パキラからの贈り物。
「おかえりにゃのにゃ。その変身魔法……ずっと使えるにゃか?」
そういえば、パキラが人の姿になったところは見たことがない。
そう思った私は、不思議に思っていることを聞いてみた。
「あぁ……そんなこと気にしていなかったが……今のところは制限がないな……」
制限なく使えるのは便利だな、と思っていると、パキラは鼠から猫の姿へと戻った。
鼠の姿も可愛かったが、やっぱり黒猫の方がパキラらしい。
「カフェで二人の話を聞いてきたが……重要な話はしていなかったな。ただ、カルミアは王太子を金蔓くらいにしか思っていなさそうだった」
一度言葉を区切ってから、パキラは続ける。
「あと、『計画は順調』と言っていた。……その言い方が、妙に引っかかるんだ」
確かに、計画については気になるところだ……。
あまりカトレアに近寄りたくはないが……一度、どこに行くか見ておいた方がいいだろう。
「カトレアがどこに行くか……見てくるにゃ!」
「そんなことして大丈夫か。なんだか心配しかないんだが……」
「見た目は猫にゃし、大丈夫にゃ!それに、何しているか分からにゃいと止めようがにゃいにゃ!」
少し怖いが、カトレアの前では普段からきちんとした猫を装っている。
声が聞こえているわけではないだろうから、大丈夫だと思いたい……。
「はぁ……何言っても変わらなそうだな……これは俺からの助言だ。お前もフランチェスカなら人付き合い苦手そうだからな……まずは懐に入り込め」
猫になって、フランチェスカだったことを忘れかけていた。
だが確かに、私もフランチェスカだった……。
今まで散々「変われ」と言ってきたが……自分も変わらなければいけない。
「わ、わかったにゃ……懐に入り込むにゃ」
「あぁ……あと、三日後にこの場所に来れるか?お前はすぐ突っ込んでいきそうだからな。懐に入り込むにしても三日後にしてくれ」
確かに……パキラに言われなければ、すぐに突っ込んでいくところだった。
「三日後にゃね。わかったにゃ」
カトレアについていけば、もしかしたら宰相を見つけることもできるかもしれない。
それに、大帝国トライフルが絡んでいるのだとしたら、カトレア一人でやっているとは思えないのだ。
パキラと三日後に会う約束をして、今日はお開きとなった。
***
そして、あっという間に三日が経った。
猫になって思うことは、毎日があっという間だということだ。
フランチェスカだった時は、王宮に行っても公務や王妃教育ばかりで、自分の時間も取れなかった。
そのせいか、毎日が長く感じていた。
貴族院に通い始めてからも、ほとんど一人でいたからか憂鬱でしかなく……一日が全然進まなかったのを覚えている。
それに比べて――
最近のフランチェスカは、毎日楽しそうに貴族院へ向かっている。
ダリアとは上手くいっているようだ。
私はフランチェスカと別れて、パキラと約束した場所へ向かった。
「パキラ。三日ぶりだにゃ」
「おお、来たか!エディ」
パキラに走って近寄ると、パキラもゆっくりと近づいてくる。
まだ時間も早いということで、王宮の様子を見に行ってみようということになり、早速二人で向かった。
「にゃ、にゃんか……雰囲気というか空気が……」
思った以上の空気の悪さに、眉間に皺が寄る。
「あぁ、これはかなり悪化しているな……」
パキラも同じように感じたのか、いつもより目が鋭くなっていた。
黒猫で三白眼。
もともとつり目なのが、さらに鋭くなっている。
ここにいるのが相当嫌なのだろう。
「これは魔法にゃ?」
「あぁ……恐らくカルミアの魅了魔法が蔓延しているんだろう。自分でコントロールできないと、魔力が暴走してしまうことがあるんだが……」
魔力が暴走……?
私はそんなコントロールをしたことがない。
お父様たちは見えないところでしていたのかもしれないが……。
首を傾げていると、パキラが簡単に説明してくれた。
「この国だと魔力を持っている人の方が少ないからな……魔法には種類がある。常時発動型、随時発動型、一時発動型だ。俺のは随時発動型。その場その場で変身できる。変身したら、解除するまではそのままだ」
確かに、パキラは自在に姿を変えている。
「吾輩は……一時発動型かにゃ?」
「そうだな。エディの家族もそれに近い。一度発動したらそのままだが、魔力を垂れ流しているわけではない。一時的に使って過去に戻っているから、一時発動型がしっくりくるな」
パキラの説明を聞くに、随時発動型や一時発動型は、魔力コントロールがそこまで必要ないらしい。
だが、常時発動型の場合は――違う。
コントロールしないと、周囲に影響を及ぼす。
「これだけ蔓延しているということは……カルミアは常時発動型で、魅了魔法がコントロールできていないということかにゃ?」
「そういうことだ。……これ以上ここにいるのは危険だ。一度外に出よう」
急いで王宮から離れると、先ほどの空気が嘘だったかのように、澄んだ空気が戻っていた。
「エディ……」
「なんにゃ?」
立ち止まって振り向くと、パキラが少し言いづらそうにしていた。
「三日前にここに来いと言っただろ?」
「覚えてるにゃ。だから来たのにゃ」
「すまない。そういう意味じゃないんだ。これ……やるから持ってろ」
少し顔を背けながら差し出されたのは、小さなチャームだった。
妙に可愛らしく見えるのは、猫だからだろうか。
ほんのり顔も赤い気がする。
「チャームになっているから首輪につけておけ。何かあった時に守ってくれるはずだ。……あと、カトレアのこと。無理だけはするな」
半ば押し付けるように渡すと、「今日は帰る」とだけ言って、パキラは去っていった。
せっかく貰ったし、このチャームは帰ってからフランチェスカにつけてもらおう。
そう思いながら、私は急いで家へと戻った。




