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第1話 怪異

不定期に更新します

僕は青柳 湊(あおやぎ みなと)


夜見ヶ丘高校(よみがおかこうこう)に入学してから、

まだ数日しか経っていない。

高校一年生だ。


転校生というわけじゃないけれど、

この町に来てからはずっと、

どこか居心地の悪さを感じていた。


それは、この学校のせいかもしれない。


「怪異が出る」だの、

「夜になると不思議なことが起こる」だの――


そんな噂話は、入学初日から耳にしていた。


信じてはいなかった。


けれど、心のどこかで

引っかかっているのも事実だった。


僕はごく普通の高校生だ。

好きなことはスポーツと漫画。

まだ友達は少ないけど、

これから増やしていきたいと思っている。


そんな僕の、普通の高校生活は――


放課後の、たった数分で壊された。



放課後の校舎は、

昼間の賑やかさが嘘みたいに静まり返っていた。


忘れ物を思い出した僕は、

誰もいなくなった廊下を歩いていた。


夕陽が窓から射し込み、

廊下の床を真っ赤に染めている。


コツ、コツ、コツ――


自分の足音だけが響く中、

なぜか背後に気配を感じた。


ふと立ち止まる。

けれど、振り返っても誰もいない。


気のせいか――


そう思って歩き出した瞬間だった。


――くす、くすくす。


耳元で、女の笑い声が聞こえた。


ゾクリと背筋を冷たいものが走る。


曲がり角の先、廊下の奥に、

制服姿の女子生徒がしゃがみ込んでいるのが見えた。


長い髪を垂らし、肩を震わせ、

すすり泣くような声を漏らしている。


どう考えても近づくべきじゃない。

だけど、足が勝手に動いていた。


「……大丈夫ですか?」


僕の声に、彼女はゆっくりと顔を上げた。


その顔は――真っ白だった。


皮のような何かで覆われ、

ぽっかりと空いた目の穴だけが、

黒く沈んでいる。


「みぃつけた……」


ぞっとするような声を発しながら、

そいつは音もなく立ち上がり、

まっすぐこちらに向かってくる。


逃げようとしても、体が動かない。


声も出ない。


ただ、冷たい恐怖だけが、

じわじわと全身を縛りつける。


そいつの手が、僕の顔に触れようとした瞬間――


「……まったく、放課後は怪異が活発になるって

知らなかったの?」


凛とした、けれどどこか冷ややかな声が響いた。


気づけば、すぐそばに立っていた女子生徒。


長い黒髪に鋭い眼差し、

制服の胸元には見慣れないバッジが光る。


「あなたは...?」


僕が困惑しつつ、聞く。


彼女は静かに手を掲げ、

高らかに告げた。


「除霊サークル、ゴーストバスターズ“副会長”

――(はるか)よ!」


そして、指を鳴らす。


「消えなさい。」


その一言で、

怪異は悲鳴を上げ、霧のように掻き消えた。


静けさを取り戻した廊下で、

彼女はふっと微笑んだ。


「ここはもう安全よ。安心しなさい。」


それだけ言い残し、夕陽に染まる廊下を

彼女はゆっくりと去っていった。


僕は、その背中をただ呆然と見送るしかなかった。


――放課後の、まるで夢でも

見ていたような出来事だった。

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