次の課題は。
フィオーレと話したあと、フランチェスカのもとに戻ると、どこに行っていたのか、いなくなる時は何か言ってから行けと散々怒られた。
フランチェスカがプンプンしている横で、欠伸をしながら手を舐めていると、大きなため息が聞こえてくる。
「もぉー、聞いているの?」
「聞いてるにゃ」
そんなに言われなくても分かるのに……何度も言われると段々眠くなってくる。
「それで、どこにいたの?」
「秘密にゃ」
「『秘密にゃ』じゃないわよ! 今度からはちゃんと話してよね……」
聞いても無駄だと思ったのか、それ以上追及されることはなかった。
そして、フィオーレに出会った日から、あっという間に半年という月日が流れていた。
その間、何か大きく変わったことがあったかといえば、これといって特にはない。
……まぁ、変わっていないのは私だけだけど。
フランチェスカはカルミアにしつこく付きまとわれているようだ。
貴族院を見て回っていて気づいたが、カルミアのことは学院中で噂になっていた。
むしろ、今までなぜ知らなかったのかと思うくらいには……。
前の人生で誰も助けてくれなかったのは、関わりたくなかったというのが大きいのだろう。
そして、もう一つどうでもいいが、貴様呼びから「フラン」と呼べるようになった。
相変わらず語尾の猫語は健在だけど、それは仕方ないのだろう。
「フラン。いいかにゃ! お前の歩き方も前よりはマシになってきたにゃ。自信なさげ~な背中から、少しだけ自信がありそうに見えるようになったのにゃ」
「そ、そうかしら……ならよかったわ!」
「別に褒めてないにゃ。爪の先くらいのレベルアップに喜んでいる時間はにゃい!」
二本足で立ってビシッと伝える。
そもそも、処刑まであと三年もないのだ。
あっという間にその日が来てしまうだろう。
「まずは、カルミアのことを何とかしてほしいところにゃけど……問題は何もしにゃい王太子にゃ! 彼奴と婚約破棄をするにゃ!」
「こ、こんやくはき?」
婚約破棄をしたら、お父様が何を言い出すか分からないとでも思っているのだろう。
ただ、よく考えてほしい。
処刑の時、あの家族は助けてくれたのか……。
答えは否だ。
助けてくれるどころか、罵るだけ罵っていた。
お父様だけでなく、お母様も、お兄様も、弟までもがそうだった。
そんな者たちのことなど、正直どうだっていい。
「そうにゃ。いいかにゃ。フランはフランのことだけを考えるにゃ。王太子のことも、家族のことも考えなくていいのにゃ。吾輩はフランに幸せになってほしいのにゃ」
自分が処刑された時のことなんか忘れたい。
もし今度はこの姿で処刑を見ることになったら、それこそ立ち直れないと思う。
だからここは、必ず成功してほしいところだ。
「エディがそんなこと思っていてくれるなんて、とても嬉しいわ。ありがとう!」
私のプリチーな頬に頬をすり寄せてくるフランチェスカ。
実際は、そこまで綺麗な理由だけで動いているわけではないのだが……まぁ、やる気になってくれたならそれでいい。
「フ、フン。まぁ……いいにゃ。情報は吾輩が集めてくるにゃ。お前はカルミアを何とかするにゃ」
そう言うと、私は椅子から飛び降りて部屋を出た。
***
――フランチェスカは、カルミアへの対応に頭を悩ませていた。
カルミアを何とかする、というのは簡単なことではない。
ここ数ヶ月、何度も距離を取ろうと試してみたが、行く先々に現れるのだ。
その度に聞かれるのは、
「オルテンシア王太子殿下とデートとかしないの?」
「次に会うのはいつ?」
――そんなことばかりだった。
正直、王太子殿下のことが好きかと聞かれれば、好きではない。
けれど、このままカルミアに渡すのは危険な気がしてならなかった。
「そ、その……カルミア様は、なぜ私なんかに話しかけてくださるのですか……?」
とりあえず当たり障りのない質問で話題を逸らす。
「えぇ……だって、いつも一人でいて寂しそうだったから。私も一人でいることが多いから、気持ちが分かるの」
――その笑顔が、怖い。
「そ、そうなんですね。私、一人でいる時間も好きなので、お気になさらないでくださいませ。他に寂しそうな方に声をかけて差しあげてください。それでは……」
要するに、「もう話しかけてこないでほしい」と伝えたつもりだった。
けれど――
「そう……でも私には、とても寂しそうに見えるもの。これからも仲良くしましょう!」
どうして伝わらないのだろう。
エディが色々調べてくれているし、できるだけ穏便に済ませたいと思っていたけれど……もう限界が近い。
「本当に……どこかに消えてほしいわ……」
この言葉を、本人に直接言えたらどれだけ楽だろう。
青空を見上げながら、ため息をつく。
流れていく雲が、どこかエーデルワイスのような形に見えた。
――あっ……あの雲、エーデルワイスみたいね。
……会いたいな。




