12.ちょっとした事故だ。
部屋のベッドの上でゴロゴロしているとアヤさんに掃除が出来ないと言われ追い出された。あれ?部屋の主わたしじゃない?
でも、わたしの身の回りの世話をしてくれるのはアヤさんなのでわたしはアヤさんに逆らえないのだ。
最近、アヤさんがわたしに対し容赦ないような気がする。貫録もついてきてオカンに見える。年若いアヤさんにそんなことは言えないけど。
とにかく、部屋を追い出されたわたしは庭園の方へ赴いた。
気に入っていた中庭は諸隈さんと王子のデートスポット化としてしまったので、もう中庭には行かなくなった。
馬には蹴られたくない。他のお気に入り場所を探すため城をうろうろした結果、庭園に出くわした。
中庭より広くて日当たりも最高。草木に身を隠せるなかなか素敵な場所だ。
妖精が城内より多いが……まぁ、スルースキルが上がったわたしには些細なことだ。
で、庭園の四阿に辿りついたわたしは徐に椅子に寝転んだ。
いや、もう今日は何もしたくない気分なんだ。おやすみ。
しばらくうたた寝をしていると日登美ちゃんの声が耳に入り込んできた。
「おーい、ずみやん!こんなところにおった」
「え?……何?どうしたの、日登美ちゃん」
どうやら日登美ちゃんに探されていたようだ。一体何用?
「ちょっと時間できてな。最近どう?カラビアさんとは上手くいっとる?」
ああ、そのこと。
日登美ちゃんの師匠さんが説教してくれたりしたから日登美ちゃんも気にしてくれてるのね。
「うーん、ぼちぼち。前より改善されたけど打ち解けてはない」
「あはは、一端拗れると難しいもんね」
わたしもあれから色々と反省すべき点がでてきたので、もうちょっと歩み寄ってもいいかなって思ってるけど、本人目の前にしたら……なんか、やる気がうせるのよねー。なんでだろう?やっぱ、相性が良くないのかな?カラビア先生って真面目なA型って感じだし、妥協しない。わたしが理解するまで先に進もうとしないのだ。もうちょっと柔軟性を身につけてくれたら、付き合いやすいのに…。わたしまだ自分の系統魔法知らないんですけど。
「ほな、ずみやん。気分転換に射場にいかへん?」
「射場?城にあるの?」
「まぁ、この世界に銃もあるらしいけど高価で希少なんだって、だからまだ弓が主流の時代だからあるよー、りんも居るから行かへん?」
へぇー、弓があるんだ。まぁ、日本文化があるアルマ国でもさすがに和弓は使ってないだろうけど…ちょっと興味あるな。それにいま暇だし。
「見に行く!」
「よし!きまりやな!行こか!」
訓練場に来た。周りはむさ苦しい兵士だらけでちょっと及び腰になった。
日登美ちゃんと一緒じゃないとこんなとこ来ないね!
ちょっと奥の方に歩いて行くと弓矢の独特の音が聞こえてきた。
「おーーい!りん、ずみ連れてきたよ!」
的に向かって立っている諸隈さんがこちらを向いた。
諸隈さんは他の兵士に混じって弓矢の練習をしていたらしい。
女一人だというのに周りに人が居ないのは諸隈さんが王子の恋人って知ってるからなのかな?
「来たなずみ!さぁ練習するぞ!」
「え?練習するの?見学に来たつもりなんだけど」
「何言ってるの?!危険な国に行くんなら武術はいるでしょ?はい、練習練習!」
弓道って武術に入れていいんでしょうか?
それに咄嗟に襲われた時、弓でどうしろと?接近戦だと役立たずじゃん。
でもまぁ、わたしの身を案じてくれているのはわかるのでとりあえず諸隈さんから弓矢を借りた。
「やっぱ和弓より短いね」
「でもこれ長弓っていうんだよ?」
「え?1mぐらいだよね?これどっちかというと短弓っぽいんだけど…」
「でもこの世界じゃあもっと短い弓があるから長弓なんだって。それに数少ないけどクロス・ボウみたいなのもあるよ」
やはり同じ弓でも全然違う。なんか感心してしまう。
素材も違うのかな?竹じゃないっぽい。矢の羽も……なんの羽?
