処刑されたと思ったら…?
「あら、起きたのね!」
「にゃ……ぁ?」
――声が、出ない。
口を開いたはずなのに、聞こえてきたのは間の抜けた鳴き声だった。
喉が変だ。舌の感覚もおかしい。
(なに、これ……?)
キョロキョロと辺りを見渡す。
その瞬間、違和感に気づいた。
――視界が、低すぎる。
匂いがやけに強い。
音も、やけに鮮明に聞こえる。
足の裏に触れる床の感触まで、妙にくっきりしている。
(おかしい……何かがおかしい……)
そう思っていると、目の前に見慣れすぎた顔がこちらを覗き込んできた。
「大丈夫?」
「シャァァァ!!」
反射的に威嚇する。
……いや、今のは私がやったの?
目の前の女性に優しく持ち上げられる。
――私が、軽すぎる。
この女性、少し幼いながらもどこかで見たことある顔だ。
いや、見たことないわけがなかった……。
だって――
どこからどう見ても、先ほど処刑されたはずの私自身だったからだ。
(……待って)
じゃあ、私は今――どこにいる?
「エーデルワイス! どうしたの?」
「|にゃーにゃににゃにゃー《エーデルワイスってなんだ!》」
言葉が、通じない。
何を言っても「にゃー」しか出てこない。
降ろしてほしくて暴れると――
視界の端で、何かが揺れた。
(……え?)
もう一度動く。
――しっぽ。
「エーデルワイス。降ろすから落ち着いて!」
床に降ろされた瞬間、私はガラスへと駆け寄った。
そこに映っていたのは――
白い、小さな猫。
「なぁぁぁぁぁぁ!」
***
一週間前くらいだろうか……。
どこから現れたのかは分からなかったけれど、急に目の前に白い猫が現れた。
少し痩せてはいたものの、毛並みもツヤツヤしていて、野良猫という感じには見えなかったのを覚えている。
お父様たちにお願いして、ここで飼ってもいいか聞くと、渋々といった感じではあったが許可を出してくれた。
「白いし、あなたは私に持っていないものを持っていそうだから……エーデルワイスなんてどうかしら……」
「にゃぁ……」
気に入ってくれたのか、私の足に体を擦り付ける。
花から名前を取るなんて安直すぎるかもと思ったけれど、この白い猫を見ていれば勇気をもらえる気がした。
「よかったわ! 気に入ってくれたのね。これからよろしくね、エーデルワイス……」
鼻の頭を人差し指でツンっと押すと、「にゃぁ」と返事が返ってきてとても可愛い。
エーデルワイスが家に来てから、逃げる様子もなく、お気に入りのクッションの上で日向ぼっこをしていることが多い。
一週間も経つと、周りの家族もエーデルワイスがいることに慣れてきたのか、撫でたり抱っこしたり、一緒に遊んだりしていた。
「ねぇ、エーデルワイス。明日から貴族院が始まるのだけど、友人はできるかしら……」
「にゃぁ」
自分の手を舐めながら返事をするエーデルワイスを見て、そんなちっぽけなことを考えているのが少しバカらしくなってきた。
「そうよね。まぁ、できなかったらできなかったで前向きに行きましょう」
少し不安な気持ちを心に押し込めていると、エーデルワイスは「つまらない話なら寝るぞ」とでも言うように、クッションの上で丸くなって寝始めた。
「ごめんなさいね。せっかく貴族院に行くんだもの、楽しまなきゃ損よね」
エーデルワイスを撫でながら話しかけると、フンッと鼻を鳴らしながら、仕方がなさそうに片目だけ開けてこちらを見てから目を閉じた。
白い柔らかい毛並みに、青い目をしていて、見た目はとても可愛らしい猫なのに、なぜか性格はふてぶてしい。
「本当は小さい人が中に入っているんじゃないかとか思ってしまうけど……きっと気のせいよね」
寝ているエーデルワイスを撫でていると、首にある鈴がチリン、と鳴った。
「あら、起きたのね?」
「にゃぁぁ!!」
さっきまで静かだったのに、急に大きな声で鳴き出す。
一体、急にどうしたのかしら。
「大丈夫?」
「シャァァァ」
エーデルワイスの顔を覗き込むと、私の顔を見て少し固まったあと、急に騒ぎ出した。
「エーデルワイス……どうしたの?」
両脇を掴んで持ち上げると、じたばたと足を動かす。
今は宙ぶらりん状態だから、怒っていても全く怖くなくて、とても面白い。
「と、とりあえず降ろすから落ち着いて? ね?」
そう言って床にそっと下ろしてあげると、外を見てまた大きな声で鳴いた。
そして鳴く直前、またチリン、と音が鳴った。
「にゃんだってぇぇ!」
可愛らしい声がエーデルワイスから聞こえる。
その言葉は鳴き声ではなく、人が話す言葉だったのだ。
私も思わず、
「なんだってぇぇ!?」
と返したのは言うまでもない。




