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あんな奴!死ねばいいのに!


女の子ってするかしないかは別にして結婚式に夢とか理想があると思うのよ。

厳かな教会でとか、南国のビーチでみんなに祝福されてとか、はたまたアミューズメントパークで盛大にとか。

あるよね?あるでしょ!

でもあたしみたいな結婚式を夢見るコはいないと思う。


性格が明る過ぎる双子の殺し屋、不幸を運ぶ自称ライバル海賊団、何やっても慈善になるマフィア、呼んでもいないのに突如として現れる正義のヒーロー、とても国民を守る様に見えない軍隊。そいつらが入り乱れての、そうね・・・マンガ風に言えば、


「花嫁は意識喪失のまま!銃弾飛び交う結婚式!誓いの言葉は!誓いのキスは出来るのか!?待て次号!」


・・・なんて式、間違ってもいいなんて言う子いないと思うのよ・・・・


あたしの名前はコーラ・ブレイブ。

数時間前に世界最強と名高い海賊団の船長と結婚したばかりの20歳。


あ、ちなみにあたしアイツの事愛してないから。だから愛があれば~なんて事もない。

それどころか!あ・ん・な!あんな奴!死ねばいいのに!!

仮にも花婿に向かって言うセリフじゃないって?

いいのよ。あたしがアイツに出会ってからどんな目にあったと思う?

この話を聞けば貴女もきっとあたしに同情してくれるはず!!!





その夜あたしはベロンベロンに酔っぱらっていた。

貧乏旅行で最後の大騒ぎをしようと親友のキャンディスと一獲千金の賭博の都、ミシガイルのカジノでスロットを廻していると出たのよ!あれが!ジャックポットが!

人生初めての大金を前に浮かれまくってたのね。親友とバカスカ飲んだ挙句、しっかりどこかのチンピラに目を付けられ絡まれてたというわけ。お約束よね。


「あんた一人が俺達皆の相手をしてくれるのか?」


ろくでもない人生送ってきました見本みたいなチンピラが、下卑た笑いを浮かべながら奴の仲間に両腕を取られたあたしの胸のラインをゆっくり手の甲でなぞる。

親友を何とか逃がした際、雪に足を取られすっ転んで逃げ遅れたあたしは怖気を振るいながら


「ううう!気持ち悪いッ!触んないでよね!あんた風呂入ったのいつよ!凄い臭いんだけど!」


あたしは思うだけでなく実際奴に言ってやった。

ほら・・酔っ払ってるから。勢いっていうか・・・ね?

そうしたら殴られましたとも。


バシッ!


雪がしんしんと降る路地裏にあたしの頬を平手打ちする乾いた音が響く。


「その可愛い口の聞き方を教えてやるよ。お前が足を開いた時になぁ。」


やられるだけのあたしじゃない。

あたしは頭にきて自由な足を思い切りチンピラの股間に炸裂させた。

堪らず膝をつく奴。


「足を開いてやったわよ。このどぐされ野郎。何を教えてやるって?」


あの・・・普段はね、こんな口利かないのよ?えと・・・そんなにはね。こ、これは酔っ払っているから!

