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3. 手を伸ばした。
底が見えない。暗く、冷たい水の中。
この世界には私ひとり。
誰もいない。私ひとり。
上もわからず、下もわからず、世界が、私ひとり取り残し反転していく怖い場所。
冷たいよ。
息をしたいよ。
生きたいよ。
やはり見てはいけなかった。のぞいてはいけなかった。
のまれ、溺れて、生きられない。この水は私自身。その水は過去。
悲しみと、恐怖の涙がとまらない。でていくばかりのその涙。
なのに肺には過去の水。
呼吸の出来ない口は閉じて!
凍えた足を動かして!
上だと信じる先を見上げて!
私は震える腕を上げ、
手を伸ばした。




