パキラ・クラフティ。
パキラに「18歳のフランチェスカ」だと話しても、最初は飲み込めていなかったようだが、話していくうちに少しずつ理解してくれたようだ。
そして、やたらとこの国のことに詳しくて驚いた。
調べるのが得意でないと、ここまで情報を集めるのはなかなか難しいだろう。
「パキラ……吾輩は話したのにゃ。お前は何者にゃ?」
もしかしたら、パキラも私と同じように猫になって巻き戻ったのだろうか……?
いや、あの驚き方を見るに、それはない気がする。
「あ、あぁ……そうだったな。俺はパキラ・クラフティという。エリオント・サントノーレ殿下の側近の一人だ」
サントノーレ国。
大帝国トライフルと並ぶ大国で、この国を挟んで両隣に位置している。
「もしかして……」
「あぁ。エディが思っている通りだ」
サントノーレ殿下が留学しているのは知っていたが、知見を広げるためというのは建前だったらしい。
「サントノーレ国と大帝国トライフルの間にあるパネットーネ国。トライフルがパネットーネ国を手に入れようと画策しているらしい。我が国としては、それは望ましくない」
確かに、パネットーネ国が緩衝地帯として存在していることで、二国間の衝突は抑えられているのだろう。
サントノーレ国は国民を大切にし、他国とも協力しながら発展してきた国だ。
一方、大帝国トライフルは軍事国家。
小国は幾つも侵略され、亡国となってきた。
恐らくトライフルは、ついにパネットーネ国にも目をつけたのだろう。
そして、いずれはサントノーレ国にも――。
「それでパキラは、猫なのに諜報活動を頑張っているんだにゃ」
「あ、いや……違うぞ? 俺は人間だ。ただ猫に変身しているだけだ」
ずっと頭のいい猫だと思っていたけど、違ったらしい。
……ということは、私の声は他の人にも聞こえているのだろうか。
今までかなり喋っていたから、少し不安になってくる。
「そうにゃのか……ずっと猫だと思ってたにゃ。もしかして……吾輩の声は人にも聞こえているにゃ……?」
「俺が猫の時はエディの声も理解できるが、普通の人間には、よく鳴く猫にしか聞こえていないはずだな」
にゃーにゃーよく鳴く猫。
「立派なれでーに対して失礼にゃ!」
パキラをぽこぽこと叩くと、パキラはただ笑っているだけだった。
「れでーって……クク……あと、その取ってつけたような語尾と吾輩呼び。ずっと気になってたんだよ。クク……」
元の私の話し方ではないと、自分でも分かっている。
だが、何度練習しても最後に「にゃ」がついてしまうのだから仕方がない。
「まぁ、その話は置いておいて……ここからは真面目な話だ。エディは今、どのくらい情報を持っている?」
ふざけている場合ではないと思い出し、私はお兄様たちから得た情報も含めて話し始めた。
「カルミアだけど、姉が一人いるにゃ。その人が、今話していた大帝国トライフルと関係があるにゃ」
カルミアの姉の母親が、大帝国トライフルの公爵令嬢だったこと。
国を追放された後にカルミアの父と出会い、カトレアが生まれたことを伝える。
「パキラの話を聞いて、追放が本当か分からなくなったにゃ。もし何年もかけてトライフルが準備していたとしたら……狙われた可能性もあるにゃ……」
カルミアの家は、おそらく昔から家系魔法が使える。
祖父の絵が他国に出回っていたなら、魅了魔法の存在も知られていた可能性がある。
「カルミアに姉がいたのは初めて知った。確かにトライフルなら鑑定魔法を扱える者もいるだろう。……追放ではなく、意図的に送り込まれた可能性もあるわけか。で、その姉はどこにいる?」
「う、う……家にいるのにゃ。お兄様の嫁にゃ……」
気まずそうに答えると、パキラは呆れたように「は?」と声を上げた。
「こ、これには深い事情があるにゃ。その件については……」
私から説明するより、お父様たちから話した方が早い。
そう判断して、次の休みの真夜中に来てほしいと伝えた。
「真夜中? なんでだ?」
「来たら分かるにゃ! とりあえず猫の姿で頼むにゃ。フランチェスカの家は分かるにゃ?」
貴族街の中心にあるため、場所はすぐに分かるはずだ。
「おそらく大丈夫だが……真夜中というのはどのくらいだ?」
「皆が寝静まった頃にゃ。少し奥に進むと小屋があるのにゃ。草陰に隠れていて見つかりにくいかもしれにゃいけど……蝋燭の光が漏れていると思うにゃ。そこに来てほしいにゃ」
パキラは少し不安そうな顔をしたが、私の目を見て嘘ではないと理解したのか、ため息をついた。
「分かった。次の休みだな」
頷くパキラ。
正直、お父様たちと引き合わせるのは不安が残る。
だが――もう、なりふり構っていられる状況ではない。
とりあえず今日は遅くなってきたので、一度家に帰ることにし、パキラと別れた。




