カルミアとカトレア
先日の会議が終わってから数日。
私はいつものように王宮を目指していた。
猫の姿になって数年。
最初は猫の足だと遠いなと感じていたものの、今では慣れてきたようで、そんなふうに思うことはなくなっていた。
「パキラ!」
少し進んでいくと、パキラが歩いてきた。
「エディか。この間はありがとな。エディの家族も魔法が使えたなんて、少し考えれば分かったものを……この国の人は使えないイメージが強いからか、全く気にかけていなかったんだ」
「いいにゃ。それよりも何していたにゃ?」
首で向こうを見ろと指してくるので、パキラが見ていたものを確認する。
「まさかこんなに早く尻尾を出すとは思わなかったが……カトレアとカルミアが一緒にカフェに入っていった」
カトレアとカルミア。
少し髪の色は違うが、雰囲気はそっくりだ。
見たところ義姉妹だが、仲も悪くなさそうだ。
「そういえば、カトレアの母親は今何してるんだろうにゃ……」
カトレアの話は出るのに、その母親――大帝国トライフル出身の人物については、ほとんど触れられていない。
「大帝国トライフルに戻ったのだろうか。そこももしかしたら調べてみた方がいいかもな。エディはここで待っててくれ。俺は二人の話を聞いてくる」
そう言うと、パキラは猫から鼠へと変身した。
そのままカフェの排水溝へと入っていった。
影というだけあって、どうやらこういう仕事には慣れているようだ……。
少しだけ、猫以外の姿になれるパキラが羨ましいと思ったのは言うまでもない。
***
「それで、この間は何の仕事だったんだ?」
「フランチェスカ嬢の父親たちに会ってきた」
正直にエリオントに話すと、エリオントの声がいつもより低くなるのは分かっていた。
「は?」
「はぁ……エリオントの思っているようなことは何もないから安心してくれ。実はエーデルワイス。フランチェスカ嬢が連れていた白い猫は……フランチェスカ本人なんだ。と言っても、十八歳で処刑されたフランチェスカが猫になったらしいんだが……」
この話をすると、やたらとフランチェスカという名前が出てくるから頭がおかしくなってしまう。
もちろん聞いている方が、だ……。
エリオントも脳の処理に時間がかかっているのか、まったく話そうとしない。
「フランチェスカであって……フランチェスカではないということか……?」
「確かにそう思った方が分かりやすいかもな。フランチェスカの家は元々魔法が使えるそうなんだ……」
とりあえず理解したという体で話を進める。
フランチェスカについて。
処刑について。
この国の今後についてなどだ……。
「他の未来では……この国はなくなっているらしい。そしてやはり、すべての責任を負わされていたのはフランチェスカだったそうだ。それを助けるために、フランチェスカの父親たちが動いているんだ」
「な、なるほどな……。とりあえず分かったのは、フランチェスカは処刑される。ほとんど時間はない、ということだな」
エリオントの言葉に、俺は頷く。
そしてもう一つ。
カルミアに義姉がいて、その人がカトレアという名前であることも伝える。
「カトレア……どこかで聞いたことがあるような気がするが……。俺の方でも調べてみよう。お前はまず宰相の行方と、カルミアたちが何をしようとしているのか調べてくれ」
こうして見ると、フランチェスカのことで皆が動いているな。
フランチェスカ本人は能天気に何も考えていなさそうだが……。
エディはエディなりに頑張っているが、元がフランチェスカだから所々ふわふわしている。
あの父親たちが頑張っているのも、何となく分かる気がした。
いつも通り、黒猫になって街を歩いていると――
カルミアと、カルミアに雰囲気がそっくりな人物がカフェに入っていくのが見えた。
しかもそのタイミングで、後ろからエディの声が聞こえる。
エディに首であっちを見ろと伝えると、気づいたのかカフェへ顔を向けてくれた。
エディと猫のまま行くのもいいかと思ったが、何か失敗しそうな気がした俺は一人で、声が届く距離へ向かう。
「お義姉様。最近どうなんですか?」
「あの計画? 大丈夫よ。失敗してないわ!」
「なら良かったです……」
「貴方こそ、あの王太子とどうなの?」
「見た目は好みじゃないんですけど、なんでも買ってくれるんで、そこはありがたいですね。お義姉様は……?」
「家は……何かに勘づいてそうだし、好きじゃないもの。今は少しでも成功率を上げるために、ただ大人しくしているだけよ」
二人の話を聞いていると、他愛のない会話ばかりのようだ。
暗号になっていたら分からないが……。
聞いている限りでは、金の話と恋愛の話ばかりだった。
そして最後まで――宰相の話は一切出なかった。




