隣国の王太子。
「今日は黒猫に会ったんだにゃ。」
自分のことをあまり話さないエディが、珍しくあったことを話してから数日後。
私はいつも通り、貴族院に通う。
最近はカルミアが目の前に現れなくなって、とても静かだ。
カルミアに会ってから、オルテンシア王太子殿下も見なくなったから、もしかしたら二人で会ったりしているのかもしれないなーと思ったりしている。
以前の私であれば、うだうだ考えたりしていたかもしれないが、エディと出会ってからは、そういうことを考えるのが面倒になっていた。
「もしかしたら私もエディに似てきたのかしら。エディも元をただせば私なわけだし……」
お昼ご飯の時間になると、どこからともなく現れるエディが、今日はなかなか現れない。
もしかしたらカルミアとオルテンシア王太子殿下について何か探っているのかもしれないなーと思いながら、一人ベンチに座り、お昼のサンドイッチを食べていると――
急に、目の前に影が落ちた。
誰かが立っている。
「ここ、空いてる?」
「え、えぇ……空いていますが……」
そもそも他にも空いているベンチがたくさんあるのに、なんでここに座ろうとするんだろうか。
「じゃあここいいかな。君、いつもここで猫とよく戯れているよね。」
どうぞと返す前に、隣に座る。
確か、この方は……エリオント・サントノーレ殿下だったと記憶している。
サントノーレ国の第二王子で、私たちの住むパネットーネ国とは違い、魔法が発達している国から交流も兼ねて来ている。
魔法が使える国でも、魔法が使えない人が多く存在しており、そういった人たちがどのように生活しているのか、またその人たちのためにできることがないか、知見を広げるためでもあるそうだ。
「そうですね! なんだか不思議なんですけど、いつも学院に来るのに馬車に乗ってついてきてしまって。でも授業中はどこかに散歩でも行っているのか見かけないんですよね。お昼休憩や、学院から帰るときはいつの間にかベンチに来ていたり、馬車に乗っていたりするんです。すごい賢い猫なんですよ。」
猫と会話ができて、十九歳の自分だなんて言ったところで誰も信じてくれないだろうし、バレるわけにはいかない。
だから本当のことを織り交ぜながら話した。
決して嘘ではない……お昼時はいつもベンチにいるし、放課後は馬車に乗っているのだから。
「そうか。すごい賢い猫なんだな。家にも猫のような奴がいるが……見た目は人だからかわいさが足りないんだよ。」
猫のような人……って猫耳でもついているのだろうか。
それとも気まぐれとか、自由な人だったり、猫に性格が似ているということなのか……。
少し気になってしまった。
「そうなんですね! 猫っぽい方っていう時点で、とてもかわいい感じがしますけれど。エリオント殿下の周りは色々な方がいて、とても楽しそうですわ。」
少し笑いながら返すと、「やっぱり気づいていたか。」と返ってきたので、「はい」とだけ返した。
「その……フランチェスカ嬢はオルテンシア王太子殿下のこ、婚約者というのは本当かい?」
貴族院では私が婚約者だと知っている人ばかりだったから、意外な質問だった。
「そうですね。一応オルテンシア王太子殿下の婚約者です。一応……」
今は何とかして婚約破棄できないか考え中だし、婚約者の割に会うこともないから、実感がまったくないのだけれど……。
「一応?」
「はい、一応です。それではご飯も食べ終わりましたし、飼い猫も来ないようなので戻りますね。話し相手になってくれてありがとうございました。」
こういう時はあまり深く関わらない方がいいだろうと、そそくさと教室に戻った。
この時、構内に戻る姿をずっと見ていた人がいたなんて、知る由もなかった。
***
「もう少し話したかったんだがな……」
昼休憩に入ると、中庭を覗く。
いつからだろうか……中庭にいる女性が気になるようになったのは。
初めのうちはあまり明るい雰囲気もなく、どちらかというと暗い印象が多かった。
だが、それも最初のうちだけで、どんどん笑顔が増えていったように感じる。
どうやら今日は、いつも一緒にいる猫がいないようだった。
だから俺は、意を決して中庭にいる女性に声をかけてみることにした。
以前、パキラがフランチェスカ・アマレッティ嬢と言っていたので、名前を思い出しながら近づいた。
「ここ、空いてる?」
「え、えぇ……空いていますが……」
サンドイッチを食べる手を止めて答えてくれたところを見ると、優しい子なのだろう。
それにしても、他にもベンチが空いているのに話しかけるのは、少し馴れ馴れしかっただろうか……。
「じゃあここいいかな。君、いつもここで猫とよく戯れているよね。」
「そうですね! なんだか不思議なんですけど、いつも学院に来るのに馬車に乗ってついてきてしまって。でも授業中はどこかに散歩でも行っているのか見かけないんですよね。お昼休憩や、学院から帰るときはいつの間にかベンチに来ていたり、馬車に乗っていたりするんです。すごい賢い猫なんですよ。」
何も考えずに、中庭を見ていたことを口にしてしまったが、それについては深く気にしていないのか、フランチェスカ嬢も自然に話してくれた。
こうして近くで見てみると、見た目もすごくかわいらしい。
背丈は160cm前後だろうか。
髪は少しウェーブがかっていて、ヘーゼルナッツに似た色をしている。
遠くからでは気づかなかったが、太陽に当たると透き通っていて、とてもきれいだ。
そしてこちらを見る目は、薄いピンク色をしていた。
「そうか。すごい賢い猫なんだな。家にも猫のような奴がいるが……見た目は人だからかわいさが足りないんだよ。」
家に猫がいるわけではないが、しょっちゅう変身していたパキラのことを思い出していた。
そのあとも少し他愛のない話をしたが、やはり途中から俺がサントノーレ国の王子であることに気付いていたようだ。
フランチェスカ嬢にオルテンシア王太子殿下が婚約者なのか聞いた時、「一応……」と返ってきたのには驚いたが、その反面、校門前での出来事を思い出していた。
自分が見たわけではないが、周囲の者たちが二人はうまくいっていないのではないかと話していたのだ。
それ以上話をしたくないのか、フランチェスカ嬢はそそくさと構内へ戻っていく。
「これ以上はパキラの情報を待つしかないな……」
できれば早めに動きたいところだが、今は待つしかない。
そう思いながら、教室へ戻った。




