エーデルワイスはカトレアの懐に潜り込む。
お茶会が終わり、数日が経った。
お茶会の時は、この数年を埋め合わせるかのように、お互いの近況を報告し合う会となった。
――一人と一匹を除いて、だが……。
お母様とフランチェスカが楽しそうに話しているのを、私とカトレアは笑顔で眺める。
そんな姿を見て何を思い出したのか、カトレアは少し寂しそうな顔をしていたような気もする。
カトレアの懐に入るなら今がチャンスだと思った私は、カトレアの膝の上で丸くなった。
猫が嫌いでなければ、大抵これでメロメロになるものだ。
「あら……エディちゃんは少し眠たいのね。ここで少し眠っていなさい」
私の頭を軽く撫でながら話しかけてくるカトレアに、
「にゃぁ~」
と軽く返事をする。
こうして見ると、あまりカトレアが悪い人には見えない……。
これは毒されているということなのだろうか。
もしかしたら毒されているのは私ではなく、プリチーなエディちゃんにカトレアが毒されたのかもしれないけど。
そんなこんなでお茶会はあっという間に終わり、ここ数日はカトレアと一緒に出かける日が増えていた。
***
カトレアが馬車に乗ると、私も知らぬ顔で一緒に乗り込む。
ここ数日間、カトレアの行き先は孤児院ばかりだった。
そう――以前お兄様は「嘘だと思う……」と言っていたが、本当に孤児院でボランティアをしていたようだ。
「エディちゃんは猫でいいわね。自由気ままに生きられるもの……」
私の頭を軽く撫でながら、窓の外を見ているカトレア。
一緒に馬車に乗っていて思うけれど、カトレアは本当に悪い人なのだろうか……。
孤児院でも、子供たちはカトレアと遊ぶのを楽しみにしている様子だったし、カトレアが来た時の笑顔は本物だった。
そして、もう一つ気になることがある。
カトレアと一緒にいるメイドのロベリアだ。
このロベリア……あまりカトレアを守る気がないように感じる。
それにロベリアが話しかけようとすると、カトレアの顔が一気に強張るのだ。
「カトレア様……」
「わ、わかっているわ」
こうして見ると、立場が逆に見えてくる。
カトレアがロベリアの言いなりになっているような……そんな印象だ。
「カトレア様……」
「わ、わかっているって言っているの!!で、でも孤児院の子たちは悪くないじゃない……私のことを『お姉ちゃん』って慕ってくれているだけだもの……」
ロベリアがもう一度名前を呼ぶと、カトレアは声を荒げた。
話の内容的に、孤児院の子たちに何かしら鍵があるように思える。
カトレアが取り乱すと、ロベリアは冷めた目で見つめ、
「カトレア様……」
と低い声で呼んだ。
その瞬間、ロベリアの周囲だけ、空気が凍りついたように感じた。
「にゃぁ~?」
空気を変えるために、カトレアの膝に乗る。
私の背中に顔を埋めながら、カトレアは小さく呟いた。
「わかっているのよ……わかっているの……このままだとお母様が……」
必死に心を落ち着かせようとしているのだろう。
そんなカトレアを見てか、ロベリアは足を強く床に叩きつけた。
「カトレア様。いい加減にしてください。このままでは約束を守っていただいたことにはなりません。この件は旦那様へお伝えいたします。よろしいですね?」
「ま、待ってください……おじい様に伝えるのは……。明日こそは成功させますので……もう一日だけ猶予をください。お願いします!!」
どうやら、このロベリアという女。
カトレアの祖父のメイドだったようだ。
そしてカトレアは祖父に怯えている……?
いや、先ほど「お母様が……」と言っていた。
もしかしたら母親が人質に取られていて、従うしかない立場なのかもしれない。
カトレアの祖父……一人はカルミアの祖父でもある人物か。
元画家で、それが見込まれて男爵位を賜った人だ。
画家ということは絵を描くのが好きなのだろうか……。
そう考えると、野望があるようには思えない。
――もう一人、可能性がある。
ブラオベーレが以前言っていた言葉を思い出す。
「カトレアのお母様は、大帝国トライフルの公爵令嬢だった」
今日のカトレアの様子を見るに、今までの暴動はカトレアが起こしたものではない。
この国にいる者たちが、それぞれで立ち上がった可能性もある。
国王もあの状態だし、正直この国はなくなってもいいとさえ感じているのも事実だ。
それほどまでに、今の王族は腐っている。
パキラたちはこの国がなくなったら困ると言っていたが……。
だったらサントノーレ国に吸収された方が、よほど国民のためになるのではないか。
――だとすると。
明日、カトレアが起こす予定の“何か”。
それが大帝国トライフルに関わる計画の一部なのだろう。
「明日なら、まだ間に合うかもしれない」
そう考えた私は、屋敷に戻り次第、ブラオベーレのもとへ向かうことにした。
手紙を書いてもらうためだ。
もちろん、お兄様たちにも伝えるつもりだ。
カトレアを見ている限り、本心ではやりたくないように見える。
説得すれば、止められるかもしれない。
そう考えながら、私は次の行動を組み立てていった。