両側のチンピラ2匹がきつくあたしの腕を締めあげる。

それに呻きながらもチンピラ共を睨みつける私。


わかってる。

あんまり利口じゃないって事くらい。


それは股間の痛みに耐え、立ち上がったチンピラの形相を見れば一目瞭然。

奴は手をグーにしてあたしを殴打しようとした。

その瞬間。

いきなり黒い壁が出来た。


「威勢のいい姉ちゃんだなぁ、だが状況をよく読んだ方がいいぜ?」


壁だと思ったのは異常にでかい男だった。

男はあたしを殴ろうとしたチンピラを一発でのすと、あたしの両脇を捻っていた2人も一瞬で消した。

あたしはポカンとしていたけど、


「おい、大丈夫か?どっかケガしてんじゃないだろうな」


と言う声に我に還る。

あたしはタイミングよく現れた大男に礼を言うどころかじりじりと後ずさった。


「・・・礼ぐらい言っても罰は当たらないと思うぜ?」


大男は後ずさるあたしを片眉を上げて・・・ついでニヤッと笑った。



今思えばあの笑顔に騙されたと思うのよね。

黒い外套に覆われた普通からは大きく外れた体躯、凍える月に照らされた渦巻くように肩に流れる金髪、そして蒼く光る目は相手を突き刺す様なのに・・・・




笑った顔は反則的にヤバかった。




「・・・そうね。ありがとう。」


暗がりからおずおず出て、ぎこちないながらも笑みを返したあたしに・・・・・大男は急に笑みを失くした。


ど・・・どうしたのよ。




大男はズンズンあたしに近づいてくると唐突に言ったわ。


「シュダールを3杯。」

「・・・・・・へっ?」


シュダール?3杯?・・・お酒の名前かしら。


「シュダールを3杯、俺に付き合ってくれ。助けた礼はそれでいい。」


礼、ね。呆れたけど。確かに助けられたのは間違いない。

あのままだと確実に強姦されてた。


「付き合うって・・・・でもあたしもうかなり酔っ払ってるから満足に相手できないかもよ?」

「少しの時間だ。付き合ってくれ。」


・・・・・・・・・・・。

うーん。何でもなさそうな男のセリフ。ホントにちょっとした空き時間に話し相手を捜してる感じ。・・・いやちょっと待って・・・おかしくない?でも3杯ならまだイケるかも。う~ん・・・・ま、いっかぁ、人が多い所なら多少覚束なくても振り切れるだろうし、この人無理強いする様には見えない。


ホントばか。

ここで断って置けば平穏な人生送れたはずなのに。それともこの大男に会った時点で終わってたの?


あたしはじっくり考えて答えを出した。


「いいわよ。奢らせてね。」

「ああ。ご馳走になる。」


ただし・・・・充分アルコールが回った頭でね。






目を開けるとおかしかった。

部屋の中なのにまた屋根みたいな天井がついてて、緑と深緑の重厚なカーテンやレースがいくつも重なっている。ふっかふかの枕、上質なリネンのシーツ。


そう、天蓋付きベッドだ。


あれ?あたし達の部屋のベッドこんな豪華なモンだったっけ?

困惑しながら身を起こすと頭を激痛が襲った。何百といる小さな兵隊があたしの頭の中をせっせっと行進している様な痛みだ。おまけに吐き気も催しているこれは間違いなく・・・・・・二日酔いだ。

あたしは呻いて辺りを見回し、とんでもないモノを見つけた。


男だ。


むこうを向いててどんな顔をしているか知らないけど、広い背中にしっかりとついた筋肉、マッチョな太い腕は紛れもなく男だった。

しかも。

あたしは歯を食いしばって数々の悪態を堪えた。


男は全裸だった。


リネンのシーツがかろうじて男の腰に引っ掛かり、大事な部分は見えてないが下着やズボンを履いてない事は未体験のあたしにもわかった。たぶんもう未体験じゃなくて体験済みなんだろうけど。

・・・・・あたしも裸だし。


ま、済んでしまった事はしょうがないわ。切り替えは早いのよ。一切記憶がない初体験に呆然とするよりやる事があるから。

すなわち退散。

あたしはグラグラする視界と無視できない節々の痛み、特別な箇所の違和感を堪えながらなるべく静かにベッドを出た。あちこちに散らばる昨夜の残骸を掻き集め、それらを身に付けながらも目は用心深く寝ている男を見る。


あたしが出て行くまで寝てろよ~~って念を込めながらね。


だって・・・わかるでしょ?すごい気まずいじゃない。何言っていいかわかんないし。まさか最中の事聞くわけにもいかないしね。ホントは聞きたいけど。マジ記憶ないから。


ゆっくり、本当にゆっくりドアを開いて最低限の隙間を空けて体を滑り込ませる。

詰めていた息を漸く吐きだせたのは、あたしには一生縁のなさそうな格調高ーいホテルを出た時だったわ。辺りはまだ薄暗く、客待ちしていたタクシーのオジさんを窓を叩いて起こした後、あたしは無事自分のホテルに戻った。キャンディスはずっと起きていた様ですごい剣幕で質問してきたけど、あいにく朝一便の飛行機の時間が迫ってた。話は後にして荷物をまとめた二時間後あたしは雲の上にいた。


