トイレの花子さん完全版
ここはうどん市立もぐら小学校。の11階の11年15組の教室。放課後にマサくん、ポッくん、メョッくんが集まりました。
「オバオバオバオバオバ」
「オバオバオバ」
どうやらこの階に出るというトイレの花子さんの噂を確かめようとしているようです。
「オバー?」
「オバ」
おや、新しい仲間が加わりましたね。担任のくらげ先生です。くらげ先生は口が臭いので、ポッくんとメョッくんが帰りました。
マサくんとくらげ先生が女子トイレへ向かいます。この時間(86時9時7分)の廊下は夜マックが始まりそうなほど薄暗く、マサくんたちの不安を煽りました。
「オバ⋯⋯」
「オ?」
「オバオバオバ、バ!」
「オオ〜!」
ここまで来たものの、マサくんにはトイレに入る勇気がありませんでした。残されたくらげ先生は1人で入場します。
パンパパパーンツ♪
くらげ先生がトイレに立ち入る時は入場曲が流れるのです。ちなみにですが、マサくんが入る時も流れます。ポッくんの時も。メョッくんの時も⋯⋯
「オバオバ、オバオバ、オバオバオバオバオバオバ」
そう唱えながら、奥から1個目と2個目と3個目と4個目と5個目の個室のドアを7回ずつノックします。
「オバ⋯⋯?」
「オバ!?」
3個目の個室から女の子の声がしました。まさか花子さんが答えてくれるとは思っていなかったくらげ先生は驚きを隠せませんし、そもそも隠そうとしていません。丸出しです。
「オババ!」
扉を開けてくれた花子さんに、あらかじめ100均で買っておいた色紙とマッキーを手渡します。
「オバオバオバオバオバ⋯⋯?」
「オブ! オブ!」
ブンブン頷くくらげ先生。
「オバ⋯⋯」
ペンを握ったまま考え込む花子さん。サインを考えているのでしょう。恐らく初めてのことですからね。
「⋯⋯オ」
花子さんがついにペンを動かしました。
「オバ」
「オババ! オババ!」
色紙を受け取ったくらげ先生は嬉しさのあまり飛び跳ねています。色紙には小さく「バロー」と書いてありました。
ぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱち
「オバ?」
外から拍手が聞こえます。くらげ先生が振り返ると、そこにはマサくんとポッくんと花子さんがいました。
「オバ?」
また前を向くと、そこにはメョッくんがいました。
「ナンデ!?!?!?!?」
「オババ?」
メョッくんは知らない言語を喋るくらげ先生を見て困惑しています。
ぱちぱちぱちぱち
隣の個室から焚き火のような音が聞こえてきます。
「誰ヵマシュマョデモ焼イテンノカァ?」
鬼の形相でそう言いながらくらげ先生が隣の個室を開けると、メョッくんがマシュマロを握りしめた手を炎の中に突っ込んでいました。
「オバ!?」
ぱちぱちぱちぱち
またその隣の個室から変な音が聞こえてきました。
「誰ヵマシュマョデモ⋯⋯」
横断歩道の標識を彷彿とさせるポーズでドアに手をかける先生。
「焼イテンノカァ!!!」
ドアの前でそう叫び、手を洗ってトイレを出ます。今日は12月31日。近所の居酒屋で他の先生たちと大掃除をする予定があるのです。
「オバオバオバ」
「オバ」
「オババ」
マサくんたち3人がしりとりをしている前を通り過ぎると、トイレの前に駐めてあったスーパーカブに跨り、壁に向かって走り始めました。
18秒後、校内に「ドーン!」という轟音が響きました。
マサくんは「また世界のどこかで戦争が⋯⋯」と、ポッくんは「理科室のタピオカが爆発したのかな⋯⋯」と、メョッくんは「え? なんでバロー?」と思いました。
そして、いつの間にかいなくなっていた花子さん。
もちろん3人は彼女がトイレを出るところを見ていませんし、窓から出ようにもここは11階ですから地上3000メートルはありますし、昨日明日明後日は雨が降りますし⋯⋯フリマ寿司⋯⋯パリモ虫⋯⋯
怖くなった3人は「まぁ僕たちがくらげ先生に気を取られている間に逃げ出したんだろう」とぶるぶる震えながらトイレを出ました。
パンパパパーンツ♪
退場曲が流れます。
パンパパパーンツ♪
パンパパパーンツ♪
人数分流れます。
パンパパパーンツ♪
遅れてくらげ先生の分が流れます。
パンツ
これは花子さんの専用曲です。この曲だけプロの歌手が歌っています。
誰もいなくなったトイレには、ぱちぱちという焚き火の音だけがありました。
夜が明けて、朝が来ます。
日中のトイレは賑わいます。
手前から飴細工、からあげ、やきそば、ベビーカステラ、わたがし、フライドポテト、フランクフルトの全てを手に入れた男、ゴールド・ロ