16.嵐は去…っていないらしい。
カラビア師匠が屋敷を去って早2日。師匠が戻ってくる気配すらない。
レイにそれとなく様子を窺ってもらおうと思ったら……レイの召喚陣がかかれたハンカチを失くした。
おかしい、机の上に置いてたはずなのに。カラビア師匠が勢いよくドアを開けたから飛んでいっちゃったのかね?
また、レイが拗ねそうだなぁ…今回はわたしは悪く…いや、悪いか。
城に戻れたら図書館いって謝るか。
そして、レイのかわりにって言っていいのか、いまわたしの傍にいるのはサラだ。
相変わらず屋敷に引きこもり中のわたしに色々と小言をいってくるのでうるさい。
『不健全よユイ!日光にあたらないと魔に魅入られるわよ!』
「そんなわけないでしょ、アンタはわたしのオカンか」
そんな問答しつつ一日がはじまる。もう定番です。
そうそう、このサラは見た目通り炎を司る妖精らしいですよ。しかも、初めての魔法授業の時に力を貸してくれた妖精だっていうじゃないですか。
キラキラした眼でわたしを見て魔石けっ飛ばし指にかじりついてきたあの妖精さんですよ。このことを初めて知ったときは、マジでか?!って叫んでしまったほど驚いた。
確かにあの時、使おうとしてたのは炎を魔法で、魔法陣にいた妖精はサラと同じ炎の髪をもつ子だったと思う…。妖精を一匹一匹じっくりと見たことがなかったので気づかなかった。
あの魔術失敗からずっとサラは好奇心でわたしの傍にいたそうだ。マ、マジでか…。
だからあの時「わたしは無視するのにレイの肩ばっかり持って!キーーッ!」ってなってたのか。レイはとばっちりじゃないか。これは中学の時に取得した煩わしい関心がないモノをスルーする癖を発動してしまったわたしが悪い。この悪い癖は直さなければと思っているのけど…難しい、今後の課題だ。
この話を聞いてしまってからは、追い目のためサラを無碍に追い払うことができず好きにさせている。完全に私が悪いわけじゃないけど…サラが心を抉るようにこんんこんと話すから折らざる負えなかった。
そこまでしてわたしの傍にいたいものかね?わたしなんて平凡で楽しくないと思うけど…よくわからん。
『とにかくベッドから起きなさいよぉ!今日こそ外に出かけるわよ!』
カーテンを開けられ上に布団をめくられる。
眩しくって眼を瞬かせるが、頭がぼうっとして覚醒してこない。
これはもうちょっとかかるな。そう判断してもう一度ベッドにダイブした。
『あ!せっかく起きたのに!寝るなぁー!』
「もうちょっと陽の光を浴びたら起きられる…かも」
『かもじゃないぁあああいぃ!!』
チィッ。
二度寝が許されなかったため、しぶしぶとベッドから這い上がった。
いつものズボンとシャツを着るとサラから再び非難の声が。
『外に行くって言ったでしょ?!何部屋着なんか着てんのよ!』
「外に行くなんてわたし言ってないけど?やだよ、めんどくさい」
『なによ!メイドに声かけられなくて不貞腐れてるだけでしょ!心配しなくてもわたしが案内してあげるわよ』
「別に…不貞腐れてなんか…」
『不貞腐れてないならいいじゃない、外行きましょ色々教えてあげるわよ』
「…………わかった、いく」
ようやく頷いたわたしにサラは『よっしゃやあ!!』と叫んでガッツポーズをとる。
こっちの世界にもガッツポーズあるんだな。
サラの執念に負けたわたしはしぶしぶクローゼットを開ける。
この中には制服の他にアヤさんがカバンに詰め込んでくれた服、そしてココにもともとあった服が数着ある。
アヤさんが詰め込んでくれた服はちょっと高級感がある服、なんかいいとこのお嬢様のような服なのでそれを避ける。そんな服、街中に着ていけない。制服は論外なので仕方なくここにもともとあった服を取り出した。
うむ、なかなかいい。派手すぎず地味すぎず街娘がちょっとおしゃれしてる感じだ。
自分にはちょっと派手すぎるような気がするがこの中では無難ではある。これにするか。そしてわたしは無難な紺色の服を取り出した。
「おぉ、ぴったり!でも、これじゃあいつもの髪型は変じゃない?」
鏡の前に立ったわたしはサイズが丁度なのに驚きながらも(胸まわりが緩い気がするが紐で調節できるのでそれは気づかなかったことにする)服と髪が合わない事に唸る。
服が可愛いからいつもの一つ括りでは服に髪が負けるというかなんというか。味気ない気がする。
でも、網こみとかできないから小技が利いたおしゃれな髪型はわたしにはハードルが高すぎる。
眉間にしわを寄せて妥協するかと考えているとサラが紺のリボンを持って登場した。
『わたしに任せなさい♪』
サラは鼻歌を歌いながらわたしの頭のまわりを飛び回り器用に両耳上あたりから三つ網をあみ首元あたりでまとめあげリボンをつけてくれた。
すげぇ!どうまとめあげてるのかわからない!
