第1話 キャンピングカーと異世界に
「あれ……ここ、どこだ?」
目の前に広がるのは、木々に覆われた荒れた森だった。
昨日まで確かにあったはずの焚き火台は影も形もなく、整備されたキャンプ場の面影はどこにもない。
しばらく、カレーの入った鍋を手にしたまま、その場で呆然と立ち尽くしていた。
「……夢、だよな」
そう思い、キャンピングカーに戻ってもう一度布団にもぐり込み、目を閉じる。
だが、目を覚ましても景色は変わらなかった。
これはもう、確信するしかない。
「異世界転生……だよな。やっべーな」
――俺は、25歳の佐藤築だ。
大学卒業後、IT系の企業に就職したものの、つい最近、その会社を辞めた。
いわゆるブラック企業だった。
終電を逃すことも珍しくない残業が日常で、それを三年間も続けていた。
なぜ、あんな環境で辞めずに働き続けていたのか……今となっては、自分でも不思議でならない。
残業が常態化し、疲れ切った日々を過ごしていたせいか、給料の使い道といえば家賃と食費がほとんど。
遊ぶ時間も、遊ぶ気力もなく、気づけば通帳の数字だけが順調に増えていった。
だからこそ、思い切って前々から欲しいと思っていた中古のキャンピングカーを購入し、こうしてキャンプ場にやって来たのだ。
しばらくは就職せず、このキャンピングカーで気ままに旅をしながら、擦り切れた心と体を癒す――そのはずだった。
「よし、夜ご飯の準備でもするか」
ナタで薪を割り、焚き火台に組んで火をつける。
パチパチと弾ける音が夜の静けさに溶けていき、それだけで少し報われた気がした。
キャンプといえば、定番はカレーだ。
道中で立ち寄ったスーパーで買ってきた食材を適当に切り、鍋に放り込んでいく。
薪を使った調理は初めてだったが、初めてにしては上出来だ。
米はビチャビチャだったが、それでも不思議と美味しかった。
湯気の立つ鍋を前に、満足感を噛みしめながら後片付けを済ませ、キャンピングカーの中で眠りについた。
――そして、翌朝。
外に出た瞬間、あの森が広がっていた。
状況を確認しようと森の中へ足を踏み入れた、その時だった。
緑色の肌に、木の棍棒を持った小柄な人型の魔物――ゴブリンが現れた。
「グギャアアアアアア!!」
「うわぁぁぁ!!」
目が合った瞬間、叫び声を上げて俺目掛けて走ってくる。
俺は一目散にキャンピングカーへと逃げ込んだ。
「ハァ、ハァ……あれ、ゴブリンだよな……。間近で見るとマジで怖ぇ……」
ゴブリンはキャンピングカーを見るなり逃げ出した。
だが、安心するのは早かった。
「……うわ、遠くでまだ見てるよ」
木陰から、仲間を連れたゴブリンたちがこちらを監視している。
外に出れば危険。
だが、食料は三日が限界だ。
どうやってこの状況を切り抜けるか――そう考えた瞬間、俺は自分が今、何に乗っているのかを思い出した。
「あ、そうじゃん!今、乗ってるのはキャンピングカーじゃんか!」
「うっし、ゴブリンとか、怖い魔物がいなさそうな場所へ移動するか」
エンジンをかけ、荒れた道を慎重に進み始めた。




