::罪と理由::
「ほら、こいつ。」
山城は地面に転がった男を指差した。
女は涙を流しながら
恋人であるその男を見た。
「こいつね、俺らヤクザの金を
あろうことか底上げ詐欺しやがったの。
分かる?」
「…っ…そ、底上げって…?」
自分の知らない単語に
女は動揺した。
一体自分の恋人は何をしたのか。
「うんとねー、蓮井。」
「え?あっ、はい!」
ぼーっとしていた蓮井は
突然自分の名を呼ばれて戸惑ったが
直ぐに取り直した。
「えっと、お宅のおにーさん
ウチの配達やってたんだよ。
勿論普通のそれじゃなくてよ、ちょっとばかし
やばいもんをな。
で、こっちも金払うだろ?
だが、それをちょっとづつ多く見積もりやがって
ちょろまかしてたんだよ、なあ?おい。」
ごっ、と
完全に意識を失っているその男の頭を
蓮井はつま先で小突いた。
勿論反応はない。
クスクス嗤いながら蓮井は何度も
ゴツゴツとつま先をぶつける。
「あっ…止めてよぉっ…!」
愛する男が更に攻撃されようとしている。
女は怯えながらも
男に被さり、必死で守ろうとした。
ひゅー、と蓮井は鳴らない口笛を吹く。
「そんな男のどこにそこまでして守る価値があんのかねえ」
「う、五月蝿い…あっ、あんたなんかにっ…
分からないわよっ…」
「あ゛ぁ゛!?」
「ひっ…」
「止めろ、犬。」
今にも女に殴りかかろうとしていた
蓮井を、すんでのところで
山城は静止した。
先程消えた殺気を再び身にまとって。
「…すんません…」
不満気ではあるものの
蓮井は大人しく蓮井に従った。