処刑。
薄い布一枚でできたワンピースを着せられ、外も見えない空間で今日も一日を過ごす。
ここに連れてこられて、何日経っただろう。
お父様やお母様、お兄様、お義姉様、弟は無事だろうか。
「いつになったらここから出られるのかしら……」
鉄格子の向こう側にいる衛兵に声をかけるが、聞こえていないのか反応すらしてくれない。
一体、私が何をしたというのだろうか。
ここに連れてこられる前は、お母様とカトレアお義姉様の三人で、紅茶を飲みながら談笑していた。
カトレアお義姉様とヴェーラお兄様の馴れ初めについて聞いたり、最近流行りのカフェの話をしたり――本当に他愛もない話だ。
そしたら急に、王太子直属の騎士団が家に入ってきた。
「フランチェスカ・アマレッティ。国家反逆の罪で捕縛する」
「え? 国家反逆?」
全く覚えのない私は、聞き返した。
なんの騒ぎだと思ったのか、お父様たちも出てきて、皆の表情が不安に駆られていく。
「そうだ。詳しい話は後で聞かせてもらおう。連れて行け」
騎士団長らしき人物が団員に声をかけると、二人の騎士が私の腕を掴んだ。
「詳しい話も何も……私、何も知りません! なにかの勘違いではないですか? お父様、お母様、お兄様! 私、何もしておりません。助けてくださいませ!」
国家反逆って、そもそも何をしたらそんな話になるのかすら分からない。
確かに王太子の婚約者ではあったけれど、ここ数ヶ月、執務が忙しいと王太子と会うことすらなかったのだ。
その割にこちらに回ってくる仕事の量が多く、ゆっくりお茶をする時間すらなかった。
お母様たちとお茶の時間が取れたのも、数ヶ月ぶりだったくらいだ。
「フランチェスカ……ずっと忙しいと言っていたのは……」
お父様が不審な目で私を見てくる。
「違います。オルテンシア王太子殿下の終わらない仕事を手伝っていただけです」
この言葉が琴線に触れたのかは分からないが、
「黙れ。悪女め! 白々しい嘘をつくんじゃない。証拠もあるんだ」
低い声で団長が発言したことで、周りの空気が一変した。
お父様たちは私のことを裏切り者を見るような目で見始め、騎士団の人たちは蔑んだ目でこちらを見てくる。
誰一人、信じてくれる人がいなかったことに、私は絶望した。
***
――そして、それから数ヶ月後。
私は処刑台の上に立っている。
「これより、フランチェスカ・アマレッティの処刑を行う」
「眩しい……」
久しぶりの太陽が目に刺さる。
手首を紐で縛られ、無理やり歩かされながら断頭台の上に頭を乗せられた。
家から連れていかれたあと、どこかで反論の機会を与えてもらえるのではないかと思ったけれど、そんな機会は一切なく、ただただ一人、暗闇の中で待つだけの日々だった。
婚約者であるはずの王太子殿下は一度も顔を見せることはなく、家族であったはずのお父様たちとも一度も会うことはなかった。
少しずつ太陽の光に慣れてきた頃、周りを見渡してみると、お父様たちがすごい形相で睨みつけてきていた。
「お前のせいで、俺たちは爵位を剥奪されたんだ。早くいなくなれ!」
「そうよ! 私たちの居場所を返してちょうだい!」
「お前のせいでカトレアが出ていってしまったんだ。どうしてくれるんだ」
「あなたが姉なんて信じたくもない。早く僕の前から消えてくれ……」
家族から投げかけられた言葉を聞いた瞬間、私に味方はいないのだと悟った。
その瞬間、お父様たちが大声で騒いでいても、何も聞こえなくなった。
音は聞こえているから、耳の機能が低下したわけではないのだろう。
ただ、家族に何も期待してはいけないのだと――形だけの家族だったのだと、身体が拒絶したのかもしれない。
もう、生きようとする気持ちすら、どこかへ消えていた。
「フランチェスカ・アマレッティ。お前には、つくづく愛想が尽きたよ」
一年以上、もしかしたら顔も合わせていない婚約者様が目の前に来る。
その横には、親友だと思っていたカルミアが立っていた。
「カ、ルミア……」
「久しぶりね、フランチェスカ」
二人は仲睦まじそうに肩を寄せ合っている。
恐らく王太子は仕事をしていると言っていたが、一切しておらず、ほとんど私に押し付けていたのだろう。
ちょうど一年くらい前からカルミアと会う時間が取れなかったから分からなかったけれど、二人はその間、逢瀬を重ねていたということなのだろう。
カルミアの笑顔が、すべてを物語っている。
カルミアは一歩、また一歩と近づいてきて、私のことを見下しながら耳元で言った。
「ふふ。残念だったわね……フランチェスカ。ここにあなたのものは何も残っていないわ」
私は猿轡を噛まされているため、何も言い返すことができず、睨み返すのが精一杯だ。
「オルテンシア。フランチェスカがすごい睨んでくるの。とても怖いから、早く終わらせましょう」
「そうだな。愛しいカルミア。では始めてくれ」
それだけ言うと、二人は私のもとから去っていった。
きっと最後に見た光景は、忘れることはないだろう。
カルミアが私にしか見えないように、
「サヨナラ。かわいそうなフランチェスカ」
と言って去っていったことは――。
数秒後、目の前が真っ暗になった。
「来世は、どうせなら自由な猫になりたいわ」
こんばんは、ゆずこしょうです。
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