あ、矢じりも違う。競技用と違って大き目だ。これは…鉄かな?石ではない。
人殺し用の弓なんだな…。
「『離れ』はなしでとりあえず『引分け』までやってみましょうか」
「そんなこと言われても胸当てもかけもないよ?」
「あ、そうか!わたしの貸してあげる」
そういって諸隈さんが胸当てをわたしにつけてくれた。
これは皮?なんの皮かわからないけど丈夫そうだ。かけも…え?ただの皮?!
「ちょっと諸隈さん!本当にこれで弓引いてたの?!角もないよ?!」
「ちょっと厚めになってるから慣れると大丈夫!上級者はかけなしでも引けるらしいよ!」
かけなしで弓を引くってどうやるんだ?
諸隈さんが見本を見せてくれたけどムリだ。グー手で引くって何それ?
普通に親指と人差し指で掴む方法もムリだ。手が滑る。
うん、大人しくこの皮のかけを借りときます。
「的の方に向けて引いてみて」
今さっき来たばかり何の…もう弓を引かされるなんて。ゴム弓ないの?
離れはなしって言ってるからとりあえず引いてみるか…。
まずは、的に向かって足踏みから、足を肩幅ぐらいに広げる。
次に、 胴造り気持ち背筋を伸ばす。
弓構え、この時に手の内をつくる。
そんで、 打起し、ちなみにわたしは正面打起こしです。
引分け……って、ん?
「どないしたん?ずみ?」
急に動作が止まったわたしを心配して、日登美ちゃんが声をかけてくれた。
「硬くてこれ以上引けない…」
二人に爆笑された。
ふーんだ!どうせ部内最弱小ですよ!弓だって一番柔らかいの引いてますよ!
でもいいだもん!だって部内で一番的に中たるのわたしですから!
それにかけがいつものより薄いのが悪い!弦が食いこんで痛い!
「わたしも最初はそんなもんだったよ。練習あるのみ!わたしと練習しましよう!楽しい毎日を提供します(きりっ)」
「ずみやんは部屋でごろごろしすぎやよ、筋力衰えとるよ絶対」
「うーー、腕立て伏せとかするべき?でもわたし5回でつぶれる…」
「弱すぎるずみ、わたしでも20回はいくよ」
「えー、わたし50はいくよー」
はいはい!わたしが悪いんでしょ!鍛えますよ!
でも、ここはファンタジーの世界じゃない。弓で射るより魔法弾とかぶっぱなした方が破壊力あるんじゃない?
悪あがきにこんなことを言ってみたけど、ますます笑われるだけだった。
「そんな魔法使える人この世界でも片手の数くらいの人だよずみ、そんな数でなんの役に立つの?」
「でも、確かに魔法が使える世界に来たんだからやってみたいよね魔法でどっかん!って!」
さすが日登美ちゃん!話がわかる!
水を得たわたしは、日登美ちゃんと魔法談義を繰り広げた。
「矢だってどうよ?よくアニメである光の矢とか!」
「昔のアニメで炎の矢ってあったよね!光はムリでも炎ぐらいならできそうじゃない?」
「いいよねあれ!弓がなくても攻撃できるし!こう指を構えて…炎の矢ぁあ!」
おふざけで的を狙って某アニメの真似ごとをした。これぐらい誰でもすることじゃないだろうか?
カメハメ波の練習をするとか、鏡に向かってテクマクマヤコンとか、みんなそんな痛い思い出のひとつやふたつあるでしょ?え?例えが古いって?ゴメン昔のアニメが好きなんだ。
でも、マジで出来るとか思ってないよね?ちょっとした期待感はあっても心のどこかでまぁムリでしょって思ってるよね?実現しない事がわかっていてそれでも呪文がカッコイイから唱えてみたいって思うよね?それぐらいのもんだ。ちょっとした遊び心だ。
ごめんなさい。みなさんこっち見ないで。
わたしファンタジーを少しなめてたようです。
某アニメのようにわたしの指先から炎が灯り矢の形で飛んでいって的に見事に命中、炎上中です。
すみません、すみません。これはちょっとした事故なんです。
すみません。ファイアーアローとかあるし、炎の矢ぐらい定番技ですよね?駄目?ひっかかる?
とりあえず、弓道部ネタをようやく出せました。