第15話 土下座
騎士団たちが見ている前でキャンピングカーを出せば、さすがに騒ぎになるだろう。そう判断した俺は車を出せず、初めて屋外で夜を明かすことになった。
地面はゴツゴツとしていて寝心地が悪く、結局ほとんど眠れないまま朝を迎える。
日が昇るとすぐ、俺たちは城へ向かった。道中では携帯食なのか、やたらと硬い干し肉をかじりながら進む。そうしてようやくノロット王国に到着し、厳重な警備が敷かれた大きな城の中へと案内された。
「姫様、こちらで王様がお待ちです。では、私はここまでです」
王都に入り、騎士団長に案内されながら、レイが住んでいた城の中へと入った。長い廊下を抜け、重厚そうな扉の前で立ち止まる。
騎士団長は「仕事がありますので」と言い残し、足早にどこかへ行ってしまった。
俺とレイは王様のいる部屋へ入る。
――その瞬間だった。
高級そうな服を見に纏い、どう見ても王様なおじいさんが、スライディング土下座をしてきた。
「すいませんでしたああああああ!!!!!」
「え?」
「お父様、なにしてるんですか!?」
いや、こっちが聞きたい。
白いひげをたくわえ、威厳がありそうな老人が、床を滑りながら土下座。
俺は完全に思考停止していた。
レイは顔を赤くして俯いている。王様は勢いよく顔を上げ、俺を真っ直ぐ見てきた。
「誠に申し訳ありませんでした! うちの娘が、なにかご迷惑をおかけしていませんでしたか!!……いや、かけましたよね!? 絶対にかけましたよね!?本当にごめんなさい!!」
「え? え?」
情報量が多すぎる。
「お父さん! 私はマスターに迷惑なんてかけてませんよ!?」
「レイは黙っていなさい。お前は生まれてこの方、何かしらのトラブルメーカーだろう」
「ひ、ひどい……」
レイは露骨に落ち込んだ。
……うん、まあ、少しは自覚あるんだろうな。
「いやいや、まあ……迷惑は、かけられてます」
「やはり!!」
「でも、この世界のことを色々教えてもらいましたし……まあ、プラマイゼロって感じですかね」
「そ、それならよかった……」
王様は、心底ホッとしたような表情を浮かべた。
「お父様!! それより、なんで私たちをここに呼んだの!!私はこの家を出たんですよ!!」
「ふん、お前はまだ子供だ。父親に逆らえると思うな」
「そもそも、お父様が私の大事にしてたパンを食べたのが悪いんですよ!」
「小腹が空いていたんだ。それは悪かったと言っているだろう」
「悪かっただけで済むと思わないでください。代わりのパンを買ってくれないなら、私は許しません」
「一国の王がパンを買いに行くなど、恥ずかしいだろう。だから無理だ」
……なんで俺、王様の親子喧嘩を見せられてるんだ?
「じゃあ、もういい?」
「ダメだ。だから――」
王様は懐から取り出した袋を差し出した。
「レイの好きなパンを、大量に買ってきた」
「……え?」
袋の中には、明らかに異常な量のパン。
「ん……ん……まあ、これだけじゃ足りないけど……お父さんの頑張りに免じて、許してあげます」
「うむ」
レイは照れながらパンを受け取った。
王様も嬉しそうだが、照れくさいのか、ただ頷くだけだった。
「いや、執事とか使いの人に買いに行かせればよかったんじゃないですか?」
「それはダメだ。自分でやったことは、自分で解決しなければならない」
「へえ〜」
「そのせいでパン屋が騒然としてしまってな。無料で差し上げますと言われたが、金貨一枚置いて、即座に帰ってきた。……恥ずかしかったぞ」
急に、めちゃくちゃフランクになったな、この王様。




