真夜中の約束。
パキラと別れてから家に帰ると、フランチェスカがものすごい勢いで近づいてきた。
「エディ! 遅かったじゃない。もう外は真っ暗よ……心配するから、もう少し早く帰ってきてよね」
確かにパキラと話し込んでいたこともあって、いつもより帰りが遅くなってしまっていた。
「気をつけるにゃ」
心配をかけたことを申し訳なく思い、ぺこりと頭を下げると――
「今度から気をつけてくれればいいのよ」
そう言って私を抱き抱え、そのままスタスタと部屋に戻っていくフランチェスカ。
いつもならここでお説教があるのだが、今日はすごく機嫌がいいみたいだ。
「何かあったのにゃ?」
「エディ、聞いてくれる? 私、友達が出来たのよ!」
友達?
確かに作るようには言ったが、こんなに上手くいくものなのだろうか。
正直、今はパキラと話したことで頭がいっぱいで、思考が追いついていない。
「友達ってダリアにゃ?」
「えぇ、そうなの。昼食をいつも通り一人で食べていたら、その前をたまたまダリアが通ってね。それで、お互い独り言を言っていたら、たまたま話が噛み合っちゃって……」
一人で昼食、しかも独り言。
聞いている側からすると少し寂しい感じがするが、フランチェスカは楽しそうに話している。
あえて水を差さない方がいいだろう。
「良かったにゃ。それで何か話は聞けたのかにゃ?」
「あまり時間もなかったし……ただ、お互い婚約破棄って大変ねって話と……あとはダリアのお友達の話ね。フィオーレ様という方がいるんだけど……」
フランチェスカの話によると、フィオーレとダリアは最後、仲違いしたままだったらしい。
ダリアは、ずっと頭にモヤがかかったような状態だったという。
……恐らく、カルミアの魅了魔法だろう。
「ありがとうにゃ。とりあえずまた今度話を聞くにゃ。今日は疲れたから休むにゃ」
フランチェスカはまだ話し足りなさそうだったが、私は頭の整理が追いついていなかった。
一旦この場の話は切り上げ、クッションの上に丸くなって眠る体勢を取った。
***
色々なことを考えている間に、日々は刻々と過ぎていき――
あっという間に、パキラと約束した日になった。
もともとはフランチェスカの処刑を回避しようというところから始まったものが、国が絡んでどんどん大きくなっている気がする。
「ここまで来たら、乗りかかった船にゃ。沈没しにゃいように頑張って漕ぐしかないにゃ」
「何が乗りかかった船なんだい? フランチェスカ?」
一人でガッツポーズを取っていると、後ろからお兄様が声をかけてくる。
どうやら近くにカトレアはいないようで、ほっと息をついた。
「あぁ、カトレアか。卒業パーティーの二ヶ月前くらいから、昼間はどこかに行っているんだ。本人曰く、孤児院のボランティアらしいけどね」
お兄様の顔を見るに、ボランティアというのは嘘なのだろう。
「で、エディはどうしたんだい?」
カトレアの話で上手く逸れるかと思っていたが、どうやらそんなに甘くはなかったみたいだ……。
「お兄様。今日、いつもの時間に一人、お客様を招待したにゃ……」
お兄様の顔をちらちら見ながら話していると、いつもあまり目が開かないお兄様の目がギラリと光った。
「へぇ。エディ、ひとつ聞こう。その客人は信用に足る人なのかい」
確かに、私たちの魔法の秘密は誰にも言っていない。
他の人に知られれば危険なのも分かっている。
それでも――今まで何度も助けてくれたパキラを、私は信じたい。
「お兄様も会えば分かるにゃ。大丈夫だにゃ」
まっすぐに目を見て伝える。
お兄様はしばらく見つめたあと、ため息をついた。
「……わかったよ」
***
「エリオント。今日の夜、出かけるから」
「お前が夜遊びなんて珍しいじゃないか。どこへ行くんだ?」
エディと話してから数日が過ぎ、とうとう約束の日になった。
エディのことはここ一年くらいの付き合いだが、嘘がつけず素直な性格なのは分かる。
だが、それでも夜中に来いと言われると疑ってしまうものだ。
まだ昼間ならいいが……。
「夜遊びじゃない。仕事だ。帰ってきたらその内容については話す。影もいるし大丈夫だろうが……気をつけろよ」
「仕事か……まぁいい。パキラも気をつけろよ」
エリオントと少し話したあと、俺は部屋を出た。
街灯はついているものの、家の明かりは消え始めており、いつも以上に閑散としていた。
外に出て少しすると、猫の姿へと変身する。
「ふっ……黒猫だけに、闇に溶け込んで、これじゃあ気づかれそうにないな……」
思わず小さく笑う。
フランチェスカの家は、エリオントに調べろと言われた時に把握していたため、迷うことなく辿り着いた。
夜中に訪れたと知られたら怒られそうだな、と思いながら進んでいくと――
家から少し離れた場所に小屋があり、灯りが漏れていた。
「ここか……」
軽く跳躍し、扉に手をかける。
ゆっくりと扉が開いていく。
「待ってたにゃ……パキラ」
そこにはエディと――見知らぬ三人の男が立っていた。




