9.調査中そして突撃!
Q.志水有唯とはどのような人物ですか?
「え?ずみやん?ずみやんは…不思議な子ですね。面白いんやけど、なんていうんやろなぁ…まぁ話してみたらようわかると思いますよ?」
「シミズ?…ああ!ずみしね!ずみしは変わった子でして、最初は無口無愛想でやる気もないからはっきりいって嫌いだったんです。でも、半分くらい誤解でした。いまは好きですよ?すみしのこと。最近はわたしをいじめてくるけど……嫌だって言ってるのに」
「わたしは部活が違ったのでずみしのことは実はまだよくわからないんです。掴みどころがないっていうか…深そうで浅いというか…。マイペースですよね彼女」
「ずみしね!今回は間違わなかった!ずみしはねいい子ですよ!癒し系だと思ってます!疲れた時にずみしを見るとぎゅって抱きついちゃいます!雰囲気がですねふわっとしてて、こちらも和んじゃうんですよ!」
「ずみ?ずみは我儘ですよ。自己中で自分勝手。自分がイヤなことはしませんしね。でも、優しかったりオレの話聞いてくれたりするから嫌いになれないんですよ」
「彼女とは中学から一緒なんですが、中学の時から謎ですね。ミステリアスな女です。でも、中学では弓道部主将でしたよ、カリスマで引っ張るタイプじゃなかったけど、的中率は一番良かったです。同じ立場になって改めて思いますが、50人もの部員相手によくやってたと思いますよ。普段適当でしたが、後輩のいじめ問題の時のずみはカッコよかったです」
「オレにずみしを語らすと夜中までかかりますよ!覚悟はよろしいでしょうか!?」(調査断念)
調査者は羽ペンをピタリととめる。調査内容を書き留めた用紙を折り懐に入れる。
彼女付きのメイドによると、今日の彼女は自室にいるとのこと。
準備万端だ。いざ!突撃!
調査者である彼女はドレスを翻し、自分の部屋を出て行った。
「貴女は志水有唯でしょ?なぜ『ずみ』と呼ばれているのですか!『ずみ』とはどういう意味なんですか!」
いまなぜか目の前にお姫様がいる。
そして理不尽に怒られた。なんで?
さっきまでわたしは部屋のベッドでごろごろ惰眠を貪っていた。至福の一時である。するとアヤさんに叩き起こされた。なんでも姫様がこれからわたしの部屋に来ると。
……………なんで?
慌てて支度をする。わたしがじゃない。アヤさんが。お茶の準備をしてくれているので、やることがないわたしはソファに座った。そういえば王族に対する作法ってものを知らない。わたしはどうすればいいかアヤさんに訊いた。すると「姫様がお見えになりましたら立って出迎えなさい」と言われてわたしは泣く泣くソファから立ち上がった。
しばらくするとノック音が部屋に響いた。
アヤさんがドアを開けると……開口一番に怒られた。
本当によくわかんないです。とりあえず、おちついてください姫様。
とりあえず、席をすすめソファに再び腰をおろした。
「『ずみ』はあだ名ですよ。別に意味はありません」
「意味がないなら『ずみ』という名前はどこからでてきたのです…でてきたの?」
「………なんですか?何で最後言いなおしたんですか?」
別に言葉は間違ってなかった。噛んだわけでもない。なんだ?
