宝くじが当たるかもしれないと思った話
俺が子供の頃、親父の話だ。
親父の職場に宝くじマニアがいたんだ。
どこの売り場が当たりやすい。
今度はどの組みに当たりがくるかとか予想して買っていた男だ。
そんな男に親父の同僚が宝くじを買ってくるように頼んだ。
『ついでに頼むよ。三枚ほど適当に買ってくれ。年末の縁起物だ』
『はあ、分かりました』
そしたら、当たったんだ。同僚の方が・・・
宝くじマニアは悔しくてたまらない。
『私が買ったから当たったものだ。権利がある!』
と騒ぎ初めて、職場は不穏な雰囲気になった。
同僚は、宝くじマニアを呼び出し。300万円ほど渡して。
『俺とお前の付き合いはこれで終わりだ!』
と宣言したそうだ。
それから、宝くじマニアは不運続きだ。新車を買った日に物損事故を起した。それも出社の時、皆の目の前でだ。
更に。
『私が買えば当たるのだ!』
とボーナス全て、生活費まで宝くじにつぎ込み。
最後は・・・・
職場の宿直中に外れた宝くじを燃やして、ボヤ騒ぎを起こしたのだ。
精神を病んで退職することになった。
・・・・・・・・・・・・・
「だからな。宝くじは決して他人に頼んではいけないぞ」
今日、初めて、宝くじが当たった人の話を聞いた。
そりゃ、ここは田舎だ。時々、あの人、宝くじが当たったと噂を聞いたことがあるが、
皆、ガセだった。
突然、店舗を改装して大きくなった和菓子屋さんに宝くじ当選の噂がたったが、
『え、店を大きくしたのは銀行から融資を受けたからだよ』
とか、
高級車を乗り回すようになった貧乏人の家にも噂がたったが、
『あのな。高級車を買ったのは、ほら、最近あるだろう。現金がなくても買える。買取り金額を予定してローンを組めるのだよ』
そんな話だったが、今日、二次資料レベルで聞いた。
俺は「はい、そうですね」と素直に返事をしたが、後輩の山本はやや反発をした。
「佐藤さん。うち、嫁の実家の人達と共同で買っていますが、そんなこと起こりませんね」
「ああ、そうか・・」
山本は話を斜め上に受け取って話の腰を折る傾向がある。
佐藤さんの話は、そういう話ではないはずだ。
不用意に宝くじを頼むのを戒める話だ。
ということで、逆を返せば、他人に頼めば宝くじ当たるのではないのか?
と思った俺は、他人の始りの家族に宝くじの購入を頼むことにした。
「・・・という理由で義姉さん。俺が金を出すから宝くじを買ってきてよ。儲けは折半な」
「『折半な』じゃないわよ。全く、物好きなのだから!宝くじの何を買うのよ」
結局、数字選択式の中で一番高額なロト7を買うことにした。週に一回抽選があって、一口300円だ。
それを5口買ってもらうことにした。
しかし、頼んで見て分かった。結構めんどい。
「ほら、買ってきたわよ」
「義姉さん。宝くじ写メした?」
「しないわよ!」
「だったら、俺が当たったか当たらないか分からないじゃん」
「当たったら言いなさい」
最も当たりやすいのは6等の1000円か、それもきちんと分けようと思っていたが、それすら当たらない。
それに、少し大きな買い物をしようとしても、当選金を誤魔化していると思われるのが嫌だ。
カーナビ良いの欲しいなとか思っても義姉の目が気になる。
それに、300円×五口×月4回=6000円だ。
6000円もあれば良いものを食べられるじゃないか?
結局2ヶ月ほど買って止めた。1000円すら当たらない。
結構当たらないものだな。
「あら、頼まないの?」
「うん。馬鹿らしい。今度、義母さんと一緒に食事に行こうよ」
と話はこれで終わったと思っていた。
☆☆☆会社
連休明け出社したら、ちょっとした騒動になっていた。
山本が来ない。
「大変だ。山本宝くじ当たったらしい」
「え、高額当選して会社ばっくれたのですか?」
「違うよ。100万円ほど当たったらしいけど、嫁さんに黙っていたそうだ・・本人の話では要領を得ない。何か知っていることあるか?」
「ああ、そう言えば、奥さんの実家と共同で買っていたと言いましたが・・・」
その後の調査で分かった。
お金を出し合って共同で宝くじを買い山本が管理をしていたが、個人で買った宝くじの方が当たったらしい。
しかも、共同で買っていた宝くじも山本の手元にあったから奥さんの実家は疑心暗鬼になったそうだ。
そりゃ、共同で買うときも個人で買ってはいけない。金に関わることは疑わしいでもアウトだ。
本当に山本が誤魔化したのかどうか分からない。
奥さんは、『信頼関係の問題よ』ということで別居になって、
今月、山本は独身寮に入った。大きな冷蔵庫を運んでいたな。
こりゃ、別居は長引いて離婚か?
宝くじ以外にも問題があったのだろうな。いかん。これ以上は憶測だ。
その後、山本は出社したが、
「山本君!何だね!その服は!」
「黄色です。黄色が金運を良くすると風水の先生が言っていました。宝くじ高額当選の前には当たりが続くとあったので・・・今度こそ億を手に入れます」
「今日は良いから帰りなさい」
おかしくなっていた。ホストのような黄色のスーツで出社していた。
もしかして、当たったら面倒くさい人に頼めば当たるのではないか?
と考えに至ったが・・・・
止めておこうと思う俺がいた。
最後までお読み頂き有難うございました。