14.こら、ちっちゃいの!喧嘩しない!
「え?魔女?」
レイと仲直りした後、レイのわかる範囲だけの情報を教えてもらった。
図書館の噂では、なんとわたしには魔女の疑いがかかっているそうだ。
「魔女って魔法を使う女の人のことじゃないの?」
わたしの認識ではこの世界の女の人はみんな魔法が使えるので魔女なんだけど…。
やはりそこは異世界で、少し特別な意味があるらしい。
『この世界では魔女とは裏切りモノのことだ』
「え?!裏切り者?!わたし誰かを裏切っちゃったぁ?!」
『もう少し詳しくいうと、魔女とは―――人間を裏切り魔族に魂を売り渡し隷属となっているモノのことだ。魔族の隷属になると主たる魔族から力をもらい魔法陣なしで強力な魔術行使ができる』
「え?魔族…?」
なんかいま不吉な言葉がたくさんでてきた。
魔族、魂、隷属、人間の裏切り者、魔法陣なしでの魔術行使…。
その言葉だけでわかる………わたしヤバイ。
「え?なんで?わたしがいつ魔族と会ったっていうの?マジふざけんな?」
『ユイ落ち着け!もちろん第二王女が弁明している。城には聖結界が張られていて、低位・中位魔族など入り込めない。高位魔族が入り込めば城の魔術師が気づく。ユイは城から出たことがないのだろう?』
「うん、出たことがない」
『では城の中から現れた渡来人のユイがいつ魔族と契約できる?明らかに濡れ衣だ』
「ホント?わたし大丈夫?」
『大丈夫だレイがついている!第二王女にユイの仲間も味方だ!』
胸を張りレイが力強く宣言してくれた。
レイが頼もしい!じわっと涙が滲みそうだ。
そうだよ、わたしは魔族となんか契約してない。
魔法陣なしで魔法が使えたのは単なる事故だ。うん。
その場のノリと勢いでちょっとでちゃったんだよ。
きっとわたしが気づかなかったところに魔法陣があったに違いない。
引きこもり万歳!
わたしは感激とともに頭の中で自己解決を図っている。すると視界に何かが入ってきた。
そちらに顔を向けるとなんと妖精がいた。驚いた。レイがいるときにはいつも近寄ってこないのに。
しかもこの妖精、最近ずっとわたしにくっついている変な妖精じゃない?
もしかしてレイと仲良くなってくれようとしているのかな?
なんて淡い期待を抱いて様子を見守っていると。
『~~!』
『な、なんだ!嘘ではない!』
『~~~~~~~~~!』
『うるさい!うるさい!なんと言われようとユイはレイが守る!』
『~~~っ!~~~~~』
……なんか喧嘩してるみたい。
しかし、レイ以外の妖精もしゃべるんだ。ティンカーベルみたいにしゃべれないと思ってた。
……わたし本当に妖精はティンカーベルしか知らないんだな。自分の知識のなさに絶望した。
わたしの知識のなさはひとまず置いておいて。喧嘩を止めないと。
「レイ喧嘩しないで」
『でも、ユイ『ソレ』が…』
「わたしには炎の妖精みたいな子の声は聞こえないけど、とにかく喧嘩しない!」
『う…、ユイがいうなら』
「よし!良い子!」
喧嘩をやめると言ったので褒めてあげるとレイは嬉しそうに微笑んだ。
ん?なんか炎の妖精っぽい方がわたしの顔の前まで来て何かを訴えている。
しかし、近くで見るとますますファンタジーでよく出てくるタイプの妖精だ。
紅い炎の頭に、カラダは緑、気が強そうな……女の子?服は着てないけど性別はわからない。
「なんて言ってるのかしら?」
興味が出た。この子の言ってることも聞こえたら面白そうだ。
そう考えた時だった。
今の今まで口パクで音すら出ていなかった妖精の声が突然聞こえるようになった。
『ちょっとアンタ!コイツに甘すぎる!喰われちゃってもしらないわよ!』
……思っていたより辛辣で口が悪いようだ。
レイはちょっと古めかしいしゃべり方をするが最近口調が砕けてきている。
この妖精はちょっとヒステリックな都会の高校生っぽい。現代風だ。
『レイがユイを喰うわけない!言いがかりはヤメロ!』
『どうだか!魔物はヒトを喰べて糧にするんでしょ!』
『レイは魔物ではない!妖精だ!『ソレ』等と同じ『陽』のモノだ!』
『フン!アンタと同じですって?一緒にしないで!ちゃんちゃら可笑しい!』
あぁ……、やっぱ聞こえない方向でお願いします。
聞こえたとたん後悔したが無視できないようだ。炎っぽい妖精の方が口達者のようでレイが泣かされそうだ。というかこれ泣いてるんじゃない?
