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勇者のヒーロー  作者: 梅こぶ茶
Ⅲ.勇者の剣
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17.カラビア師匠の動揺。


マリスタン城のとある部屋の前。


カラビアは動揺していた。


弟子にある容疑がかかってしまい姫殿下に姫の治める王領に隔離されてしまった。

自分は彼女の師匠であるというのに姫はわたしにさえ面会を許してくれなかった。師匠が弟子に会ってはいけないなどそんなバカなことあってたまるか!と憤慨したものだ。ようやく面会許可が下りたのでいそいそと会いに行ったのだが、そこでとんでもないものを発見してしまった。

そして、カラビアは思わす「ソレ」を弟子に黙って拝借してきてしまったのだ。


泥棒の様な事をしてしまった。なんで弟子に一言「貸してくれ」と言えなかったのだろう。

無防備に机の上に置かれていたソレを視界に入れた時、ソレが何かわかってしまったのだ。魔法陣についての知識にわたしの右に出る者はいない。だからわかってしまったのだ。一目でソレが何か。

だから、とっさに手が出てしまった。物欲が出たのではない隠ぺいしたかったのだ。


もう一度言う。弟子にはとある容疑がかかっている。


わたしはその罪名を聞いた時、鼻で笑った。そんなことあるわけがない。

このマリスタン城は聖結界が張られている。聖結界は魔物どころか低位・中位魔族すら入り込めない強力な結界だ。他国ではこんな強力な聖結界を広範囲に張れはしまい。その聖結界の魔法陣を創ったのはこのわたしなのだから胸を張って言える。

難点と言えば高位魔族となると聖結果を破壊できるというところだが…。その時は他の王宮魔術師に頑張ってもらうしかない。それは仕方がないのだ。高位魔族すら入れない聖結果を張る事も出来るが…それは強力すぎるのだ。リスクも高い。しかも欠点が多いくせに利点は少ない。だから一段落低いレベルの聖結界を張っている。決してわたしの力不足ではない。わざとだ。


おっと話が逸れた。まぁ、そんなマリスタン城から弟子は出たことがない。

この弟子は極端な面倒くさがり屋で、自室で寝台に居るのが好きだと言う怠惰な性格だった。無駄な時間を浪費したがる弟子の思考はわたしには理解できない腹立たしくも思ったが…プライベートまで口を出すのは如何なものかと口には出さなかった。だが、今回はそれが功を奏した。


聖結界を張られている城から出たことがないユイ・シミズがどうやって魔族と契約を交わすと言うのだ。


渡来人がいた世界とやらは、魔法もなければ魔族もいない世界だと言う。城に来る前に契約していたということもない。とにかく、あらぬ疑いだ。あの面倒臭がり屋が魔族と契約など面倒なことをするわけがない!

魔法陣なし詠唱短縮魔法など……きっと誤解だ。どこかに魔法陣が隠れてあったとか知らぬ間に魔法具を使っていたとかに違いない。

わたしはそう信じていた。師匠が弟子を信頼しなくてどうする。この世界での後見人は王だが、わたしは彼女の「親」のつもりだ。親が子を守るのは当たり前だ。うん。


そう信じていたのに……どうして「コレ」を見つけてしまったのだろう。


自分はそうすればいい?

わたしは王宮魔術師としてアルマ国に忠誠を誓っている。王に報告すればいいのか?

しかし、わたしは彼女の「親」だ。黙殺して国益を損なおうとも彼女を守ればいいのか?

それとも問いただして契約破棄をさせればいいのか?そんな方法があるのか?

できたとしても一方的に契約破棄すれば契約主の魔族が黙っているはずがない。

そんなことになればやはり国に迷惑がかかるのではないか?


