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情報主任、就任。それは破滅へのカウントダウンだった?

この物語はフィクションです。現実の学校現場とは全く関係ありません。

「……え、私が、情報主任ですか?」


山中高等学校、校長室。

目の前では、時代を数百年飛び越えてきたような和装の麗人、稗田あれ校長が、静かに茶を啜っていた。


「はい。中村先生。これからの時代、本校のような辺境の学び舎こそ、情報の力が必要なのです。……これは、私の『予感』でもあります」


予感。

この校長が言うと、それは単なる勘直感ではなく、確定した未来の宣告のように聞こえる。

私は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


(待て待て待て。情報主任? 2025年度のICT活用、GIGAスクール構想の深化、さらには新課程での『情報Ⅰ』の入試科目化……。そんな激務、ただでさえ数学の授業で手一杯な私に務まるわけがない。これは過労死……もしくは、ICT化に失敗して学校が潰れる、私の教員人生のバッドエンド(破滅フラグ)ではないか!?)


私は必死に、しかし平身低頭に抗った。


「校長、私はただの数学教師です。Excelで合計を出すのが精一杯で……(本当はVBAで自動化しているが、下手に言うと仕事を増やされる)」


「謙遜を。中村先生、あなたは数学という『世界の言語』を操る方。期待していますよ」


校長は微笑んだが、その瞳の奥には、数多の戦場を渡り歩いてきた者だけが持つ、逃げ道を塞ぐ鋭い光が宿っていた。


---


### 職員室という名の戦場


校長室を後にし、ふらふらと職員室に戻ると、そこにはすでに「運命の歯車」が待ち構えていた。


「中村先生、おめでとう。情報主任だね」


声をかけてきたのは、私の高校時代の恩師であり、現在は教頭の朝永秀樹先生だ。白髪混じりの短髪を揺らし、理知的で穏やかな笑みを浮かべている。


「朝永先生……おめでとう、なんて。私に務まるでしょうか」


「大丈夫。君ならできる。……ところで、さっそくなんだけど、教育委員会から届いたこの『校務DX推進計画書』の100ページほどある資料、目を通しておいてくれるかな? あと、校内のWi-Fiが昨日から一部繋がらないんだ。君なら『なぜだろう』と問い続け、解決してくれると信じているよ」


(丸投げだ。恩師が、教え子に笑顔で業務を丸投げした……!)


さらに、隣のデスクからは「カツ、カツ」と鋭いタイピング音が響く。

国語科の鈴木文先生だ。白いシャツに黒のサスペンダーという、いつもの戦闘スタイル。


「中村先生。情報主任になられたのなら、まずはこの、生徒たちの『リーディングスキルテスト』の結果を、学校独自の教育プラットフォームに統合するアルゴリズムを組んでいただけますか? 現在のNetCommonsの運用では、論理構造の可視化が不十分です」


「す、鈴木先生、それはまた追々……」


「追々? 中村先生。生徒の読解力低下は、人間社会の崩壊に直結する喫緊の課題です。時間は一刻を争います。……まさか、逃げるつもりではありませんよね?」


「AI先生」の異名を持つ彼女の眼差しは、私の脳内にある「サボり願望」というバグを正確にデバッグしようとしていた。


---


### 中村正樹の生存戦略


自席に座り、私は頭を抱えた。

教職員はわずか6名。生徒は10名。

しかし、この学校に集まっているのは、歴史の知恵者、物理学の探究者、多言語の天才、論理の鬼、そして筋肉の伝道師。


(まともなのは私だけか……?)


いや、違う。このまま彼らの要求をすべて正面から受け止めていたら、私は1学期が終わる前に灰になる。


「……やるしかない。ただし、**『最小限の力で、最大限に楽をするため』**にだ」


私が開いたのは、高知県の『授業づくりBasicガイドブック』。そして、無料のクラウドツール群。


「ICT推進なんて、要は自動化と共有化だ。私が何もしなくても、勝手に学校が回る仕組みを作ればいい。そうすれば、私は放課後、誰にも邪魔されずに数学の研究(という名の趣味)に没頭できるはず……!」


私は、まずは手始めに、職員室のホワイトボードに書かれた「今週の予定」を、Googleカレンダーに同期させる作業から始めた。


「よし。これで一歩、破滅(過労)から遠ざかったはずだ」


しかし、この時の中村はまだ知らなかった。

彼が「自分のために」行ったささやかな効率化が、この山奥の高校に、前代未聞の「教育革命」をもたらし、世界から注目を浴びる第一歩になることを。


そして、その様子を遠くから見つめる、一人のフランス人教師、エミール・ルモニエが、優雅にハーブティーを飲みながら呟いた。


「あら、中村先生。あの動き……まるで、混乱する戦場を一瞬で整える、稀代の軍師のようですわね」


中村正樹の、無自覚な生存戦略が今、幕を開けた。

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