どうやら普通の猫ではなかったようです。
私とフランチェスカは顔を見合わせた。
「「えええぇぇぇえ!!(にゃぁぁぁぁぁ!!)」」
「え、え、エーデルワイスが、しゃ、しゃ、しゃべった?」
まぁ、名前のセンスは別として、私の話す声が聞こえたということだろうか……。
私は試しにフランチェスカに話しかけてみる。
「何話してるか分かるにゃ?」
フランチェスカは落ち着こうとしているのか、何度か深呼吸をしてからこくりと頷いた。
「え、えぇ。分かるわ。猫と話せるなんて夢みたいだけど……これは夢じゃないのかしら……」
自分がフランチェスカだった時は、こんなに話していただろうかと思うくらい、よく話すフランチェスカ。
フランチェスカに爪を少し立ててから、
「これが痛かったら、夢じゃにゃいにゃ」
「痛いから夢じゃないのね!」
目をキラキラさせながら猫と話せるなんて、と喜んでいる姿を見ると、怒る気にはならなかった。
だって、このままいけばこの子は、親にも婚約者にも裏切られるのだから……。
「貴様は今、にゃんしゃいにゃ?」
見たところ学院に行く前か、行き始めたあたりかなと感じたけど、合っているだろうか……。
「まだ十五歳だけど、今年十六歳になるわ!」
私が思っていた通りの年齢で合っていたようだ。
貴族院に通い始める頃なら、まだ色々間に合いそうな気がする。
まずは、私がフランチェスカだったことを伝える必要がある。
猫が話すことに戸惑っている様子はないし、信じてくれるかもしれない。
もし信じてくれないなら、信じるまで言い続けるしかないだろう……。
私は意を決して、フランチェスカに話し始めた。
「そうにゃ。貴様に大事にゃ話があるにゃ……」
「何かしら……?」
「じつは……吾輩は十八歳のフランチェスカなのにゃ!!」
ここは時差があるのだろうか……。
私が一言伝えてから少し経って、「え?」と返ってきた。
目をぱちくりしながら、人差し指を自分に向けたり、私に向けたりを繰り返している。
「えっと……エーデルワイスが私で、私がエーデルワイスで……エーデルワイスは十八歳の私?」
「そうにゃ!!」
頭の中で整理しているのだろうか、フリーズしている。
自分のアホ面を見て、思わず笑ってしまった。
でも、考え事をする時はいつもこうだったなと、少し懐かしくなる。
それにしても、ちょこちょこ話し方が変になるのは、猫だから仕方ないのだろうか……。
「な、な……何となく理解はできたわ。それでエーデルワイスは、なんで十八歳でその姿に……?」
思ったより飲み込みが早いのは、若いからかもしれない。
「ふむ。吾輩は……処刑されたのにゃ!」
処刑された理由を簡単に伝えていく。
婚約者であるオルテンシア王太子殿下と、これから貴族院で出会うだろうカルミアに陥れられたこと。
弁明の余地もなく、そのまま処刑台に連れていかれたことを話した。
「私の味方は……」
「いにゃいにゃ。味方だと思っていた家族は、最後は軽蔑の眼差しでこちらを見て、罵詈雑言を言いたい放題だったからにゃぁ」
「そ、そう……そうなのね……でも何となく分かるわ。お父様もお母様も、本当のことを隠すのが上手だから、何を考えているのか分からないもの……」
たしかに昔からそうだ。
表では仲の良い夫婦を演じているし、仲の良い家族に見えるように気をつけている。
でも実際、家の中ではお父様とお母様が話すことはほとんどない。
お父様は仕事一筋。
お母様はお茶会に忙しい。
お兄様はお義姉様にしか興味がなく、弟は部屋からほとんど出てこない。
「でも心配はいらないのにゃ。これからは吾輩が貴様についていてやるにゃ!」
私が処刑されずに生き残るには、処刑対象から外れなければならない。
そのために、猫でも考えられることを考えた。
「まずはその性格にゃ! いつも自信なさそうにゃ所から矯正してやるにゃ」
いつも下を向いて謝ってばかり。
どんどん背中が丸まっていくことで、自信もなさそうに見える。
まずはそこを改善することで、自ずと突破口も見えてくるだろう。
「わ、わ、分かりました。処刑は嫌ですもの。私もエーデルワイスと一緒に頑張りますわ!」
こうして、私とフランチェスカの特訓がスタートした。
***
――フランチェスカは、エーデルワイスと話せるようになってから数日が経ったことを、未だに現実味をもって受け止められずにいた。
未だに「私の十八歳の姿」と言われても、本当なのか半信半疑だ。
いつの間にか、エーデルワイスは長いという理由で「エディ」と呼ぶようになっていた。
そしてエディは、なぜか私のことを「貴様」と呼ぶ。
そう、いくら言ってもこの呼び方だけは直らない。
自分のことは「吾輩」だし……。
因みに、他の家族にはエディの声は聞こえていないらしい。
「にゃー」や「シャー」としか聞こえないようだ。
「貴様。学園にいるあやつには気をつけるにゃ」
鼻をクイッと動かして示した先――
そこにいたのは、同じクラスのカルミア・パンナコッタ男爵令嬢だった。