わたしは嬉しくなって満面の笑顔でサラにお礼を言った。
「サラありがとう!なんか可愛いコレ!」
『うふふ、これぐらいどってことないわよ。それよりアンタそんな顔で笑えたのね。そっちの方にびっくり!いつもそれくらいにこやかに笑ってたらいいのに、雰囲気かわるわよ?』
「失礼ね!わたしはいつも笑ってますよ」
『それ冗談?マジでいってんなら笑えないんですけど』
サラがまだぶつくさ言ってくるけど上機嫌になったわたしは次の行動に出ていた。
この服にあるカバン探しだ。どんなカバンがあうんだ?布のかばんは…合うのかコレ?
網籠でいっかなんて思っていると部屋にノック音が響いた。メイドさんかな?
はい、と返事すると案の定メイドさんが入ってきた。まぁこの屋敷、人が限られてるからね。
メイドさんは礼をしてわたしに告げてきた。
「ユイ様、お城からお客様がお見えです」
「え?客?あ、カラビア師匠?」
「いえ、ユイ様のお友達と伺っております」
「友達?」
わたしの友達といえば…。
にょきっとドアから顔を出しているのは3人。
「やっち!日登美ちゃん!雪乃!」
「やっほー!ずみやん!遊びに来たでー」
「うおぉすげぇー!ずみしがお嬢様や」
「ちょっと目を離した隙におしゃれに目覚めたのかな?え?お姉さんに言ってみなさい」
やっちと雪乃の台詞にはっと我に帰った。
制服以外はズボンしか履かない性質のわたしがいま履いているのはスカートである。
他所の国の民族衣装を着るような気分で浮かれていたわたしだったが二人のお陰で戻ってきた。
何が戻ってきたかと言うと―――羞恥心だ。
「ずみ、大丈夫よ。よう似合っとるよー」
「そうそう、どこのお嬢様やと思ったけど似合うわ。惚れたなコレ」
「髪は自分でしたの?」
「………メイドさん。お願いわたしのことはそっとしておいて」
せっかく這い出てきたベッドに逆戻りし、羞恥に耐えているわたしを3人はとり囲んできた。
「着替えます。着替えさせてください」
「もったいない!そのままでいてくれ!いいわぁ女の子やわー」
「やっち変態くさい。でも、そのままでいいよ。外に行こうと思ってたから丁度いいし」
「外?」
外ってことは街に行くってこと?それならわたし達と目的は一緒だ。確かに丁度いい。
雪乃に腕を引っ張られベッドから立ち上がる。すると、肩にとまったサラが再びぶつくさ言い出した。
『わたしがようやくユイをその気にさせたのに…』
まぁ、確かに悪いことした。あんなに熱心に誘ってくれていたのをスルーして、友達の一言で行く気になっているのだから。
わたしは苦笑して小声で「ごめん、また今度」と囁いて、友達に向き直る。
「どこかに行こうとしているの?」
すると日登美ちゃんがにっこりと笑って楽しそうに話してくれた。
「そうそう!もともとずみやんの様子を見に行こうと思ってたんやけど、面白い情報を姫様が教えてくれて。ずみやん連れてそこ行こうと思って!なんやとおもう?」
「え?面白い?………お祭りでもあるの?」
「お祭りもええけど、もっと面白いモノ。さすがファンタジーって感じ!」
ちょっと興奮気味に話す日登美ちゃんにわたしは首を傾げるしかない。
いったいなにがあるというのだ。他の二人もこころなしかニヤついている。
そこまで焦らされるとだんだん腹が立ってくるんだけど…。
わたしの我慢の限界ははやい。あっという間で突破するから早く言ってくれ。
わたしのこころうちの声が聞こえたのか、日登美ちゃんはじゃーん!という効果音付きで答えを教えてくれた。
「なんと!この街には『勇者の剣』があるんだってっ!すごいでしょ?!」
え?
いまゲームなんかで聞きなれた言葉が出てきたんだけど。聞き間違いかな?
「すげぇだろずみし!みんなで見に行こうぜ!『勇者の剣』ってどんなやつかな?」
……また聞こえた。聞き違いじゃないらしい。
「ほらずみ!ボケッとしてないで早くいこう!」
雪乃にひっぱられ4人と1匹で事実上わたしの部屋から慌ただしく出て行くことになった。
え?マジですか?
ようやくでてきました「勇者の剣」
長かったような短かったような…。