::選択と決意::
「まあ、兎に角そういうわけだ。
だからな、あんたにゃ悪いがこいつは落とし前をつけなきゃいけねえ。」
そう言って、山城は
一息吐くように煙草をくわえた。
「火ですっ。」
すかさず蓮井が横から火を寄越す。
じゅ
と小さな音を立てて煙草に火が灯った。
「さて、ここからが本題だ。
おねーちゃん。
残念なことにこいつの命一個分でも
今回のことは収拾がつかねえんだよなあ。」
ふー、と山城はため息と共に紫煙を吐き出す。
「どっ…うっく…どうしろって…」
嗚咽を漏らしながらも
女は必死に山城に食い付く。
「ふん、いい目してんな。
だからよ、おねーちゃん。
あんたがこいつの遺す落とし前のツケを払え。」
「そんなっ…!理不尽よぉっ…!!」
「仕方ねえだろう?
恨むならてめえの惚れた男を恨みな。」
「ふっ…うぅ…」
「泣いてたって仕方ねえ。
選べ。
身体か命か何に値段をつける?」
路地の外を出れば
まだどの店も明かりを放っていた。
あちら側は
明るい賑やかな世界。
女も確かに其処にいた筈だった。
だが、今女に出来ることは
あの光を羨むことではない。
今女のすることは選択だ。
「…っ」
ぱんっ
暗い路地裏に渇いた音が響いた。
続く驚愕した顔の蓮井の怒鳴り声。
「てめぇっ…!!」
「…決めたわ。だけど許して頂戴。
理不尽には理不尽を。」
ギッと女は山城を睨みつける。
涙はもう、流れていなかった。
「怒りは貴方へ。
憎しみはこの人へ。
後悔は胸に。」
はっきりとした声だった。
顔を上げ背をぴんと張り、彼女は佇む。
山城はそれこそ一瞬は驚いたが
噛みつくような女の目に
殴られた頬の痛みなど忘れた。
「……はっ………!!」
げらげらと山城は笑い出した。
それでも女は怯まず直立する。
その瞳は揺るがぬものであった。
「くくく……いい女だ。」
月は変わらず蒼白く浮いていた。
女は強い。
母は尚更に。