エーデルワイスからのお願い。
貴族院から帰ると、珍しくエディが部屋で待っていた。
ここ数日は忙しそうにしていたから、一緒にいることが減っていただけに、とても珍しい。
「エディがもう帰ってきているなんて珍しいわね」
「最近忙しかったからにゃ。本当に皆、猫使いが荒いのにゃ……」
「皆って……?エディもお友達出来たのね!良かったじゃない」
あまりエディから友達の話を聞かないから新鮮だ。
中身が人間でも、猫同士でコミュニケーションが取れるものなのね。
「そ、そ、その話はとりあえずいいのにゃ。それよりも、このチャームを首輪に着けて欲しいにゃ」
どこから取り出したのか分からないチャームを目の前に置き、鼻でツンツンと動かす。
それにしても高そうなチャームだ。
こんなの猫同士であげられるものなのだろうか……。
エディは猫であって猫ではないし、あまり気にしすぎたら負けだと思った私は、何も聞かずに首輪にチャームをつけた。
「これ凄いじゃない。黒水晶よ」
黒水晶はこの辺ですぐに手に入るものではないので、かなり貴重だ。
サントノーレ国なら少し採れると聞いたことがあるけれど……。
エディは真っ白いから目立つかと思ったけど、赤い首輪をしているからか、そこまで主張は激しくなさそうだ。
「そうにゃのにゃ?」
「えぇ……全く、いつもどこを歩いているのかと思えば。飼い主がいるのに浮気はダメだからね!」
「し、しないのにゃ!そういうのではないし、気にしないで欲しいのにゃ。そ、それよりも!!大事な話があるにゃ」
貰った相手を思い浮かべているのか、少しあたふたしているエディ。
あまり慌てている姿を見ていないからか、なんだか不思議だ。
「大事な話って何かしら?」
そう聞くと、エディは少し真剣な顔になった。
「吾輩……フランの元を離れるにゃ」
ん?
さっき浮気はしないと言っていたのに、離れるとはどういうことだろうか……。
私が首を傾げてエディを見ていると、先程の話を思い出したのか、またあたふたし始める。
「か、勘違いしないで欲しいにゃ!少しの間、カトレアのところに行ってくるという話にゃのにゃ。だからフランの元を離れるということにゃ」
「カトレアお義姉様のところに?何しに行くの?」
カトレアお義姉様とはあまり話したことがないけど、そんなに悪い人には見えなかった。
何かあるのだろうか……。
「フランはまだ知らなくていいにゃ。カトレアと仲良くなるために、一度お茶会を設定して欲しいのにゃ。そこから吾輩は仲良くなるのにゃ。出来ればお母様も呼んで、女子会ということにするにゃ」
女子会……。
お母様とのお茶会もここ数年したことがないし、カトレアお義姉様とのお茶会もしたことがない。
これはもしかしたら、家族と仲良くなれるチャンスかもしれないと思った私は、エディの言葉に頷いた。
「わかったわ!お母様とお姉様には、次の休日空いていないか聞いてみましょう」
エディは笑顔で頷くと、
「あとよろしくにゃ!」
と言って、そのまま眠りについた。
処刑まで、あまり時間がない。
もう少し私も何か行動しないといけないんだろうけど……。
とりあえず今は、ダリアと仲良くなることに時間を使おうと心に決めた。
***
部屋で紅茶を飲みながら、ゆっくり書類を読んでいると、パキラが猫のまま帰ってきた。
「おかえり、パキラ。最近は猫でいる方が多いんじゃないか……」
頭を撫でると、鬱陶しそうに顔を振られる。
見た目は愛くるしい猫なのに、本当に残念だ。
「そんなに残念そうな顔するなよ、エリオント。ちょっと頼みがあってきたんだ」
そう言いながら、パキラは人の姿に戻っていく。
パキラの髪の色はこの辺では珍しく黒い。
まるで黒曜石のような色だ。
そして目の瞳は黄色い。
まるで夜の中に月があるような感じがして、俺はすごく気に入っていた。
「で……なんだ?お前が頼みなんて珍しいじゃないか……」
「本国から黒曜石を送って貰えないか?」
黒曜石って……この辺では確かに採れないものだが……。
「理由にもよるが……お前がつける訳じゃないんだろ?」
「あぁ……渡したいやつがいるんだよ」
黒曜石には浄化の力もあるが……もしかしてそっちの方だろうか。
「俺のわがままで色々動いてもらっているし、頼むのは構わないが……そんなに急ぎなのか?」
パキラを見ていると急いでいるのはわかるが、本国から取り寄せるとなるとかなり時間がかかるだろう。
もちろん大きさにもよるけど……。
「出来れば三日で準備して欲しい。大きさは猫がつけるから、首輪に着けて邪魔にならないくらいのチャームがいいな」
切羽詰まった様子で言うから、人にあげるものだと思っていたが……まさかの猫とは。
でもパキラが仲良くしている猫って確か――
「十八歳のフランチェスカか!」
あまりの驚きに大きな声が出てしまい、思わずパキラに頭を叩かれた。
「うるさい……。アイツがカルミアの姉、カトレアが何をしているか探ると言うから……少しでも魅了魔法にかからないようにと思っているんだ。もちろんカトレアが魅了魔法を使えると決まった訳ではないが……念には念を、だよ」
そういうことだったのか。
なんか色々勘ぐって申し訳なかったが……。
十八歳のフランチェスカ。
いくら猫の形をしていても、フランチェスカとパキラが仲良くなっていることに、少しモヤモヤしてしまう。
「なるほどな……俺もこれからはエディと呼ぶようにしよう……」
「なんか言ったか?」
心の中で思っていたことが、どうやら口に出ていたようだ。
俺は何でもないと返し、早速黒曜石を取り寄せることにした。




