::路地裏と女::
※暴力描写含みます
ごっ
虚しく響く
拳骨が頬骨にめり込む音。
低い醜い音。
突き上げた拳には
鈍い痛みが走る。
暴力。
「山さん、やっぱ強ぇっすね!」
男は子犬みてえに
きゃんきゃん騒ぐ。
「うるせえよ。おら、女逃げんぞ。」
「あっ!!」
泣きながら女は路地から
煌びやかな
通りへ逃げていこうとしていた。
それを山城の手下である
蓮井は噛みつくように引きずり戻す。
「いやぁっ…!!許してぇ!!」
鼻水と涙でぐずぐずに濡れた
汚い顔で命乞いする
真っ赤なドレスの女。
ドレスに負けぬ程の真っ赤な
口から零れる泣き声は訊くに耐えぬものである。
「黙れよ。」
ひくっ
低声で山城が脅せば
女は簡単に黙った。
アスファルトに座り込む女と
目線を合わせる為
山城はゆっくりしゃがみ込む。
「なあ、あんた。
俺とちょいと大事な話しようぜ。
あんたの命と人生に関わる、だあいじな話だ。
黙って訊けるな?」
明らかに怯える女に対し
山城は先程とは異なる柔和な
口調で話しかけた。
しかし、ぴくりとも笑わぬ山城の表情に
恐怖するように
女は相変わらず怯えたままで
こくこくと激しく頭を上下に振るしかできない。
そのことを知ってか知らずか
山城は
女の素直なその様に一人頷き
唇の端を緩めた。
「よぅし、いい子だ。」
刹那
ふ、と山城から先程までの
殺気が消えた。
ぴりぴりと張り詰めていた
空気が
一気に優しくなる。
その変化は異常すぎて
蓮井も女も
同時に山城に言い知れぬ恐怖を覚えるのだった。