13.隔離されて暇なので初めての召喚をしました。
この世界の魔法は魔法陣を使う。
魔法陣には色々な種類があり、それぞれ特性がある。
それを覚えるとそれだけたくさんの魔法が使えることになる。
魔法陣ではなく魔法具を使うこともあるが、その場合、魔法具に魔法陣が刻み込まれている。
結局、描く行為を省略してるだけで、魔法陣を使ってるってこと。
そして、次に大事なのが詠唱。
詠唱呪文に定型文などはない。ただし、具体的に言わないといけない。
「誰が」「どこに」「どのような魔法を」望むかをいう。
具体的なほど細かい(繊細な)魔法が使える。
あと、魔力量とかあるけど割愛する。
何が言いたいかと言うと、
この前わたしが使った、魔法陣なし詠唱短縮呪文はヤバイってこと。
わたしたちもなかったことにしたかったが、生憎、魔術行使をした場所は訓練所。
たくさんの兵士たちにばっちし見られてた。
しかも、的が炎上。鎮火するのに協力してもらったしね。
誤魔化すことはできませんでした。
その後、部屋に戻ってゴロゴロ悩んでいたら、噂を聞きつけた姫様が駆けつけてきた。
いや、あの時の姫様の迫力はすごかった。
有無を言わせず「ついてきなさい」の一言だ。
わたし絶対牢屋に入れられると思った。
でも、実際入れられたのは牢屋ではなく馬車だった。
「え?ちょっとぉ!?」とか喚く間にお城はあっという間に小さくなった。
小さくなる城に慌てたわたしは降りようと馬車から身を乗り出した。
そんなパニック状態のわたしを抑えつけたのは姫様だった。
「よいですか、ずみ様。落ち着いて聞いてくださいませ。今のマリスタン城はずみ様にとって危険なのです」
マリスタン城ってどこ?って思ったけど、わたしたちが住んでいるお城のことだった。
姫様が話を聞いてほしいと真剣な顔でいうのでしぶしぶ席に座った。
「他のみんなは?危険じゃないの?」
「みなさんは大丈夫です。いま危険なのは…狙われているのはずみ様だけです」
「えっ?!なんで狙われてんの?!」
聞き捨てならない言葉が出ました。
狙われてるって何?!誰に?!なんで!?
「ずみ様は魔法陣なしで単語呪文のみで魔法を使ったと聞きましたが…間違いないですね?」
「え…、はい。単語呪文ってよくわからないんですが…「炎の矢」って言ったら本当に指から炎が……やっぱ、まずかったですか?」
「いえ、それ自体は素晴らしいことです。そのようなことできる魔術師は聞いたことがありません。ずみ様は稀代の大魔術師になられることでしょう。ですが残念なことに……大きな力は争いの種にもなることもあるのです」
「ああ、それなんとなくわかります…」
姫様の言葉でなんとなくわかった。圧倒的な力は魅力的で畏怖的対象だ。
わたしたちがいたのは城で王族がいて貴族がいて権力が集中している場所。
自分の敵にならないよう、または、手駒にしたいと画策している奴がいるのだろう。
権力争いっていうやつ?
平和な国でもやっぱそういう醜い争いがあるらしい。
そんでいまわたしが巻き込まれないよう姫様が避難させてくれてるってわけだな。
姫様は苦笑して「申し訳ございません」と謝った。
別に姫様は悪くないのに。なんか大変そうだな。
「勝手ながら、宰相と相談した結果、わたくしの領地にしばらく避難して頂くことになりました」
「ん?姫様の領地?」
「はい、未熟ながらランリーズ領を任されております。そこでゆるりと休まれてくださいませ」
あ、休んでいいんだ。その一言に一気に心が軽くなった。
みんなと離されるのは不安だが一時避難だし、城以外の場所にいくのは初めてだからちょっとわくわくしてきた。
馬車は止まることなく走り一泊宿に泊まった後、ランリーズ領についた。
姫様の治めるランリーズ領は、城からそんなに離れていない場所だった。
しかし、自然豊かで畑が広がっている。ちょっとした田舎って感じ。
城下町を離れると大抵の領土は畑か牧場かの違いくらいでこんな感じなんだって。
さすが農業の国。
わたしはそのランリーズ領の姫様のお屋敷に居候させてもらっている。
わたしをここに連れてきた姫様本人は慌ただしくお城にとんぼ返りしてしまったが…。
でもまぁ、ここにもメイドさんがいるので、快適にのんびりさせてもらっている。
しかし、お屋敷に籠って早数日。ベッドの上で転がっているのも限界がある。
