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4. 「私は生きたいんだ」
世界には、私ひとりだけだった。
私には、その水をのぞき込むことしかできなかった。
なんて悲しい場所。なんて終わりのない場所。
もうやめて! もう許して! 息をさせて! 私を生かして!
なんど溺れたことだろう。なんど這い上がったことだろう。
過去という名のその水が、
肌をつかみ。顔をふさぎ。手を、足を、髪をとらえて、深く暗い水の底へと私を沈める。
温かな水に浸かったのはいつ? 思い出せない。
胸を満たす甘い香りを吸ったのはいつ? 思い出せない。
冷たく荒い濁流が、すべて飲み込んでしまったね。そしてこの身を持て遊ぶ。
耳鳴りがやまない。
涙がとまらない。
胸を打つ鼓動がうるさいよ。
でも、私は生きたいんだ。




