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嘘でしょ・・・

何なの何なの何なのよ!!

有り得ないでしょ!普通はスルだろ!あたしは意識がないのよ!記憶が残らない程トンでるの!


だからお前がするのが当たり前だろ!当たり前だろ!当たり前だろーーーっ!


ハァハァハァ・・・


・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・


どーすんのよ。

・・・・わかんない。

子供よ。

・・・・・うん。

赤ちゃん。人間よ。

・・・・・・そうね。

アンタと同じような人生があんのよ。学校行って。恋なんかしちゃって。働いたり落ち込んだり笑ったり喜んだり。

・・・・・・・・・

アンタが産めばね。

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・ねぇ、もう決まってんでしょ?

・・・・・・・・・まぁね。

うんうん。そうよね。




「産みます。」




あたしのあまりにも呆然とした顔に「・・・・産みますか?」と心配げに問いかけた医師にあたしははっきりっ返事をした。




それからの生活は一変した。

自覚したからか吐き気が半端ない。


何をしてもどんな匂いでも吐く吐く吐く吐く!!!


「ううぉ~おえ。うおえ。」


堪らず有給取ったわ。


だって、どんな時でもゲロ袋を抱えているんだもの。人様の前でもお構いなしの吐き気催しトイレに走るも間にあわずゲロるあたし。に 同僚、先輩、上司、取引先までもが


「休め。頼むから帰れ。もう見たくないお前のゲロ顔。」


と言われる始末。

うちの会社は小さいけど未婚の女が子供を産むって事に特に抵抗はない大らかな会社なの。

文句を言いながらもたくさんサポートしてくれたり励ましてくれて嬉しかった。ホントいい会社に入れてよかったわ。


「ありがとうございます・・・・。皆さんのお陰であたし生きてます。」


休みの前の日。挨拶回り、涙ぐんだゾンビ顔でお礼を言われて周り引いてたけど。





有給を取ったあたしだったけど、やったぜ休んでいいんだ!な浮ついた生活にはモチロンならず、ベッドと冷蔵庫と洗面所の往復に終始した3日目のある日、災厄はやってきた。


あたしはバイクの轟音で目が覚めた。

ベッドサイドの時計を見るとPM7:09。

あーもうこんな時間か。お腹は空いてるけどなんにも欲しくないわ・・・身体もダルいしもうひと眠り・・・

グーグーなるお腹、でも食べ物の事を考えると・・・・うぷ・・・・・眠ろう。


ピンポーン


そんな時だった玄関のインターホンが鳴ったのは。



誰だろう。

キャンディスなら渡してある鍵で入ってくるはずだし、会社の人間なら寝たきりゲロ人間のあたしに電話してから来るはずだし。


ピンポーンピンポーン


誰よ?

あたしは今起き上げれる状態じゃないのよ?・・・ええい無視無視!誰だか知らないけど諦めて帰れ!


ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン


ちょっとしつこ・・・・


ピンポンピンポンピピピンポンピンピンポンピポンピンポンピピピピピピぴピピピピンポーンピンポーン




うるっっさいわ!!!!




明らかにインターホンじゃない音してたし!

あたしはグラグラする頭とどこかにめり込んでいきそうなお腹、吐き過ぎてカラカラに乾いた喉を抱えてベッドからやっとの思いで立ち上がった。

そして壁に手をつきながらヨロヨロと遥か彼方玄関を目指す。

フン。あたしの迷惑どころか近所迷惑も考えない愚か者め!あたしのゾンビさえ打ち負かすと言われたゲロ顔をとくと拝むがいいわ!

