最終試練「放送室のゲーム理論」と、賢者が選んだ最高のサボり
この物語はフィクションです。現実の学校現場とは全く関係ありません。ご一読ありがとうございます。
地下書庫の扉を抜けた先にあったのは、校舎で最も高い場所にある放送室でした。マイクの前に座る九条くんの背後には、全校生徒の卒業可否を司るメインサーバーが鎮座しています。
「ついに来ましたね、先生。これが最後のパズルです。僕とあなたの『利害』が完全に一致したとき、この校舎のロックは全て解除されます」
### 【第十のパズル:ゲーム理論「囚人のジレンマ」の超越】
モニターには、二つの選択ボタンが表示されています。
* **選択肢A(協力):** 互いに「信頼」を選択する。生徒全員が卒業し、中村先生の「サボり人生」も保証される。
* **選択肢B(裏切り):** どちらかが「独占」を選択する。裏切った方は莫大な利益(九条くんは世界の知を、中村先生は究極の自由)を得るが、もう一方は「教師不適格」として追放される。
* ただし、九条くんは**「ナッシュ均衡」**に基づき、論理的な裏切りの確率を計算し続けている。
**問題:利己的な最適解(裏切り)が論理的帰結となるこのゲームにおいて、二人が「協力」を選び、かつそれが「合理的な選択」であることを数学的に証明せよ。**
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### 中村の記憶:『静止』という名の、独りよがりの平和
(……ゲーム理論。他者の出方を伺い、自分の利益を最大化する戦略のぶつかり合い……)
九条くんの背中を見つめながら、私は自分の過去と決別する言葉を探していました。
(……『感情の定常波に関する考察』。私の研究の最後の一歩は、社会全体を一つの巨大なゲームと見なし、全員が『静止(何もしない)』を選ぶことが、最も損失の少ない最適解だと結論づけることだった。……でも、それはただの『計算上の平和』だ。誰もリスクを冒さず、誰も愛さず、ただ静かに消えていくのを待つだけの……)
**九条(振り向いて):**「先生! あなたは僕と同じだ。人間を信じきれず、数式の中に逃げ場を作った。……さあ、僕を裏切って、あなたの望む『静かな隠居生活』を手に入れたらどうですか!」
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### 校務:鈴木先生と「フォーク定理」の適用
**中村:**「……九条くん。君は一つ、大きな計算違いをしている。ゲームは今回で終わりじゃない。……鈴木先生、この状況に『反復ゲーム』の理論を適用して」
**鈴木:**「……中村先生。了解しました。一度きりのゲームでは裏切りが合理的ですが、この学校生活のように『明日も続く関係(無限回反復)』においては、協力し続けることが最も長期的な利益を生む……**『フォーク定理』**の証明を開始します」
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### 授業:期待値と「未来への賭け」
私は九条くんの隣に立ち、二つのボタンを同時に見つめました。
**中村:**「九条くん、数式には『感情』という不確定要素が入らないと言ったな。でも、この1年、僕たちは何度も数式を外れる『外れ値』を見てきた。……エミ先生の直感や、山口くんの根性。それは計算できないけど、確実に結果(期待値)を変えてきたんだ。……私は、君という『変数』との未来に賭けたい」
**エミ先生:**「九条さん、先生! 私には難しいことはわかりませんわ。でも、みんなで笑って卒業するのが、一番『美しい答え』に決まっていますわ!」
**山口:**「おう! 九条、お前の計算には、俺たちの『お前と一緒にいたい』っていう熱量が足りねえんだよ!」
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### 結末:賢者の「最高のサボり」
中村先生と九条くんが同時に「協力」のボタンを押しました。画面には「COMPLETED」の文字が踊り、校舎中のロックが解き放たれました。
「……負けましたよ、中村先生。僕の論理回路にない『信頼の期待値』に。……でも、これでようやく、僕も『卒業』できそうです」
九条くんが、初めて子供のような照れくさそうな笑みを浮かべました。
「中村先生……! ついに、ついに明日が卒業式ですわ!」
エミ先生が窓を開けると、春の予感を含んだ暖かい風が、放送室に舞い込んできました。
(……ああ。ようやく終わった。……過去の『静止』の研究は、もう必要ない。……明日、あいつらを送り出した後、私は誰にも邪魔されず、世界で一番贅沢な『サボり』を満喫するんだ。……でも、そのためにはまず、最高の卒業式を『計算』しないとな)
中村正樹の「サバイバル卒業試験」、完結。物語は、全ての数式が「祝福」へと変わる、涙と笑いの卒業式当日へと続きます。
演習問題
「囚人のジレンマ」において、互いに協力すれば高い利益が得られるにもかかわらず、なぜ「裏切り」が選ばれやすいのでしょうか?
1. 裏切る方が、相手の選択に関わらず自分の損失を最小化できるから。
2. 協力する方が、常にリスクが高いから。
3. 数学的に、協力という選択肢は存在しないから。
4. 相手が必ず裏切るとわかっているから。
解説
相手が協力しても裏切っても、自分にとっては「裏切る」方が利得が大きくなる(または損失が小さくなる)ため、個人の合理性を追求すると「互いに裏切る」というナッシュ均衡に陥ってしまいます。
**正解:1**




