ブラオベーレとの一時。
「吾輩は貴族院には行かないのにゃ! フランだけでいってきてくれにゃ。」
「あら、珍しいわね。わかったわ。エディも何をするか分からないけど無理はしないでよ。」
フランチェスカが貴族院に向かう姿を窓から見送り、私はブラオベーレの所に向かった。
ブラオベーレとフランチェスカは二つ歳が離れているため、次の春から学院に通うことになる。
それまではお父様たちの手伝いをしたり、貴族としての教育を受けたりしているはずだ。
ブラオベーレの部屋の前に着くと、カシャカシャと扉を軽く引っ掻く。
ガチャリと扉が開くと、キョロキョロと当たりを見渡すブラオベーレ。
猫の私には気づいていないようなので、「にゃぁー」と鳴いて伝える。
「な、なんだ。エーデルワイスか……。」
扉を広めに開けてくれたので、ブラオベーレの部屋に入り込んだ。
「あ、あ、姉上。来る時は来ると言っておいてください! 吃驚するじゃないですか!!」
「この手で手紙なんか書ける訳がないにゃ。だから無理なのにゃ。」
伝える手段が何かあればいいけど……今のところフランチェスカにも内緒で動いている訳だし難しい。
「そうでしたね……。それで、姉上がこの時間に屋敷にいるなんて珍しいですよね? どうしたんですか?」
前の話し合いの時のことを忘れてしまったのだろうか。
「忘れたのかにゃ? カルミアと義――」
「あー!! 思い出しました。」
急に大声を出して話を遮ってくるブラオベーレ……一体なんなんだ。耳がキンキンする。
「あ、姉上。その話はここでは難しいのです。この家の中のメイドには……カトレア義姉上の手引きした者が多くいるのです。夜中なら何とか巻けますが、この時間はどこで聞き耳を立てているか分かりませんので静かにしていてください。」
小さい声で、しかもすごい早口で耳打ちしてくる。
確かにカトレアお義姉様が来てからメイドの数が増えていたとは前から思っていたけど、カトレアお義姉様が連れてきているのは知らなかった。
「そうにゃのにゃ……じゃあどうするのにゃ……」
「僕はこの後少し外に出る用事があります。その時に馬車に乗ってください。メイドなど連れていく予定はないので、お話できるかと……」
それだけ伝えるとブラオベーレは部屋から出ていく。
私も後を追うようにして部屋から出た。
***
朝早く、扉をカシャカシャと引っ掻く音が聞こえる。
扉を開けて周りを見ても誰もいなかったので、誰かがぶつかっただけだろうかと扉を閉めようとしたら、下から「にゃぁぁー」という猫の声が聞こえた。
どうやらカシャカシャしていたのは姉上だったようだ。
少し扉を開いてあげると、姉上は部屋の中に入ってくる。
何をしに来たか聞いてみると、姉上は以前話した時のカルミアとカトレア義姉上のことについて聞きに来たそうだった。
エーデルワイスとしての姉上の声は幸いなことに「にゃぁー」としか聞こえないので良いが、僕の声は周りに聞こえてしまう。
そして何より、カトレア義姉上がこの家に連れてきたメイドの数も多いため、話を聞かれるのは非常にまずかった。
小さい声で馬車の中で話しましょうと伝えると、姉上はわかったとでも言うように頷く。
僕は父上たちに出かけてくることを伝えると、家を出て馬車に乗った。
「姉上、お待たせしました。」
姉上は馬車の椅子にちょこんと座って、「待っていたにゃ……」と話しかける。
馬車で話すにもあまり時間はないため、少しゆっくり目に走ってもらいながら、僕は姉上に以前の話を伝えた。
僕たちは今回で五度目、時を渡っている。
もちろん過去に戻るには色々制約があるのだが……
「兄上が一度目に結婚した相手。それはダリア・パンドーレ侯爵令嬢でした。」
ダリア義姉上と兄上は少し歳が離れていたものの、とても仲のいい夫婦だった。
「ダリア義姉上はお姉様と同じ歳だったと記憶しています。そして義姉上は……姉上の片棒を担いだとして一緒に処刑されたのです。」
「まさか……吾輩以外にも、処刑された人がいたのにゃ……。」
僕は姉上の言葉に頷き、続きを話す。
兄上と王太子殿下は同じ学年で、関わりはそこまでなかったものの、王太子殿下の粗暴ぶりについては理解をしていたそうだ。
「一度目は二人が処刑されたあと、すぐに三年前に戻りました。そして兄上は巻き込まないようにとダリア様との婚約破棄を申し込みました。そのせいかダリア様が処刑されることは回避できたのですが、今度は姉上一人にすべての罪が被っていたのです。」
そして、二回目、三回目、四回目の結果は変わりませんでした……。
「しかし、我々もその間何もしていないということではありません。カルミアとカトレアには血縁関係があるということまでは突き止めました。」
そしてこの処刑にはパンナコッタ家が関わっているということも……
「そこで見張る意味もこめて兄上はカトレア様と結婚をしたというわけです。」
でもきっと兄上は今でもダリア様のことが好きだろう。
それは見ていてわかる。
本当であればダリア様の卒業と同時に結婚する予定が……すべてパンナコッタ家のせいで壊されてしまったのだ。
「すみません。あまり時間がなかったので僕ばかり話してしまいましたね……」
「大丈夫にゃ! 教えてくれてありがとにゃ。吾輩もこの後行きたいところができたにゃ。」
それだけ言うと姉上は扉から出て駆けていった。
「本当に姉上には猫の姿が似合うな。囚われの花嫁よりそっちの方がよっぽどいいよ。」
なんて思ったことは、自分の心の中だけに閉まっておくことにした。