・・・・・普段はコウじゃないのよ・・・・今はほら、つわりが・・・つわりが・・・・ぅおえっ。

あたしが斜め横の思考を繰り広げている最中にも敵のピンポン攻撃は続いている。

それに眉間の皺を深くなおかつ増幅させながらあたしは玄関を開けた。




外灯に照らされた大型のシルエット。

それは玄関一杯に広がり、影になった顔の中、忘れようとしても忘れられなかったあの蒼い目が驚いたようにあたしを見ていた。




一瞬の空白の後、我にかえったあたしはドアを閉めた。・・・・んだけどデカイ革靴に阻まれた。


「・・・・足、退けてよ。」

「・・・・遥遥はるばる会いに来たらなんて顔してんだ。病気か?」


要請を無視した揚句、男は全力でドアを押さえるあたしをあざ笑う様に軽々とドアを押し返して、デカイ体を屈ませて家の中に入ってきた。

キョロキョロと散らかった部屋を見渡し、顔を顰めている。


女だからって誰もが整理整頓出来るわけじゃないのよ。いいじゃない。住んでるあたしが物の場所を把握してればいいんだから。


・・・・・別にだらしない女だと思われて傷ついてなんかいないわ。


「招待した覚えはないからとっとと帰ってくんない?ドアはアンタが【無理矢理】入ってきたソコよ。」


あたしはふらつく体に精いっぱい力を入れ、腕を組んで男を睨みつけた。

冷たい汗が背中を幾筋も流れ、気持ち悪いったらないわ。

男はあたしに目を移すとふっと顔を和らげた。


「ハジメテの男に連れないな。それより相当具合が悪そうだ、寝た方がいい。」


ヒクッ

あたしの口元が引き攣る。

弱点でもついたつもり?なんてデリカシーのない奴なの、避妊もしないし。それにアンタのせいで具合が悪いんじゃぁああ!・・・っと愚痴は後よ。そんな事より!


「あんたが帰ったらうんと良くなるんだけど。」

「熱はあるのか?早く横になった方がいい。」


男はそう言った後いきなりあたしを横抱きにするとムカつく事に真っ直ぐ寝室に運んだ。

寝室のさらなる惨状に声もなく呆然とした後ゆっくりあたしをベッドに降ろす。


「いつから悪いんだ?病院には行ったのか。こんなに弱って・・・何の病気だ?」

「あんたには関係ない。放って置いて。」


あくまで素っ気なさを装いながらもあたしの頭はかってない程高速回転していた。

赤ちゃんの事がバレたらどうしよう!男がどう出るか全くわからないけどややこしくなるのは見えてるわ。どうしようどうしよう!オロせとか言われたら!こんな如何にもな避妊もしない無責任男、何言うかわかんない!いや、力ずくで病院に連れていかれるかも!ううんそれよか!

・・・・・あたし落ち着け。パ二くっている場合じゃない。どうにかしてこの場をやり過ごさなくては。


「放って置けるわけないだろ。何か食えるか?少しでも腹に入れた方がいい。」


甲斐がいしく世話をしようとしてるトコ悪いけど食べ物の事考えただけで・・・・ああ、ヤバい。ヤバいわ。


「・・・・今はいいわ。・・・・ねぇ、一人にしてくれない?少し眠たいの。でも・・・他人が寝室にいるのって慣れてないから・・・落ち着けないわ。」


弱々しそーに掠れた声で言う。ついでに目も潤ませていかにも オ・ネ・ガ・イ しているように。

男が微動だにせず目を見開いてあたしを凝視している。

何よ。その化け物にでも遭遇したような固まり具合は。こんなひどい顔でやられても恐怖しか感じないってか?


「わ、わわわかった。で、でも心配だからリビングに居る。・・・・・起きたら声を掛けてくれ。」


なぜか慌てて寝室を出ていく男。

そんなにヤバいかしらあたしの顔。


それにしても・・・チッ!普通帰るでしょ。居座んな。

・・・まぁいいわ。慎重にやればいいし。

ドアが閉まった途端、あたしはさっきまでのだるさが嘘のように機敏に行動し始めた。

手早く荷物を纏める。財布に車のキー、ゲロ袋にタオル。その他細々とした物を手近にあったバッグに詰め込み、外に通じる窓をそっとそぉ~っと開けた。我が城が一階でよかったわ。あたしがこれまたゆっくり足を窓枠にかけた時、奇跡の様に目に入ったモノがあった。


一時嵌まってたニードルポイントレースの針。


・・・・確か男が来る前、バイクの音がした。

・・・アレが男の物じゃないとしても何か乗り物に乗ってきたかも。・・・・足止めにはなるかしら?