すると姫様がよくぞ聞いてくれましたとばかりに身を乗り出してきた。
「前にも申し…前にも言ったけど、わたしはみんなと仲良くなりたいのです…なりたいの!だからまず、わたしから一歩進んでみようかと!みなさんと一緒のしゃべりかたを研究中ですの!」
「………姫様…言いにくいんだったら無理しなくていいと思いますけど(しゃべれてないし)」
「わたしが敬語のままですとみなさんも敬語のままではありませんか!」
「そりゃまぁ、姫様が敬語で私たちがタメ語ってわけにはいきませんでしょ」
「ほら!敬語です!あと姫様もやめてシャアラと呼んでください!」
「姫様敬語のままですよー」
「はぐぅ!」
姫様の敬語を指摘すると姫様は胸を押さえソファに沈んだ。
初めて会った時も思ったけどこの姫様は面白い。自称アイドルというだけある。
王族ってもっと奥に引っ込んで出てこないイメージがあった。
けど姫様も王子様も活発で騎士数人を共にするだけで城下に偵察に行ってしまうとか。
まぁ、治安がいいってのもあるけど、この国の人々がのんきすぎるってのもあるかも。
それでいいのか?王族が…。まぁ、わたしはいいんだけど。
「と、とにかく今はあなたのあだ名についてです!教えて!」
「別に深い意味は無いですよ?しみずを逆から読んで下さい」
「しみずを?……ず・み・し…あっ!」
ようやく気づけたようですね。
名字を逆から言ってるだけなんですよね。
これは中学時代についたあだ名で、友達に「たなかまい」って子がいた。その子が逆から読むと「いまかなた(今、彼方)」と意味のある言葉になるって言い出した。で、他の子たちも自分の名前を逆から読むという遊びが流行った。わたしの場合、なぜか「しみず」より「ずみし」のほうかしっくりすると言われ一部の子にずみしと呼ばれるようになった。しっくりくると言われてもよくわからんが、珍しいあだ名だなっと自分でも思ってて結構気に入ってた。なので高校の時に新しい友達にあだ名は何?と言われ「ずみし」に統一した。他にもしーさんやらしみっちゃんやらあだ名はあったけどずみしだと確実にかぶらないでしょ?結構重宝しているあだ名なんです。
「なるほど!よくわかりました!ではわたしの場合はラアャシですね!」
「・・・・・言い難いからシャアラでいいと思いますよ」
「だから敬語はいりま…いらないっていってるでしょ?」
「そのうち無くなると思うんで気長に待って下さいよ」
「そう言うわけにはいかないの!父上のせいであと1年しかなんだから!」
「え?1年?」
いま聞き捨てならないことを聞いた。
あと1年って何があと1年なの?
姫様がヤケクソ気味に叫んだ言葉にわたしは眉をしかめる。
1年という単位でしなければならないことなどなかったはず。
しかし、姫様が焦ってわたしたちと仲良くしようとする理由はその1年が原因なのはわかった。
なんか胸がざわざわして嫌な予感がする。
でも、ここで問いたださないと余計に悪くなりそう。
わたしは意を決して姫様に詰め寄る。
「シャアラ様、あと1年って何が1年なの?わたし知らないから教えてくれる?」
わたしがそういうとシャアラがしまったと言いたげに手で口元を隠した。
もう聞いてしまいましたから、隠しても無駄です。
「会話のテンポが良すぎてうっかりしゃべりすぎてしまったわ」
「それはわたしのせいじゃないです」
「いえ、貴女のせいです。普通にしゃべってくださるので、浮かれてしまいましたわ」
……普通にしゃべってたのかな?わたし。敬語が怪しくはなってたけどよくわからない。
姫様は深く溜息をついたあとしぶしぶ話し始めてれくれた。
「まだこの世界に不慣れな貴女方に言うつもりはありませんでしたが、貴女方に関係あることです。いや、貴女方のことです。知っている方がいいのかもしれません。わたしでは判断できかねますので、聞いたずみ様が皆様に伝えるかどうか判断なさってください」
「(姫様にまでずみって言われたよ…しかも様付け)わかりました。お教えください」
姫様が言うには、ことの発端は、わたしたちの魔術の先生らしい。
この大陸にいる魔術師は大体50人程。圧倒的に少ない。アルマ国には3人いたが、魔術を教わりたいわたしたちは8人。魔術は暴走することがあるので、教えるのは一対一が好ましい。
足りない魔術師をどうするか頭を痛めて、それを同盟国の王様に話してしまったらしい。離れているのにそんなに簡単に愚痴みたいな話を出来るのかと疑問に思い姫様に訊いたら、通信できる魔法の鏡があるんだって。さすがファンタジー。
すると、アルマ国の王様と違い他国の王様はちゃんと王様していた。自分の国に属している魔術師をアルマ国に1年間貸す。そのかわり、魔術を修了したら1年間渡来人をこちらに貸し出す。という交換条件を出した。
もちろん、アルマ国の王様はそんな一方的な条件突っぱねてもよかった。しかし、気のよい王様はそれをありがたいと受けてしまったのだ。
「本当父上ったら!渡来人方に意見も聞かず勝手なことを…しかも、誓約を交わしたことも事後報告!ありえない!国家間の誓約ですわよ?!」
「いや、怒りたいのはこっちですから」
そんな大層なことしなくても、3人の魔術師でローテーション組んで教えてくれてもよかったのに…。
魔術の授業は少なくなるが急いでいるわけでもないのでその方がよっぽど気楽だ。
おかげで1年後、わたしたちは外交デビューをしなればならなくなったじゃないか。
そっちのほうがメンドクサくてプレッシャーで胃が…。
「国賓として招待すると向こうは言っていますが……実はこのような条件がついています。『渡来人が招待先の国を自分の意思で留まると表明すればアルマ国はそれを了承する事』」
姫様がずばっとわたしの胃にとどめを刺し下さいました。
なんですかその深読みしようとそればできちゃう怖い条件。
甘い罠にひっかかったところをぱっくんちょとする食虫植物みたいな強かさを感じる。
王様はコレを付け加えられて何も思わなかったの?
