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勇者のヒーロー  作者: 梅こぶ茶
Ⅱ.アルマ国
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11.カラビア先生の反省。

初授業から弟子となる少女と恥ずかしながら…喧嘩した。


黒髪黒目の大人しそうな子供だった。

自己紹介をしてやっても反応が鈍い。しかも、少し眉をひそめている。

初対面でそんな反応される覚えはない。


そこから私は機嫌が少々悪かったのは認めよう。


少女の無知が少しずつ癪に障る。

そんな初歩をこの私に説明させるのかと、魔法陣研究の先駆者であるこの私に。

魔術の師を引き受けたのは王命だからだ。私はアルマ国の専属魔術研究者。拒否権などない。

子供の頃から天才だといわれ正道を外れることなくしかも最短距離で突き進んできた。


はっきり言おう。私は人にモノを教えたことがない。


「あのね、君はそれでもあの子の師だ。逃げることは許されない」


そう言うと友であるクローセルに窘められた。


彼女との付き合いはそれほど長いものではない。

彼女は魔術師であり、私も魔術師だ。出会いは必然だった。

彼女はとても物腰が柔らかく見目に反して知識を貪欲に求めていた。

ひとつの分野に突き進む研究者然とした姿は親近感を覚える。

私達は顔を合わせると挨拶する間柄からすぐに知己となった。


私はアルマ国生まれアルマ国育ちでアルマ国専属魔術研究者。

他国には足を運んだことがない。それに比べ彼女は知識から知識へと渡り歩く渡り鳥だ。

彼女の専攻は日本文化研究。日本と名がつくモノがあればすぐに飛びつく。

アルマ国は日本人が多く異世界から渡来する。彼女がこの国に本拠地としている理由はそれだった。

そして今回もアルマ国国王から渡来人の師を私のように義務ではなく嬉々としてわざわざ拝命したのは、その渡来人が日本人だったからに他ならない。

だから彼女には私の気持ちがわからないのだ。

大事な研究時間を割かなくてはいけない煩わしさも、無愛想で口の悪い可愛くない弟子と顔を合わせなくてはならない苦痛も!


「だがクローセル!あれが貴女の弟子のようにやる気があるようには見えない!

 いつも他所見ばかりして上の空!理解力に乏しくそして完全に私を舐めている!

 そのようなモノにどう教えろと言うのか!?」

「では聞くがカラビア、君は彼女がなぜ他所見しているのか尋ねたか?」

「それは……尋ねたことはないが…」


クローセルは深いため息をついた。


「わかった。まず君たちは膝を突き合わせ話しあいたまえ」


話し合い…あの弟子と顔を合わせて話す。


―――――ムリだな!


「君は相変わらずコミュニケーションが苦手のようだね。わかった、話し合いは君にレベルが高すぎたな」

「私が悪いのではない!彼女が私と話す気がないのだ!」

「わかったわかった。では、こうしよう」


クローセルの人差し指がびしっと私の目の一寸前に突きつけられる。


「怒るのをやめたまえ」

「お、おこる?」


何を言われたのかわからない。いや、言葉の意味はわかる。

しかし、頭にその言葉が浸透してこない。


「君のことだ。彼女が無知からくる質問やら否定的な言葉とかを言えば鼻で笑ったり叱り飛ばしたりしているのだろ?」


クローセルは私の授業を水晶玉で覗いていたのか?

何故知っている。


「それでは彼女の心は君からますます遠ざかってしまう。君に心を閉ざす。しかし、それではいけない彼女は君の初めての弟子だ!」


初めての弟子。言われてみれば私は弟子というものを初めて持つ。

自分の人生をかけて極めたわざを受け継ぎ、その次の世代に教え、この世に伝え続ける存在。

弟子。ありきたりなこの言葉に胸の内がふるえた。


「彼女の信用を勝ち取れ!お互い信頼しあえる師弟関係を築け!その一歩として『怒る』ことを封印しろ!」

「信用…信頼……わかったクローセル。しかしなぜそれが怒らないということに繋がるんだ?」

「怒ったら話はそこ終わるからだ。だから怒りそうになったら一端堪えよ!」

「確かに怒るとその後の会話はないな…」

「堪えた後は、彼女の疑問に素直に答える又はダメな理由を話せ。彼女はこの世界の人間ではない。この世の理、暗黙のルール、世界の常識全て知らないんだ。そしてそれを教えるのが私たち師の務め」

「わかったクローセル!彼女に私の全てを叩きこもう!技も知識も常識も全て!」

「わかってくれたかカラビア!仲を取り持った私もうれしいぞ!」

「ありがとうクローセル!私が間違っていた私は怒りを堪えて見せる!」

「その調子だカラビア!彼女は日登美の大切な友達だよろしく頼むよ!」

「ああ!まかせてくれ!これから魔術の授業だ!さっそく実践してくるよ!」


いつも優美に歩くカラビアがどしどしと音をたて廊下を歩いて行った。

そのカルビアの背中にクローセルはにこやかに手を振り見送る。


「………持ち上げすぎたか?」


ぼそっとそんな言葉をこぼしたがそれを聞いた人はクローセル本人のみ。

とにかく彼女―ユイとの約束は守った。

これであの信頼度ゼロの冷えた師弟関係もなんとかなるだろう。

クローセルはいい仕事をしたと満足げに頷いていた。


この時のクローセルは、自分のお節介も鈍感で意外と執念深い有唯には通用せず、カラビアの努力も虚しく空回りするだけとは思ってもみなかった。



カラビア視点。カラビアの頑張りも有唯にはスル―されました。

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