【呪術師は今日も忙しい】1
「フィリスは、聖女なんだから! ああいうときこそ、体を張って立ち向かうべきじゃないの?」
今日も今日とて、いかにも手持ち無沙汰な様子で呪術部に顔を出したフィリスに対し、たまりかねたヘレンがド正論を口にする。
呪われし砂時計が禍々しい気配を放ち、その場に居合わせたものたちに厄災を起こそうとしていたまさにそのとき、フィリスがこそこそと逃げ出していたのを、ヘレンはしっかりと目撃していたのだ。
フィリスは、陶器のように白くつやつやした右頬に「ヘレンがどうにかするし」左頬には「ヘレンがどうにかなったらデルガト侯爵がどうにかするから」と書いた顔のまま、可愛く笑った。
「だって、あんなに怖い砂時計だなんて思わなかったんだもの。ことわざにもあるでしょう? 『パンはパン屋に焼かせるべし』って。呪いは呪い屋さんへ。聖女は聖女の仕事に邁進いたしますのよ」
目深くかぶったフードの影で、ヘレンは「だから、それがなんなのって言っているんだってば」と毒づく。
「聖女の仕事って、具体的に何しているの? 私、呪いのこと以外よくわからないんだけど、そこのところちょっと詳しく教えてくれる?」
三秒ほど間を置いてから、フィリスはわざとらしく両頬に両手をあてて「まあ!」と声を上げた。
「聖女といえば、言わずと知れた聖魔法の使い手ですわ。それはとてもありがたいものですのよ」
ここまで言えばわかるわね、と言わんばかりの自信満々の態度である。ヘレンは肩をすくめてみせた。
「フィリスが役に立っているところ、見たことがないのよ」
「ひどい暴言ね! 逆に私も言いたいんだけど!」
「逆にってなに? やだ」
ここぞとばかりに反撃しようとするフィリスに対し、ヘレンは「いやいや、いまはあなたの話です」と態度で示したが、通用しなかった。
「ヘレンこそ、普段何しているのよ? デルガト侯爵はあなたを奥の手扱いして、ヤバイ案件以外は後生大事にしまいこんでいるけど、王宮勤務で月給で働いているなら通常業務もしているのよね?」
「……研究とか」
「まあ、研究ですって!? じゃあその成果を見せてもらわなくちゃ!」
「なんでフィリスに? 雇用主でもないのに?」
「その言葉そっくりそのまま返すわよ。雇用主でもないくせに、私に対して『聖女らしいことしろ』って言ったのはヘレンでしょ? 私だってあなたに呪術師らしいことしろ、くらい言うわよ!」
……ええ? とヘレンは納得いかないぼやきをもらす。
しかし、押し切った感のあるフィリスは意気揚々として言うのだった。
「それじゃあ、早速見せてもらいましょう! 呪術師の一日を!」
※今回、エピソード単位ではなく随時更新となります!