迷ってる暇なんてない。あたしは針を掴んだ。


忍び足で自分の車に向かい、間違っても気付かれないように愛車に乗った。

男は気付いてないよう。今のうちー今のうちー。

一つ深呼吸するとエンジンを掛ける。

日頃からメンテを心掛けて可愛がっているせいか愛車はすぐにあたしに応えてくれた。

滑らかに道路に出て最初の曲がり角を曲がる頃、バックミラーに映った。




男が何か怒号の様な声を出して拳を振っているのが。




嘘。もうバレた?

でも追いつくまい。だってグサグサ刺してやったもの。


見慣れないデッカい黒いバイク。アパートの駐車場に停めてあった。前輪と後輪。ぐっふっふっふ。

この吐き気もゾンビ顔負けの青白い顔もお腹空いてるのに食べれない辛さもみーんな・・・・何だかものすごく腹が立ってきたわ。

八つ当たりしちゃってゴメンねバイク君。恨むんならアンタのどうしようもない持ち主にして。


取りあえずキャンディスの所に行こうかしら。アイツをどうしようか今後の対策を練らないと。

それにしてもこんなに時間がたって今更何の用かしら。一体何しに来・・・・




順調に親友の元へと進んでいたあたしはトンデモナイ物を見た。




あれは・・・・隣の気のいい隣人、エイモスさんのミニ・・・・だけど。

乗ってるのがヒョロっとした彼とは似ても似つかないごっついあの男。

・・・・ちょっと。明らかに形容オーバーじゃない?よく入ったわねアンタのその体。しかもそれだけじゃない・・・




あんた逆走してるじゃないっ!!!?





盗んだ(頭が痛い)車を運転する男はクラクションが鳴り続ける道路にも構わずグングンあたしに迫ってくる。

何が起こってるのか理解できないしたくないあたしが呆然としてしている内に男に追いつかれてしまった。


「今すぐ降りろ!!」

「・・・っ!いやよ!!」

「バカ野郎!!!運転できる状態か!!」

「アンタに言われたくないわ!!」


まだ何か怒鳴っている男に構わずあたしはアクセルを踏み込んだ。


・・・・すごい。

あのミニではあたしの車に追いつくはずないのに、男は巧みなハンドル捌きで付かず離れず喰らいついてくる。

この男・・・・何者なの?


バキィィ!ガッ!


ゲッ!


何かの音がしたと思ったらゴツイ手が愛車の窓枠に掛ってた。

そしていつの間にかミニのドアがなかった・・・・おい。

そこから男が身を乗り出し・・・考えたくもないけどあたしの車に乗り移ろうとしている。らしい。

あたしはそうはさせじとよりアクセルを踏み込んだ。


「殺す気か!!」

「死にたくなかったら手を離しなさいよ!!」

「断る!!」

「断るを断る!!」

「断るを断るを断る!!」

「断るを断るを断るを断る!!」

「断るを断るを断・・・・・・・・」


今思えばバカな会話をしていたと思うわ。パ二くってたのね。

そうじゃなきゃ男が鍵を解除してドアを開けるのを(ウィンドウを開けっ放しにしていた事を後悔したのは言うまでもない)阻止できたのに。

男はそのバカデカい体に似合わない俊敏さで愛車の助手席に滑り込むと、あたしを持ち上げ無理矢理運転席に座った。

ミニが悲鳴を上げてクラッシュする音が聞こえる。・・・・アンタ弁償しなさいよね。


「どけ!バカ!あたしの車よ!」


耳元で怒鳴ってやると眉根を寄せた凶暴な顔で


「黙ってろ!舌噛むぞ!!」


ギュルルルッとハンドルを切った。





右に左に激しく寄せられ目が回ったあたしが漸く焦点が合った頃、気が付けばどこかの路地裏だった。

パチクリすればぬっと目の前に差し出されたモノ。


全体的にピンクの表紙。

幸せそうに微笑み合ってる母子。

そう、いわゆる母子手帳だ。

ちょっと斜め上のあたしの名前が書いてある。


あっヤベ!そういえばリビングに置きっ放しだった。

だからあんなに早く居ない事がわかったのね・・・・迂闊だったわ。


「どういう事か説明してもらおうか。」


野太い、しかしどこか緊張したような掠れた声で男が言う。


「・・・あれぇ?急に目が霞んで・・・いやあの・・・そうね。」


野獣の様な唸り声に誤魔化すのは得策じゃない事を察したわ。


「・・・子供が出来たんだな?」


問いかけと言うよりは確認。

沈黙が行ったり来たり。

目が泳ぐ泳ぐ。


「なぁ、コーラ。俺は」


・・・・・・・!!?