お城に居た頃は、授業があったり、友達とおしゃべりしたり、庭園でのんびりしたりとするとかやることが色々あったが、このお屋敷では何もできない。外に遊びに行ったらいいって思うでしょ?でも、姫様に単独行動禁止令を出されているんですよ。メイドさんに声をかけて一緒に遊びに行けばいいんでしょうけど……声をかけづらい。仕事の邪魔じゃないかなって思うと。
こんなに暇しているとパソコンが無性にしたくなる!お気に入りサイトさんの続きが気になる!しかも、絶対できないとわかっているから余計にイライラしてわたしのテンションがた落ちである。現実逃避にもってこいの本もここは少ない。ほとんどが農業に関する本、経済に関する本など専門書ばかりでつまらない。
ちなみに、城の中では渡来人とわかるように制服を着用していたが、とっくにログアウトさせている。
もう完全にこの世界の服を部屋着のように着ている。ズボンを着用しているのでこの格好の方がベッドに転がりやすい。
ダメ女爆発中で、暇で暇で死ねわぁーとか思っていたところで思い出した。
生きる図書館の存在を。
姫様には着の身着のまま連れてこられたが、なぜかアヤさんがしっかりと荷造りをしてくれていたので、私物が少しだけある。その荷物には制服も入っていた。さすがアヤさん。わたしは早速制服のポケットをあさる。あったあった。
折りたたんで胸ポケットに入れていたせいで折り目がついてしまっているが、レイからもらった召喚陣のハンカチ。
わたしは早速それを机の上に広げる。召喚陣は相変わらず光り輝いていて綺麗だ。もしかしてこれって妖精の粉だったりする?なんかわくわしてきた。妖精を召喚って魔法使いっぽくない?
うむと偉そうにそれを眺めた後、指をそっとハンカチに当て、それっぽく呪文を唱える。
『レイ、ここに来て』
ん?呪文っていうか普通に語りかける感じになったな。
でも、召喚陣は発動しているようで、キラキラっと光のエフェクトを起こしている。
『ユイ!遅い遅いぞ!なぜもっと早く喚んでくれなかった!』
喚んですぐなぜかレイがお怒りだった。
「え?だってこのハンカチの存在を思い出したのついさっきだもん」
『むぅー、レイはユイが喚んでくれるのずっと待ってたのに…』
なんかいましっぽ振って待て状態のレイを想像してしまった。
思わず噴き出した。
「ご、ごめんね?待ってくれてたんだね。しかし、ちっこいのにますますちっこい姿になったね」
召喚陣を使ってレイを喚び出したのは今回が初めてだ。だって、用事があれば図書館に直接いってたんだもん。暇だからさ時間とか惜しむ必要なかったし。だから、喚んだ姿がこんなリカちゃん人形サイズになるなんて知らなかった。
でも、こっちの方が妖精っぽいよ。
『レイは基本自分の領域から出られぬ。なので、ココには人で言う『魂の欠片』だけを召喚させた。カラダ全部ではないためちっこいのだ』
「へぇー、そんなこともできるんだ。すごいねぇー」
『ふ、ふふ!すごいか?すごいだろ?えっへん!』
なんかレイがふんぞり返ってきた。
ちょっとイラっときたので、スルーすることにする。
「お城の方は異変はない?他の渡来人は元気?」
『うーむ、さっきも言ったがレイは図書館から出られぬ。入ってくる情報も図書館を利用するモノたちの噂話ぐらいだ…詳しくはわらかぬ。ただユイが第二王女に連れて行かれた話は聞いてるぞ。……ユイ本人から事情を聞きたかったが……喚んでくれぬし…』
「え……なんか本当にごめんなさい」
レイがあまりにも悲壮感を漂わせていたので、今度は心から悪いと思い素直に謝った。
いきなりだったから誰にも私がランリーズ領のお屋敷に行くことを伝えていない。皆にはきっと姫様が事情を話してくれていると思うけど、レイのことは誰も知らない。突然なんの前触れもなく来なくなったわたしのことを心配してくれたんだろう。
それに、レイの友達はわたししかいない。他の人は見えないし、他の妖精はレイのことを避けている。いまも召喚前まで部屋に2、3匹、そして最近わたしにくっついてはなれようとしない妖精が1匹いたが、どこかに隠れてしまっていなくなっている。
わたしがいなければレイはひとりぼっちなのだ。不安だったのだろう。
わざとではないが、悪いことをしてしまった。
「ハンカチのことも思い出したし、これからはちゃんと喚ぶからね」
『――――――うんっ!』
最後はレイが笑ってくれたので丸く収まった……ことにしておく。
ごめん、領土名を旧名でうっかりあげてしまっていた。訂正。