::騒動と衝動::
「くっ…くははははは!!」
皆が一同に肩を奮わせた。
山城の破裂したような笑い声がオフィスに響き渡る。
朱実は
もうふるえなかった。
瞳に宿した焔をたぎらせ、其処に立ち続けた。
山城の笑い声と反して静まりかえっている青年達の中から、彼等を代表するかのように蓮井が叫んだ。
「お前、何考えてんだ!?」
それは至極当然の疑問と言えよう。
何をしているんだ。
男として、此処に?
何故。
「五月蠅いわよ、“クラゲ”
“俺”は生き方を変えたくないだけよ」
「はぁ!?つうかクラゲって、」
「まあ、落ち着けや」
騒ぎ出す蓮井を止めたのは山城ではなかった。
それは突然背後から降ってきた声。
ひどく落ち着いた、静かな声だった。
山城のような重力のあるものではないが、低く心臓に響く。
反射的に振り返ると蓮井の横に朱実の二倍位あるのではないかと思うほどの、大男が立っていた。
「なっ、つば…」
「おお、椿、帰ったのか」
「へぇ、山さんこそ。いつお戻りに?」
「ついさっきだよ。そっちはどうだ、アガリは取れたか?」
「はあ…まあ。あまりいい塩梅ではないですがね」
「ふん…仕方ねえさ。お前の管轄にゃ“鳥”(チョウ)がいるからな」
「ですね…」
突然現れた椿と呼ばれる大男。
山城は先程までとは変わって、柔和ながらも不穏な雰囲気を出し始める。
朱実など眼中にも入っていないようだった。
「まあ、その話はまた奥でするとして…山さん、この女は?」
すると、それまで一度も朱実を見なかった大男、椿が
2、3歩前に、朱実の正面に出た。
「…あ」
思わずそんな間の抜けた声をあげてしまう。
真正面な立たれると、その巨大さは恐怖でもあった。
ずぅぅん、とそんな擬音が似合う立ち姿。
痛くなるほど首を持ち上げでも顔がはっきり見えない。
「ああ…そいつな。今日からここの組員」
ざわっ
山城の当たり前のような口調に青年達はとうとう騒ぎ出した。
「おかしいだろ」「女がなんで此処に」「嘗めてんだろ」「遊びじゃねえんだよ」など、口々に反論や抗議の声が飛び交う。
椿はなんの反応も見せなかった。
蓮井は緒の切れた部下達に動揺している。
ざわざわと、青年達の声は徐々に高ぶり、大きくなっていく。
だが朱実は耳を塞ぐことをしなかった。
そして椿の方へ向けていた体を、再びソファーに座る山城の方へ向ける。
山城は、それを待っていたかのように
朱実に問い掛けた。