「何でアンタがあたしの名前知ってんのよ!・・・・そういえば住所だって!いくら酔ってたって住所まで教える筈ないわ!!アンタあたしに何したのよ!?」


憤るアタシに男はジッと視線を固定してブチ切れる一言を言った。


「お前が寝てる隙に身分証を見た。」

「なっ・・・」

「こ、後悔してない。また会いたかったんだ。」

「ふざけんな!!あたしはいい迷惑なのよ!!アンタになんか二度と会いたくなかったのに!!」


「・・・・・・・そう、か。」


ちょ、ちょっと・・・・一気に縦線入るのやめてくんない?あたしが苛めたみたいでしょ。あと肩落とすな。ブルー入れるな。さっきのワイルドなアンタはドコ行ったのよ。


「で、でも子供が出来たんだろ?俺が父親だな?俺達の子供。」

「え?アンタが父親だなんて一言も言ってないけど?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


だーかーらー そこで捨てられた小犬みたいになるなって。

子犬というよりはでかい野獣が目を潤ませてショックを受けている。小刻みに揺れているのは地震でなければコイツが震えているからだろう。


「お、俺じゃないなら誰だ?まさか・・・お前俺とした後・・・他の・・・ホカノオトコト。」


小刻みが酷くなった。なんだか体が1・5倍に膨れたような気がする。マジ怖い。何であたしこんな奴に関わっているの。


「誰だ。」

「へっ」

「お前と寝た奴。」

「し、知ってどうするのよ。」

「殺す。」


は?コ、コロス?


「そいつを殺して存在を消してしまえばその子の父親は俺だけになる。」




コイツあったまおかしんじゃない!?




「口に出てる。」

「じゃあもう一度。アンタ頭おかしんじゃない?」

「二度言わなくても・・・・」

「じゃあ3度目。」

「イヤもうわかった。」


殺すのはやめにしたようね。ていうかそんな相手いないんだけど。


「俺だな?」

「・・・・。」

「俺なんだよな?」

「・・・・・・。」

「・・・頼む。俺だと言ってくれ。」

「・・・・・・・・・。」


コラコラ目元拭うな。あんたみたいなバカでかい図体の男に泣かれるあたしの身になれ。ドン引きなのよ。このバカ。

あたしは深ーく息をついた。


「あたしをこのまま放って置いてくれたらアンタが父親って認めるかも。」

「ダメだ。お前は俺に内緒で行方を眩ませるだろう。絶対探し出せないように。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


チッ・・・・・意外と鋭いじゃない。

あたしはわざとらしい笑顔で言い聞かせる。


「そんな事ないわよ。あたしの全てが一切合財この街にあるのよ。行方を眩ませるだなんて・・・そんな危ない事しないわよ。それに・・・・赤ちゃんは落ち着いた環境で育てなきゃ。」


男は潤んだ目でじっとあたしを見ている。

直視したくないけどあたしは負けじと目をしばたたいて見返した。


「・・・・・子供を落ち着いた環境で育てると言うのは賛成だ。」

「でしょ?で、貴方と話したいのは」

「話し合いは船室で聞く。迎えが来た。」

「センシツって何処?ホテルの名前にしては斬新ね・・・・迎え?・・・ナニコレ・・・」


男はポカンとしたあたしを見て実に楽しそうに笑った。




「ホテルよりは快適だ・・・ちょっと揺れるけどな。」




あたしは男の言う事を聞いていなかった。

どこかの路地裏だと思っていた所は港で、あたしの目の前にはいつの間にかデッカイお目にかかった事がない程デッカイ船が横付けされようとしていた。


「センシツって・・・・・」

「船の部屋って事だ・・・・今夜から俺達の新居になる。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


急に眩暈と吐き気が襲ってきたあたしは胃の中に残っていた今日の昼食全てを男の膝にぶちまけた後、ブラックアウトした。




その後、子供達を抱えながら脱走と捕獲を繰り返すあたし達のモノガタリ。

これが最初のお話よ。

初の読み切り、いかがでしたでしょうか?

前~から書き溜めてたのがまとまったんで投稿してみました。

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