくるんだ?」
えええっ!?妖精が物語の中だけの生き物?!ここファンタジーの世界なのに?!
魔物いるのに?魔法があるのに?妖精がいない?ファンタジーのファンタジー?じゃあこの目の前にいる物体はなに??魔法陣にじっとしてる奴もいれば部屋を漂っているこれはなに?!それともカラビア先生には見えてないだけとか?え?でも、この人先生だよね?
・・・・・・・・まずい。
「せんせー、この石ってなんか意味あるの?」
わたしは魔法陣の近くに転がっていた紅い半透明な石をつまみあげた。
「無理矢理話をそらしたな……まぁいい。これは魔石といって魔力を含んでいる鉱石だ。魔力が足りない者はこの魔石を使う」
あからさまな話題転換にのってくれた。
意外と優しいのかもしれない。いや、問いただすのが面倒くさかっただけかも。
「魔力って誰でも持ってるの?」
「無論だ。魔法を使って人々は日々の生活を営んでいる。ただ保有量はひとそれぞれだ」
「せんせーは魔石がないと魔法が使えないの?」
「私は自分の魔力だけで使える!というか、いま使ってみせたではないかぁ!」
ちっちゃい炎が点っただけじゃないか。
虚勢を張りだした先生を鼻にしわをよせて「ふーん」と一言でスルーした。メンドクセ―。
わたしはとりあえず手に取った魔石を眺めてみた。うん。きれい。
ほのかに赤く光っているように見えてとても神秘的で気に入った。
ふと、魔法陣を見るとまだ妖精がいる。なんかこっちをじーっと期待の目で見ている。
わたしはちょっとたじろいだ。
「とりあえず、お前は魔石を使って私がやったようにやってみろ」
えぇーー、なんか嫌な予感しかしない。
先生がさっさとやれと睨んでくるし、妖精がわくわくした目で見てくる。
まぁ、やるしかないよね。
手に持っていた魔石を魔法陣に置き、先生が唱えていた呪文を唱えた。
『我はこの陣に火を…』なんだったっけ?」
ど忘れした。すると、先生が「このバカ!」と罵倒してきた。なんだというんだ。
すると、妖精が魔石を蹴り上げた。
「え?」
魔石は弾かれ机をカン!カン!と甲高い音で跳ねて行く。何が起きた!?
妖精は魔石に見向きもせずわたしの指にしがみついてきた。
びっくりしたわたしはあわてて妖精を振り払おうとしたとき妖精はぱっと離れた。
すると火が点った。どこにって?わたしの指先に。
「え?ちょ!うわぁああ!!?」
「魔術の暴走だ!はやく消せ!」
「消せってどうやって消すの?!」
「ああもう!これだからド素人は嫌なんだぁ!!」
「わたしもテメェが嫌いだよ偉そうに!優しい女の先生にチェンジ希望だボケ!」
「自分の失敗を棚に上げていて言うことそれか!よろしい!徹底的に指導してやるまずはその口だ!!」
「うっせぇーよ!それよりこの火が先だろぉ?!はやく消せよダメ教師!!」
「私は本来の生業は魔術師であって教鞭は取っていない!よって教師ではない!」
「じゃあなんでアンタここにいんだよ!」
「王命だ!仕方あるまい!貴様も王の庇護下にいるのならそれなりの態度をとりたまえ!王の顔に泥を塗る気か!!」
「王様の世話になってるのはわかってんだよ!でも、テメーはダメだ!むかつくもんはむかつく!」
ああ!もうこいつはぁ・・・・っ!
イライラのピークに達した。
「いいからはやくこの指の火を消しやがれぇ!このくされネチネチ野郎がぁ!!!」
「がふっ!!」
左拳が奴の鳩尾にめり込んだ。安心しろ。利き腕とは逆だ。
まぁとにかく、前途多難である。
わたしは先程のことを思い出し火が点いていた指先をこすった。
なんとか火はカラビア先生に消してもらったが、床で吐き気を催していようなので部屋を出てきた。
介抱しなくていいのかって?放置だ。だってむかついたし。
自分の部屋に戻ろうと城の廊下を歩いていると前方から見覚えのある人物が。
「日登美ちゃん!授業終わったの?」
「あ、ずみやん!」
途中退場したわたしはまだ誰も授業から帰ってこないと思っていたので嬉しい誤算だ。
日登美ちゃんに駆け寄った。駆け寄ったが日登美ちゃんの隣に見知らぬ女性が居たので途中で固まった。
「えっと…お邪魔でした?」
「大丈夫、わたしも終わったから。紹介するね。わたしの師匠のクローセルさん」
「日登美の友達だね?こんにちわ」
「こ、こんにちわ、日登美ちゃんと同じ渡来人の志水有唯です」
すっごい大人の女性だ。しかも、隙のないできる女性って感じ。メガネ効果か?
でもにこやかな笑顔がまぶしい。声色も優しい。きっといい人だ。この人。
訳もなく謝ってすみっこに隠れたい衝動にかられる。そんな失礼なことできないけどね!
「君も今日は自己紹介だけで終わったのかな?」
「いえ!軽い自己紹介のあと、ちょっと魔法を行いました。失敗してしまいましたが」
「いきなり魔法を行使したのかい?!しかも失敗?!君の師は誰なのかね!」
「え?えっと…カラビア先生です」
先生を師と認めたくなくて名前をしぶしぶ言うと、日登美ちゃんの師匠が目を丸くした。
「ああ、あいつが……なるほど。いや、驚いたなあやつが弟子をとるとは」
「師匠はずみやんの先生を知ってるの?」
「まぁな、あやつはこの国一の魔法陣創作者だ。その知識と発想力でいくつもの新たな魔法陣を創作し『カラビア』の魔術師名を命名された」
「ん?魔術師名?てっことはカラビアは本名ではないってことですか?」
「そうだ。もちろん、『クローセル』というわたしの名も本名ではない。魔術に関する功績を残すと魔術師と呼ばれ王家から魔術師名を命名される」
「魔法を使えるからってみんなが魔術師ってことではないんですね」
「ああ。君たちの世界と違ってこの世界の人々はたいてい魔術が使えるからね。魔術師名があるかないかで差別化を図る。あと、真名を隠すのにも丁度いい。有名になるとどこの誰かもわからぬ輩に呪いを受けたりするからな。君達も気をつけた方がいい。渡来人も衆目の的だからな」
へぇ~、そうなんだ。
すっごくためになる話である。うちのダメ教師とは段違いだ。
しきりに感心していると、日登美ちゃんのお師匠さんが苦笑いをした。
「カラビアは本当になにも教えていないのだな…わたしからも説教をしておこう。師として自覚を持てと」
日登美ちゃんのお師匠さんと先生は知り合いらしい。
先生を知っているということでわたしの口が軽くなった。ぐちぐちと文句が出る。
「王命でしぶしぶらしいです。師というか魔法を教えてくれる人って感じですね…」
「それを師というのではないのか?」
「なんか、教鞭をとったことないから教師ではないとかなんとか」
「王命とはいえ、ひとりの魔術師を育てるのだ。そんな無責任なことを言うべきではないな。本当にあやつは…」
いいぞ!先生めすっごく怒られてしまえ!
胸の溜飲がすっと落ちた。
日登美ちゃんの師匠さんは頼りになる!
今度からはわからないことは日登美ちゃんの師匠さんに訊こう。