エーデルワイスは王宮を冒険する②
国王たちのところにいても、これ以上の情報収集はできないと感じた私は、次なる目的地――オルテンシア王太子殿下のところへ行くことにした。
「エディ。次はどこに行くんだ?」
「王太子殿下のことを見に行くにゃ」
この間いた東の庭園にいなければ、まだ寝ているかもしれない。
大人しく執務をしているなんてことはないだろう。
私は日の出とともに執務をさせられていたというのに、本当にどこまで行っても屑な野郎だ。
王太子の寝室は確か……この庭園が見えるどこかの部屋だったと記憶している。
一階ということはないだろうから、二階の角の部屋あたりだろうか。
「パキラ、以前ここにいた男の顔は覚えているにゃ?」
「あ、あぁ……覚えているけど何するんだ?」
角部屋であれば、ちょうどこの木の上から見えるだろうが、昔から高いところだけは苦手だった。
塀の上であればまだ大丈夫だったが……それ以上の高さになると降りられなくなってしまう。
「にゃらよかったにゃ。パキラ、この木を登ってほしいにゃ。あの部屋のあたりに男がいるはずにゃ……頼んだにゃ!」
ウィンクをしながらパキラに頼むと、パキラは「なんで俺が……?」と言いながら仕方なさそうに登りだした。
ぴょんぴょんと軽々登っていくパキラは、さすが猫というところだろう。
しばらくすると、パキラが木の上から降りてきた。
「どうだったにゃ?」
「あ……あぁ。まだ眠っていたが、この間の男もいたぞ」
少し歯切れが悪そうに答えるパキラ……しかも今、「この間の男《《も》》いた」と言っていた。
「他にも誰かいたのにゃ?」
「い、いや、誰もいなかったぞ……」
そんなにどもって返事しているのに、誰もいなかったということはないと思うのだけど……これ以上聞くのもなんだかかわいそうだなと思って、それ以上聞くのはやめた。
「まだ寝ているにゃら、これ以上見てもしょうがないにゃ。次は宰相がどこにいるか探しに行くにゃ」
宰相は恐らく、もう出勤している時間だろう。
少し細身でモノクルを付けていて、口ひげが印象的なおしゃれなおじさんだ。
そんなに悪い人という印象はなかったけれど、人は見かけによらない……確か、グラニータ公爵という名前だったはずだ……。
「宰相? なんでエディはそんなこと知っているんだ!?」
パキラが不思議そうにこちらを見る。
何か探っているような目だ……。
前から思っていたが、パキラも私と同じように猫ではないような気がしていた。
恐らく……敵ではないと思うのだけど、今すべてを話すのは得策とは言えないだろう。
でも、このまま何も話さずにいるというのも無理な話だ……。
私は一言だけ、嘘にはならないことを伝えた。
「そ、それはだにゃ……信じてもらえないかもしれないが、吾輩は猫だけど飼い主とだけ話すことができるんだにゃ。それで色々教えてもらったのにゃ……」
「はぁ……今はその言葉を信じよう」
まだ少し疑っていたようだけど、それ以上深追いしてくることはなかった。
そのあと少しパキラとギクシャクしたものの、すぐにいつもの調子に戻って、いつも通り話せるようになった。
「今日は宰相がいないようだから、あきらめて帰るにゃ……」
色々見て回ったが宰相を見つけることができなかった私は、王宮を出て貴族院に向かうことにした。
***
「今日は随分と離れていたようだね、パキラ。それで何かわかったかい?」
「あぁ……エリオント。遅くなってすまなかった」
今日は前もって、エディを探して一緒に行動することを伝えていた。
いつもフランチェスカ嬢と一緒にいるはずのエディが今日は来ていなかったのを見て、もしかしたらそのまま王宮に向かったのではないかと、俺も急いで王宮へと向かった。
王宮に着いて一通り見て回ったが、エディを見つけることができず、もしかしたら道に迷っているのではないかと、王宮周辺の町を回ってみることにした。
少し歩いてみると、白い猫がなぜか王宮から離れていく姿が見えた。
声をかけてみると、どうやら王宮に向かうはずが逆走してしまっていたようだった。
二人で王宮に戻ると、色々な場所を探索する。
まずは国王と王妃、二人のところだ。
二人の話を色々聞きながら「愚王だにゃ」と言っている姿に、思わず笑ってしまった。
「そうだな。国王は愚王だということと、その息子もまた愚息ということは分かったよ。フランチェスカ嬢と結婚させようとしているのも、何も言い返さず仕事をしてくれるからに過ぎないようだ」
見たことをそのまま伝えると、エリオントは手を強く握りしめていた。
「まぁ、今のフランチェスカ嬢は昔とは違うし、断りそうだけどな。あとはオルテンシア王太子殿下だが……やはりカルミアと肉体関係を持っていたよ。要するに浮気だな……見たのは俺だけだったから、エディはその姿を見ていないが……こういったとき記録できる魔法とかが使えると便利なんだが……ないのが残念だ」
エリオントは何を思っているのか、次第に眉間にしわが寄っていく。
「そうか……どうにかフランチェスカ嬢とオルテンシア王太子殿下を別れさせることができないか……少し考えてみるよ」
そう言うと、ぶつぶつ言いながら自分の部屋に戻っていった。
もう一つ、エディのことを伝えておきたかったのだが……そのことよりも、今はフランチェスカ嬢のことなんだろう。
俺も今日あったことをまとめておこうと、自室に戻った。




