第2話 除霊サークル
放課後の校舎は、
昼間の喧騒をすっかり失い、静けさが支配していた。
夕陽が窓から差し込み、
長い影が廊下をゆっくりと伸ばしている。
僕は歩きながら、
あの夜の出来事を何度も思い返していた。
突然現れた怪異、
そしてその怪異を一瞬で祓った少女
――月城遥。
彼女の名前が、頭の中で繰り返される。
「除霊サークル、
ゴーストバスターズ“副会長”――月城遥よ!」
その言葉が、
どうしても心に引っかかって離れなかった。
「あの子に、もう一度会いたい。」
そう思った僕は、
意を決して旧校舎の三階に足を運んでいた。
埃っぽい階段を一歩ずつ登り、
薄暗い廊下の奥にある古びた扉の前で立ち止まる。
扉の木目には、長年の風化が刻まれていた。
深呼吸をして、静かにノックする。
――コン、コン。
返事はすぐにはなかったが、
数秒後に扉がゆっくりと開いた。
「遅かったわね、新入生くん。」
扉の隙間から現れたのは、あの月城遥だった。
彼女は少しだけ微笑みを浮かべて、
僕を中へと招き入れる。
部屋の中は埃っぽかったが、
不思議な落ち着きを感じた。
壁には古びた本棚が並び、
除霊に使う札や道具がいくつも飾られている。
「ここが、除霊サークル
ゴーストバスターズの部室よ。」
僕は少し戸惑いながら言った。
「……サークル?」
遥は軽く頷き、続けた。
「そう。夜見ヶ丘高校に潜む怪異を見つけては、祓っている場所よ。」
「信じられないかもしれないけど、あの時の力は本物よ。これから少しずつ教えてあげる。」
声には、ほんの少しだけ明るさが混じっていた。
僕は胸の中にざわつく何かを感じながらも、
自然と頷いた。
「僕も手伝いたい。
君たちのこと、もっと知りたい。」
遥は静かに微笑んで、真っ直ぐに僕の目を見た。
「いいわ。その覚悟、歓迎する。」
その言葉に背中を押されるように、
僕は新しい日常への一歩を踏み出していた。
「まずは、サークルの活動に慣れてもらうわ。」
遥がそう言いながら、
部屋の隅にある古い地図を広げた。
「この学校は、普通の高校じゃない。怪異が多い場所で、ここ数年、特に怪しい動きが増えているの。」
彼女の指が、地図のある一点を指す。
「ここが怪異の多発地点よ。
私たちは、なるべく早く対処しなければならない。」
その話を聞きながら、
僕の胸の高鳴りは増していった。
「よし、明日は一緒に怪異の調査に行きましょう。」
遥の声に、僕は力強く頷いた。
これが、僕の“普通”が終わり、
“非日常”が始まる瞬間だった。