婚約破棄…これで回避ができるとは思えないにゃ…。
卒業パーティーから切り上げて帰ってきて、はや数日。
フランチェスカは婚約破棄されたこともあって、以前よりも明るくなっていた。
それだけじゃない。
今まで同じ家にいても話そうとしていなかったお母様と、話すようになったのだ。
私も、自分がフランチェスカだった時のことを思い出す。
あの時は――お母様がいくら励ましてくれていると分かっていても、なかなか話を聞けなかった。
正論だと分かっていても、それが逆に傷ついた心に染み込んでいくというか……そんな感じだった。
「これで処刑はないわよね。だって婚約破棄したんだもの」
今にもスキップしそうな勢いで話しかけてくるフランチェスカ。
確かに婚約破棄だと王太子は言ったが、私には一つだけ懸念があった。
国王と王妃は、それを承諾していないということだ。
「1つ確認にゃ。パーティーの時、国王と王妃はいなかったのにゃ?」
例年通りであれば、卒業パーティーは国王と王妃が出席する決まりになっている。
普通なら、そこまでの大事に国王や王妃が出てこないのはおかしい。
「そう言えば、座って見ているだけだったわ……」
そこだ。
婚約破棄の話まで出てきているのに、座っているだけで終わるものだろうか……?
そして、これで本当に処刑は免れたのか。
私は不安でしかなかった。
***
家の中が寝静まった頃。
毎月恒例となった執務室へ向かうと、お父様たちが集まっていた。
「エディも来たし、早速始めようか」
お父様の言葉に、皆が頷く。
「今日、婚約破棄についての書類を受理してもらおうと王城に行ってきた」
婚約破棄できて嬉しいはずなのに――お父様の顔が、すべてを物語っているようだった。
「やはり受理はされなかった……。国王たちは『私たちは聞いていない。フランチェスカの聞き間違いではないか』の一点張りでね」
そう簡単に上手くいくとは思っていなかった。
それでも、国王たちがここまで頑なだとは……。
「やっぱりにゃ……近くにいた人の証言は……?」
首を横に振るお父様を見る限り、証言は取れなかったのだろう。
そもそもこの国の貴族は、国王の意見は絶対という空気が強い。
国王が見ていないと言えば、見ていないことになるのだ。
しかも国王も王太子も、気に食わないとすぐ癇癪を起こす。
……関わりたくないと思うのも無理はない。
「とりあえず婚約破棄はすぐには無理そうだ。フランチェスカが喜んでいるところ悪いが……明日伝えるよ」
そう言ったお父様の背中が、ひどく小さく見えた。
その重くなった空気を断ち切るように、お兄様が口を開く。
「時間が無いから話すね。エディに言われてから宰相のことを調べていたんだけど……宰相が国王の仕事をすべて行っているようなんだ。まぁ、フランチェスカと同じ感じだろうね……もしかしたら、それ以上かもしれない」
王宮に何度か足を運んだけれど、宰相だけは見つけることが出来なかった。
「宰相の家族も、ここ2年ほとんど家に帰ってきていないと言っていた。でも大事な夜会や会議の時だけは見かけるんだ」
2年前――。
「フランチェスカが貴族院に行き始めたころにゃ……」
「そう! そこだ。フランチェスカが貴族院に行っている間、王宮に軟禁状態で仕事をさせられている可能性が高い。場所までは特定できていないけど……恐らく国王の仕事に加えて、王太子の仕事も押し付けられている」
それは十分あり得る話だった。
宰相は、王宮で見かけるたびに疲れ果てた顔をしていた。
……思い出すだけで、胸が重くなる。
「宰相なら、今までの国王の蛮行も証言してくれる可能性が高い。もう少し探ってみる」
「吾輩も王宮をもう少し探してみるにゃ。それと、お兄様にもうひとつお願いにゃ。公爵子息に本当は婚約者がいたのではないか、調べて欲しいにゃ」
「分かった。調べてみよう」
お兄様と視線を交わし、互いに頷く。
「だいぶ話が固まってきたところで、最後に僕だね」
そう言って、ブラオベーレが書類を取り出す。
「ごめん、実はそこまで深くは調べきれていないんだ」
そう言いながらも、その書類には多くの情報が記されていた。
そして一番上には――
『誰が聞いているか分からないから、読んだらこの場で燃やして欲しい』
と書かれている。
「カルミアの魔法だけど……」
ブラオベーレは書かれている内容とは別のことを話し始める。
……周囲へのフェイクだろう。
お父様たちはその言葉に頷きながら、書類に目を通していく。
私も必死に読み、頭に叩き込んでいく。
そこに書かれていたのは――
カルミアとカトレアが姉妹であるという事実だった。
カルミアは正妻の子。
カトレアは愛人の子。
そしてカトレアの方が年上――つまり、愛人の家に入り浸っていた可能性が高い。
さらに、その愛人は――大帝国トライフルの公爵令嬢。
王妃の座を巡る争いに敗れ、国を追放された人物だった。
そこで出会ったのが、パンナコッタ男爵。
当時はまだ家督を継いでおらず、自由奔放に生きていたのだろう。
二人は恋に落ち――カトレアが生まれた。
他にも様々な情報が記されていたが……。
とりあえず必要な部分だけは、しっかりと頭に刻み込んだ。