自分一人では抱えきれない。

カラビアはもう一度とある部屋のドアを見る。彼女ならわたしの相談に乗ってくれる。彼女は口が堅いこのことを吹聴などしない。彼女なら真摯に話を聞いて応えてくれる。彼女なら…彼女なら…。



――――というかカラビアは彼女しか友達がいなかった。彼女しか相談相手がいない。



そのことに「いいんだ!ゼロではない!」と言い訳し、首を左右に振って気持ちを切り替える。

カラビアがようやく長考を終えドアをノックする。「はーい」と軽い返事が中から聞こえ彼女が部屋から出てきた。


「――クローセル、少し相談にのってくれないか?」

「ふふ、またユイのことかね?もちろんいいとも、我が友・カラビアよ」














場面は変わって、ユイはこの状況を嘆いていた。


友達が会いに来てくれた。それは素直にうれしい。3人でも。

その他の方々は師匠の許可が下りなかったり授業があったりして来れなかったらしい。そういう理由なら仕方がない。そこはいい。わたしが解せないのは別のことだ。


3人は学校の制服を着ていない。

やっちは剣士っぽい格好。腰の剣を下げてカッコイイ。日登美ちゃんは魔術師っぽい格好。マントがそれっぽくてカッコカワイイ。雪乃は格闘家っぽい格好。戦えますって感じでカッコイイ雪乃のくせに。

城では渡来人と分かりやすいので制服をなんとなく着ていたが、今日は町中だ。それはわかる理解できる。理解できないのはわたしの格好だ。なんで…なんでひとりだけ街娘の格好なんだ。可笑しいだろ?3人は冒険家のパーティのような感じなのにその中にひとり街娘。町の人も怪訝そうに振り返ってる。原因は絶対わたしだ。

鬱だ。鬱すぎる。だから着替えたかったんだ。それなのに、3人がそれでいいって面白がってさ、このざまだよ。くそ!絶望した!


「ずみし、そんなに落ち込まないでよ…気にし過ぎだって!」

「じゃあ雪乃の服と交換しようそうしよう」

「ごめん、わたしじゃその服は着れません、裾引き摺ります」

「じゃあ、やっち」

「ごめんずみし、おれにフリフリスカートはムリ。似合いません」

「わかんないよ?着てみてから考えよう」

「ずみ、マジ勘弁、ごめんなさい、すみませんでした」

「もう、ずみやんも機嫌直してよ、似合ってるから大丈夫!」

「日登美ちゃんなら大丈夫胸のサイズもぴったりだろうし、そうしよう」

「え?なんでそこで胸のサイズが出てくるんですか?もう諦めなさい」


三人ともいけずだ。くそくそ。

拗ねながらも三人の後をついて歩く。足は止めない。そんなことすれば置いていかれる。

この知らない町の中、迷子になったらわたしはひとりでお屋敷まで帰れませんから。


そんなことを考えていると目の前に鬼火が走って行く。あ、あれ鬼火じゃなくてサラだったわ。


『後悔してるんじゃない?このわたしと二人で散策にいかなかったこと!』

「いや、それは全然後悔してない」


キッパリと否定すると、サラがずっこけるかわりに、力なく道端に落ちて行った。

いや、出かけることに異議はないんだ。異議があるのは服装のことだけなんですよ。

わたしは前を歩く日登美ちゃんに声をかけた。


「日登美ちゃん、目的地までまだあるの?」

「うーん、もうちょっと。町はずれの『勇者の神殿』があってそこに剣があるんやってー」

「ぷっふぁーっ!!勇者、の、し・ん・で・んっ!ちょっ!腹イタイ…っ!」


勇者の神殿だなんてなんの捻りもないストレートすぎるネーミング!

いや、勇者の剣もそのまんますぎるけどね!いや、ツボった!


「おぅ、ずみがツボってる」

「相変わらず人と笑いのツボがずれてる」

「ずみが楽しそうで何よりです」

『何がそんなにおかしいのよ!ちょっと笑いすぎ、深呼吸しなさい深呼吸!』


この場面で一番まともなことを言っているのは火妖精のサラのみだった。

なんということだ、このパーティーツッコミがいない。強いていえば雪乃はツッコミ役だがこの子は時々天然ボケのいじられキャラなのでツッコミとしては役者不足だった。


こんな感じでわたし達は衆目を集めながら勇者の神殿へ向かっていた。



この時、城で何が起きていたかなんてわかるわけもなく、レイのことも完全に頭の片隅に追いやっていた。

しかも、この後起きた事件のせいで完全に頭の中から消し飛んだわけです。

勇者の神殿でのことはわたしのせいではないが、城での出来事は深く考えず曖昧にしていたわたしのせいだったのに。



師弟ともになんかのフラグが…。

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