カルミアはどこに行ったのか……
オルテンシア王太子殿下が現れてから、カルミアがパッタリとフランチェスカの前に現れなくなっていた。
お兄様たちの話によれば、以前もオルテンシア王太子殿下が学園に現れた後あたりから、カルミアの動向が分からなくなったと言っていた。
根拠はないが、異性ならかかりやすい……ということが本当であれば、もしかしたら以前のお父様たちも、カルミアの動向を探っている間に魔法にかかっていた可能性があるのではないだろうか……。
お父様たちは演技だったと言っていたが、演技にしては少し度が過ぎていたようにも思わなくはないのだ。
もしこの世に絶望していたことで、自分だけ時を渡らず生を終えていたと考えると、過去三回についてはその可能性が高いと思う。
「お父様、お兄様、ブラオベーレには伝えておきたいことがあるにゃ。カルミアには近寄らないようにしてほしいにゃ。」
第二回家族会議が行われた際に、お父様たちには伝えておいた。
だから恐らく近寄ってはいないと思うけれど……カルミアから寄ってくる可能性もあるので、少しだけ不安があった。
「ちょっと遠いけど、王宮の方に行ってみるかにゃ……」
フランチェスカの授業中、カルミアの教室を覗くと、やはり授業を受けている気配はなかった。
少し遠いが、王宮に足を延ばしてみることにする。
こういう時、馬車が使えないのは難点だ。
けれど猫であれば細い道も通りやすいので、その点はありがたい。
門を出て一匹で歩いていると、パキラが私の前に現れた。
「エディ。久しぶりだな。どこに行くんだ?」
「パキラはまた迷子かにゃ? 私は今から、あそこに見えるお城を見に行こうと思っているのにゃ。」
今はパキラに構っている時間はない。
軽くあしらっていると、少し考えてから「危ないから俺も行こう」と後ろからついてきた。
猫の姿で王宮に向かうのは初めてだし、一人で行くより二人の方が楽しいだろう。
そう思い、並んで王宮へ向かうことにした。
王宮のあたりまで来ると、さすがに人でにぎわっている。
「おい。そっちに行くと人の波に飲まれるから危ないぞ。」
そう言って、さりげなく道沿いへ誘導してくれるパキラ。
すごく紳士な猫だ。
「ありがとにゃ。パキラは何か用事があって貴族院のあたりを歩いていたわけじゃないのかにゃ?」
「特に。ただ放浪していただけだし、エディが気にすることじゃない。ほら、王宮に着いたぞ。」
少し遠かったが、何とか王宮にたどり着くことができた。
もしかしたらパキラがいなかったら、もっと時間がかかっていたかもしれない。
……このあと貴族院に戻るのがとても大変だけど。
「では名探偵エーデルワイス! いってまいりみゃすにゃ。またにゃのにゃ、パキラ。」
パキラに挨拶をすると、私は木を登って王宮の中に潜り込んだ。
この姿になってから初めて王宮に潜り込んだが、フランチェスカの時は何度も来ている。
大体どのあたりにオルテンシア王太子殿下がいるのかは分かる。
この国の王族は、国王と王妃、そしてオルテンシア王太子殿下しかいない。
子供に恵まれず、やっと生まれたのが王太子殿下で、しかも一人だけ。
そのため皆に甘やかされて育った。
「今までといるところが変わらにゃければ、恐らく……」
東の宮殿で、よく令嬢たちを集めてお茶会をしていたのを思い出す。
よく考えれば、あの頃から人に仕事を任せてばかりで、本人はお茶会ばかりしていた人だ。
もしかしたら、はじめはその中にカルミアが混ざっていたのではないだろうか……。
「やっぱりいたにゃ……」
予想は、当たっていた。
「なにがだ?」
独りでつぶやいていると、後ろから声をかけられる。
「にゃ!? びっくりしたにゃ。パキラは帰ったんじゃなかったのにゃ!?」
「少し心配だったからついてきたんだ。で、誰がいたんだ?」
さっき別れたつもりでいたから、まさか後ろからついてきているとは思わなかった。
パキラが同じ方向を見ながら問いかけてくるので、この国の王太子殿下と、それを囲む令嬢たちがいることを伝えた。
「あの王太子殿下は飼い主の婚約者にゃのにゃ……」
パキラに伝えても分からないかと思ったが、これまでのことを軽く話す。
パキラは頷いていたが、内容までは理解できていないだろう。
そう思い、話を切り上げて再び王太子殿下を見る。
少し遠くから覗いていたため声はよく聞こえないが――
よく見ると、カルミアがいる。
「カルミアにゃ……やっぱりここにいたのにゃ……」
この時点では、王太子殿下がカルミアを相手にしている様子はない。
けれど恐らく、あと半年もたたないうちに魅了魔法にかかるのだろう。
魅了魔法については、かからない方法を探す方が難しそうだ。
それならば、王宮の書類なども含めて、国が今どういう状況なのかを調べておく方がいい。
そう考えた私は、処刑に至る可能性を減らすため、しばらく貴族院には通わず、王宮に潜り込むことにした。
昔の状況については、お父様たちに聞けば分かることもあるかもしれない。
帰宅したら確認した方がいいだろう。
そろそろ貴族院が終わる時間に近づいてきたので、私は急いで戻ることにした。
なぜだか分からないけど、ずっとパキラが後ろからついてきていた。




