【文字の神様】3
カイルは、子どもの頃から体が弱かった。
そのため、責任ある立場には向かないだろうと、姉姫以上の期待をかけられることがなかった。王位継承権を持ちながらも、比較的自由に生きることを許されていた。
屋内で、体に負担をかけずにできるようなことをしているうちに、自然の流れで図書館に入り浸るようになった。
貪るように、本を読んだ。
最初は、物語がカイルを捕らえて離さない感覚があった。
だがやがて、カイルの関心は「文字」へと向かった。
(文字とは何者なのだろう。ただの線と線で表現したパターンであるというのに、よほどの悪筆であっても、ある程度の形にさえなっていれば、読める。色や音や形や匂いが表現できる。この世には存在しない、想像上の生き物の姿を他人に伝えることもできる。文字とは……)
過去に経験したこと、未来に起こるかもしれないこと。自分の頭の中にある様々なことを表現してしまえる、ただの線でしかないはずの「文字」とはいったいなんなのか。
本を読み、文章を追いながらも、カイルの心を占めるのは「文字」のことばかりになった。
これほど人間を左右できる存在は、ただものであるはずがない。
どう考えても「神」なのではないか?
文字の深淵に神を見出すカイルは「文字は神である」という文献を探し求めて禁書庫へと潜るようになった。
自分以外にも、必ずそう考えた人間がいたはずだ。文字というのは単なる道具であるはずがない。
得体の知れない何かだ。
その記述を探し求めているうちに、カイルは出会ってしまったのだ。
開いた本の中から、光とともに浮かび上がる文字。文字の向こうに何者かが立っていた。
それは邪悪な微笑みを浮かべて、カイルへと語りかけてきた。
お前はもう俺のものだよ、と。
そして、それまで「体が弱いから」「姉姫のようには生きられないから」と言われ続けてほんのりと自分の人生を諦めていたカイルに対して、呪いの詞を贈りつけてきたのだった。
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