おかしいなレイは図書館の九十九神みたいな妖精だったはず。語彙は多いはずなのに…。こういうのは経験値の差かな?
そろそろ喧嘩を止めないとね。
「はーい!ストップ!これ以上はダメ!」
二人の間にわたしの手を割り込ませた。二人とも身体がちっちゃいのでわたしの手が丁度いい壁になった。
『ユイはなんでコイツの味方なの?性質悪いから近づかない方がいいのに』
『ユイをユイと呼んでもいいのはレイだけだ!『ソレ』はダメ!』
おう!火の粉がこっちにもかかってきた。
あと、確かにこっちの世界ではユイと呼ぶのはレイだけだけど、元の世界では親とかは名前で呼んでるからね?あなただけではないわよ?
『ソイツはね、城の聖結界と封魔結界の狭間にある特殊空間で生まれた魔物よ。わたし達とは別のモノ。城の中には他に魔物はいないから勘違いしてるのよ。自分もわたし達と同じモノだってね』
『嘘だ!レイは特殊な妖精だ……魔物では決してない!』
とうとうレイが泣いてしまった。炎っぽい妖精がそれをフン!と鼻を鳴らし冷めた眼で見ている。
わたしは二人によく聞こえるように大きく溜息をついた。
「あのね。レイには勉強を見てくれたり色んなことを教えてもらったりして結構お世話になってるわけ。それを魔物だからなんて突き放したらわたしが悪者じゃない。魔物だろうと性質が悪いモノだろうとわたしやわたしの周りの人に害が及ばないのなら別にいいの。あなたにとやかく言われる謂れはないわ」
『ゆいぃ……ぐすん』
レイが鼻をぐちゅぐちゅにして涙目でこっちを見上げている。なにやら感極まっているようだ。
これぐらいでバカだなぁ。でも、バカな子ほどかわいいのですよ。
『……ユイはそんなにソイツが大切?だからわたしの言葉はいままで無視してたの?ユイに力を貸したのだってわたしの方が早かったのに?わたしはダメなの?』
あれ?なんかツンツンしてた子がいきなりしおらしくなった。
なんだか心なしか髪の炎の勢いも弱い気がする。なんなんだよ。あんたら。
「…………わたし別にダメだなんて言ってないけど?」
『本当に!?しっかり聞いたわよ!撤回はダメだからね!あと無視もなしよ!』
しぶしぶフォローを入れると。眼をらんらんと光らせる炎っぽい妖精と眼があった。
あれ?わたしなにかの罠にひっかっかった?
『卑怯だぞ!『ソレ』』
『ソレだなんて呼ばないでよね!わたしにはアンタと違って大母神様からもらった尊い名があるんだから!』
『フンだ!レイがユイに名をもらったぞ!名前の響きもユイと似ている!羨ましいだろ!』
『羨ましくなんかないわよ!バーカバーカ!』
この二人はどうやら何を言っても喧嘩する運命にあるらしい。
運命なら仕方ない。喧嘩を止めるなんて無駄な努力はせずそっとしておこう。
わたしはそう心の中で決意した。
「とにかくあたなには名前あるっていってたわね?教えてもらえるのかな?」
でも、言いたいことは言わせてもらう。喧嘩の最中であろうと疑問をぶつけた。
え?言ってることが矛盾してる?だって、言いたいことを気を使って黙ってたらストレスたまるじゃん。
『そうね…わたしのことは『サラ』って呼んで』
意外と人間っぽい名前だな。これならレイも変じゃないだろう。名前が浮くのは可哀相だもんね。
しかし、ようやく炎っぽい妖精の子の名前がわかった。今度は本当に炎の妖精なのか聞いてみよう。
「サラね、わかった。ねぇ、サラは…「ユイ・シミズ!!」
サラに質問しようとしたら言葉を遮られた。遮ったのは大人の男性の声だ。
この部屋にいないはずの声が聞こえ、部屋のドアをバタンッと乱暴に開けられ身体がビクッとなったわたしは悪くない。
ドアの方を振り向くとそこには……。涙を滂沱する中年――もといカラビア先生がいた。
主人公の周りがちょっと不穏になってきました。
シリアスっぽくなりそうですがなりません。大丈夫です。