渡来人を自分の国の者にしようと虎視眈眈と狙ってるじゃない!
というか、そこまでして欲しいものなの?渡来人って?!
「この大陸は…いえ、この世界は渡来人の知識や力で発展してきましたので渡来人がいる国の他国に及ぼす影響力は絶大です。どの国も喉から手が出るほど欲しいものなのです」
姫様がますますわたしにプレッシャーをかけてきた。マジやめて。
わたしは慌てて自分たちの非力さをアピールする。
「わたしたちはただの学生ですよ?そんな知識も力もないですよ?」
「それは皆様の自覚がないだけです。そちらの生活水準はわたくしたちの世界よりはるかに高い。考え方一つ違います。それだけでも国の宝となるのです」
「考え方…確かに違いますね。生活も科学が発達しているから全然違います。でも魔法があるから別にいいんじゃないですか?すごいですよ?魔法はなんでもありです」
「魔法はなんでもありというわけではありません。魔力保有量も人それぞれ違いますし、安定したものではありません。知っていますか?文字という魔力を使わなくても不特定多数の誰にでも物事を確実に伝えられる便利なものをこの世界に教えてくれたのも渡来人の方ですよ?」
「え?文字を渡来人がぁ?あっ!日本語があるのはそのせいか!でも、なんで日本語?英語とかの方が簡単ですよ?日本語って確か難しい言語のひとつだったと思うし」
「このアルマ国は日本人の渡来人が多く日本文化が色濃く出ております…しかし、お恥ずかしながら民は平仮名と片仮名だけで漢字は読めない方が多いのですが…」
「ああ、なるほど色々わかった。謎が解けた」
わたしたちが一番疑問に思ってたことがようやく解けた。
この世界には文字がなく、文字を伝えたのが渡来人。つまり異世界のわたし達。教えてもらった文字をそのまま使ってるわけだから日本人に日本語を教わったアルマ国は日本語を使ってるわけね。
漢字は難しすぎて庶民には広がらなかったみたいだけど、仕方がない!日本人でも難しいしね日本語!
しかし、やばい。そんなレベルで重宝されるなんて…九九とか教えてあげたらどうなるんだろ?
なんてわたしがアホなことを考えていると姫様にドドンと崖っぷちから背中を押されてしまった。
「知識だけではありません。渡来人の方は魔力量、身体能力ともにわたくしたちとは桁違いでとても優秀な魔術師や剣士になる方が多いのです。新興国と陣どり合戦をしているアジジョット帝国、魔族の侵攻に脅かせれているティーバット王国も貴女方をなんとか確保しようと躍起になっているのだと思われます」
「え?陣どり合戦?魔族の侵攻??」
そんな国へ行けとおっしゃるのですか?アルマ国の王様よ。
一瞬くらっとめまいがしたがいかんせん変なところでタフなわたしはこのまま気絶もできなかった。
…………気絶出来たらよかったのに。
ようやく動きがあったようです。