あたしは窓の外、グングン遠ざかるミシガイルの地を見ながらそういえば男の名前はなんだったっけと考えていた。

初体験の男の名前も思い出せないなんて・・・・

もう酒はやめよう。ホントやめよう。残念過ぎるあたしの初体験。人生ワースト5に入る出来事だ。

ちなみに1位は付き合ってた男の浮気現場を・・・ベッドシーンを見た事だ。2位は・・・やめやめ。頭痛が酷くなるだけだわ。


ちんまい自宅に帰って荷物を放り投げる様にして置くとベッドに直行してすぐ爆睡。

起きると真夜中だった。

ため息をついてバスルームの鏡を見ると自分の顔に悲鳴を上げるほど酷い顔をしたあたしがいた。

この顔で衆人環視の中帰って来たのね あたし。・・・・最高に最悪だ。

剥げかけたメイクをキレイに落としてシャワーの栓を捻ると熱い飛沫を浴びる。

体のあちこちに人には言えないような場所にまでたくさんのマークがついていた。それに顔を顰めてスペシャルに肌の手入れをする。この濃いピンク色のマークの意味は知ってるけど正直羞恥なんて沸いてこないわ。だってキレイサッパリなーんにも覚えてないんだもの。どう思えばいいかわからないってとこ。

バスから上がってまた肌の手入れ。じっくりね。疲れてるから。ふう。

やっと人心地ついたあたしは未練がましくあの夜の事を考えた。

だって・・・・初体験なのよ?女の子にとって大事じゃない。何度も考えた。いえ、夢だと思おうとして・・・・・けど確かにイタしてる。それはこの、体の妙にぎこちないと言うか違和感っていうか大事な部分に奔る引き攣った感じというか・・・・・とにかくそれらが証明している。

あたしは一人掛けの青いソファにダラリとよっかかり昨夜の記憶を何とか引っ張り出そうとした。

男とシックなバーに入ったのは覚えてる・・・・赤と黒の色調が素敵だったわ。

それからシュダールとかいう白っぽいお酒を乾杯して・・・乾杯して・・・・して・・・・・

うーん。ガンバレあたしの脳みそ。アンタの限界に挑むのよ。うーんうーん。


結果は惨敗。


頭痛がするほどの限界が思い出せたのは暗闇に光るあの蒼い目だけだった。

なんーの成果もなしよ。空しい。


あたしは諦めて荷物の整理をした。明日には仕事が始まる。






記憶のないまま2か月が過ぎた。


残念な初体験の事などすっかり・・・とは言えないまでもほぼ薄れたある日の朝。

あたしに最初の異変が起こった。



気持ち悪・・・・


胸がムカムカした。

昨日は寝苦しかったからアイスティーを飲んだ。

夕食はなぜか食べる気がしなかった。食欲がなかったのだ。

でも食べないなんて事今までにもあったので、そう疑問は長く続かなかった。


ムカムカはその日だけで次の日はなんともなかったし。





おかしい・・・あたしの体おかしい。


最初に疑問を持ってから1週間。

全体的に体がだるく、朝起きるのが辛くてたまらない。匂いにも敏感になって以前は何でもなかったのに息が詰まるほど苦しくなった。


何かのウィルスでも罹ったかと病院に行ったわ。

何時間も待たされた挙句


「産婦人科に行って下さい。」


診察は5分で終了。しかもこれから別の科に行けだ?ふざけんじゃないわよ!と思ったけど婦人科の病気!?と恐れ慄いたあたしは大人しく産婦人科に行った。




「3ヶ月目ですね。おめでとう御座います。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?

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