::犬とオフィス::
「山城さんっ…!!
どういうつもりっすか!!」
相変わらずキャンキャンと
犬のように蓮井は煩く吠える。
山城はそんな蓮井を一切無視した。
「おら、朱実。
服。」
「あ、ありがと…う」
女、朱実は決意の夜
その後山城の連れ添いで、彼の率いる
少年組のオフィスに向かった。
山城は関東を牛耳る大規模な暴力団の幹部であり、その中の未成年が集まった
少年組の組長代理を勤めている。
人望は厚く将来も固い
若きリーダーは少年達の憧れるものであった。
そんな山城が回収の帰り
何故か嫌みなほど美人な女を連れて戻ったのだ。
瞬く間にオフィス中に話は広まった。
「くく……ガキどもはアンタに興味津々な様だ。騒がしいったらありゃしねえ。」
「……」
山城の軽口を朱実は黙殺した。
そんな朱実に何が可笑しいのかニヤニヤと笑いかけ、山城は蓮井の方をみた。
「おい、クラゲ。珈琲と栗饅頭、あとパピコ持って来い。」
「……山さん…」
「ん?なんだよ、聞こえなかったか?
仕方ねえなもう一回言ってやる、珈琲と…」
「山城さんっ…!!」
耐えきれなくなったように叫んだ蓮井に
山城は笑みを消した。
「……お前を拾ってきた時言ったはずだ。
話は最後まで聞け。遮るな。命令には従順でいろ。」
「…っ」
「分かったか?
珈琲と栗饅頭とパピコだ。」
にこ、と再び笑みを浮かべ無邪気に蓮井に指示を出した。
「……はい」
諦めたように
恐怖を抑え込むように
蓮井は引いた。
一部始終を黙って見ていた朱実は
山城という人間をただのヤクザとは思えなかった。
只ならぬ殺気を放ったり
かと思えば急に無垢な子供のように笑う
この男は一体何なのか。
「……クラゲ…」
「うん?」
「彼、クラゲって…名前なのね。」
だが、聡い彼女は
その問いを言の葉に紡ぐことはしなかった。